歴史を知りたい一心でジッポー社に足を運び、 その歴史を紐解いた生粋のコレクター。

いま思えば、ジッポー・コレクションを始めたきっかけは、他愛のないものだった。万札をドルに両替するため、LA で買ったジッポーに惹かれたとは誰も思わないだろう。些細な動機でスタートしたが、ジッポー社の社史を根本から覆すような発見にも関わってきた。世界中のジッポー愛好家やディーラーにもその名を知られる収集家を紹介する。

両替目的の買い物が、ふりだしだった。

使い勝手だけではないライターの魅力に惹かれて集めてきた、20代から集めてきたオイルライターのごく一部を広げてもらった。欧州製オイルライターも数多く収集してきたが、今回はジッポーの魅力を中心に語ってもらうことにした。

「集まった数は正確には把握してませんが、5桁まではいかないと思います。おかげで狭い書斎はライターだらけ。ほとんど倉庫」と苦笑いするのは、ライターコレクターの渡部達也さん。まるで縁日の露天商のようだが、「自宅には広げられない」ことから、戦利品の「ごく一部」を別の場所に持ってきてもらった。

ライターコレクター・渡部達也さん/歴史的に価値がある個体の発見など、収集を始めて約30年でジッポーをテ ーマにしたストーリーが自分の中でほぼ完結。「いまはより幅広い歴史を持つ欧州のオイルライターを中心にそのストーリーを探求しています」

きっかけは、20歳のときLAのダウンタウンのホテルで買ったジッポーだった。といっても「欲しくて買ったわけではない」。持ち金のドルが底をつき、ブーツに隠し持っていた1万円札の両替に迫られた。が、生憎週末でエクスチェンジは休み。ホテルの売店で適当なものを1万円で買い、釣りをドルでもらうことにした。その適当な買い物がジッポーだった。

【コレクション1】釣り、ゴルフ、ボウリングなどが 描かれたモデルもかつて人気だった。’50年代末から’60年代末までの「スポーツシリーズ」。誌面の関係で紹介できなかったが、女性ボウラーと、メカジキが描かれた試作品も所有する。

「18ドルぐらいだったと思います。すぐ使うのかと訊かれたので、イエスと答えたら、オイルを入れてくれました」

まだ機内でタバコが吸えた時代だった。帰国便の機内でジッポーをいじっていたら、手に馴染んだ。

「いいなあ、これ」。そんな軽いノリで収集が始まった。

【コレクション2】使い込むと割れやすかったが、味わい深い宝物になるものも。七宝焼風の「タウンアンドカントリー・シ リーズ」のトラウト。下段右が’59年製の未使用品。他の使用済みは’47〜’48年製

その後渡米する度にジッポーが増えていった。’30年代の初期モデル。七宝焼風の「タウンアンドカントリー・シリーズ」。「スポーツ・シリーズ」など、ジッポー社の歴代モデルが集まっていった。

収集家には大きく分けて2種類いると思う。集めることに情熱を傾けるタイプ。収集だけでは飽き足らず、そのモノの歴史やストーリーを掘り下げるタイプ。この人の場合後者だ。ジッポーを買い漁りつつ、『LIFE』などに掲載されたジッポー社の雑誌広告なども集め、社史を調べ上げることにも情熱を注いできた。

【コレクション3】ジッポー社の誤った社史を掲載した雑誌も所有する渡部さん。創業の翌年(’33年)に初期モデルが製造された。ところが、 20年程前までは、創業年に生産したとジッポー社では信じられてきた。その旨が書かれた広告が’63年の雑誌『LIFE』に掲載された

ライターに限らず発売当時の雑誌広告は、時代背景や当時の風俗を知る上で貴重な資料となる。ジッポー社の雑誌広告に載っているモデル名や型番、製造年、価格を仲間と調査し、そのデータベースを’90年代前半に作成した。

しかも惜しげもなく公開したことで、世界中の愛好家やディーラーからも一目置かれる存在に。結果さらに貴重なライターや情報が集まるようになっていった。

幻といわれたモデルがある。’30年代中期、雑誌広告に掲載されたものの、本社も大半の愛好家もその存在とディテールを正確に確認できていないモデルだった。ある日海外のディーラーから連絡があった。「これが何かわかるか」という問い合わせだった。

【コレクション4・5】右が’33年のファーストモデル。その左が同年後期製。共に現行品よりも長いが、翌年から現モデルとほぼ同じサ イズに変更された。
ボトムにはロゴの他、本社ブラッドフォー ドPA(ペンシルベニア州)の 地名とパテント申請中の刻印がある

「まさにそれが幻のモデルでした。創業してまだ数年頃のジッポー社が、マサチューセッツの銀製品工房に外注したと推測される、ごく初期のスターリングシルバー・ケースです。仕事ではなく趣味だからこそ、モノも情報も集まってくる。これは不思議ですね(笑)」

社史も社員の物語も、モノが語ってくれる。

【コレクション6】創業年に輸入したと思われるライター。「創業者ブレイズデルが、創業年に輸入したものと思われるオーストリア製ライターを持っている写真があります。このライターこそ創業年に輸入した個体ではないか推測しています」

もうひとつの大きな発見とリアルタイムに遭遇したことがある。ジッポー社がいつ自社製品を製造・販売を開始したのかという歴史的事実だった。

長年ジッポー社では、「創業した32年から自社製品を生産した」と信じられてきた。実際その旨を謳った広告が’63年に制作されている。ところが、20年程前、創業年はオーストリア製ライターを輸入していたことを、渡部さんは仲間の愛好家達と、ジッポー社のリンダ・ミーボン女史とで突き止めた。

「本社に残されていたストアパッケージに、オーストリア製ライターの絵が描かれていました。もうひとつ、創業者がオーストリア製ライターでタバコに火を着けている写真も存在します」

それが創業年に輸入・販売されたと思われる0号ジッポーだ。その結果、自社製品が初めて生産された年が’33年へと改められた。

【コレクション7】旧いモデルも貴重だが、箱はもっと価値がある。「ライターよりもパッケージを探し出すほうが、難易度が高いんです」と渡部さん。これは’42〜’46年頃まで使われていたパッケージ。ちなみに’33年製や’35年製の箱も所有する

社員名簿も入手した。まだ従業員数がかなり少ない時代のものだが、その家族を訪ねて譲ってもらったライターもある。筆者はこれまでいろいろな収集家に会ってきたが、社員名簿を持っているという人にはお目にかかったことがない。

「ジッポー社主催のスワップミートで、従業員の家族からライターを何度か買ったこともあります」

【コレクション8】「レイからドロシーへ愛を込めて」 と刻まれた、愛のライター。ジッポー社のスワップミートで少年から購入した’36年製。レイがドロシーに贈ったと思われる刻印がある。青の塗料が残っているが、この塗料がはげやすかったことからすぐに発売中止になったいわくつきのモデル

そのひとつが、’98年に入手したもので、自宅に眠っていたジッポーを売りに来ていた10代の少年から買った’36年製モデルだ。「レイからドロシーへ愛を込めて」と刻まれていることから、レイがドロシーに贈ったライターだと推測される。

「あの少年はドロシーの孫だったのかなあ。そんなストーリーを想像するとワクワクするし、ハマってしまうんですよ」

【コレクション9・10】日本の彫金師が彫った、日本チックな逸品。日本に駐留した米兵が、日本の彫金師に彫ってもらったもの。(写真は上下で表裏になる)’48年製で、片面に日本地図、もう片面に富士山が描かれているものと、 ’52年製。片面に孔雀、裏面に桜が彫られているもの

ジッポーに興味を持ち、その歴史を知りたい一心でジッポー社に足を運び、フィールドワークも続けてきた。その視野はジッポーだけにとどまらず、すべてのオイルライターに広がっていった。

「勉強ってこういうことだったのかって、初めてわかりました(笑)」

【コレクション11】アールデコの時代に作られた、美しいデザインの秀作。女性工業デザイナーであるベル・コーギャンが、アールデコが流行した’38年にデザインしたもの。左から2個目以外はケースだけのサンプル。市販されたが、数が少なく希少価値が高い

趣味を持とう。勉強するきっかけになるかもしれない。吉田拓郎が唄っていたが、遅すぎることはないと思うなあ。

第7回 FEEF クラブコンベンションが開催されます。

渡部さんが主催する「Far East Eternal Flame Lighter Collectors’ Club Japan」(FEEF)のクラブコンベンションが11月24日に開催される。詳細は公式HPをご覧ください。

第7回FEEF クラブコンベンション
場所/東京都中央区日本橋浜町1-1-12
プラザANSビル3F プラザマーム
開催日/11月24日(日)10時〜17時
FEEF/090-3224-9167 http://www.feef.jp/index/Top.html

※掲載情報は取材当時のものです。
(出典:『Lightning 2019年11月号』)

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PROFILE

サカサモト

Lightning編集部

サカサモト

編集部のなんでも屋。CLUB HARLEY→Lightning→2nd、そして再びLightning編集部へ移籍。結果クルマ、バイク、古着などオールラウンダー編集者に。ニックネームは、スキンヘッドにヒゲ面をいう「逆さ絵」のような顔に由来する

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