日本ロングボード紀行 高知・大岐の浜
FUNQ
- 2019年05月29日
四方を大海に囲まれた日本列島には、日々、大海原からうねりが押し寄せる。豊かな海岸線、峻嶺な山々から注ぐ大河に恵まれ、さまざまな波を生み出している。四季折々、津々浦々で、今この瞬間も波が生まれては消えていく。そこには、その波をこよなく愛し、守り、慈しむサーファー達の姿がある。そう、日本は世界に誇るサーフアイランドなのだ。この連載では、ロングボードを切り口に、全国のサーファーコミュニティと彼らの地元の波への思いを伝えていきたい。今回、足を運んだのは高知県の大岐の浜。果たして、どんなサーファーと波が待っているだろうか?
美しい水と白浜の地、高知にて
日本でも屈指の“波乗り県”として知られる黒潮の国、高知。中でも、ロングボードにぴったりのメローな波に出会えるのが大岐の浜だ。サーファーならずとも、その美しさには息をのむはずだ。緑色濃い木々に守られるように白浜の砂浜が続き、ビロードのようなうねりが珠玉の波を生み出す。
「波がサーファーを育てる」といわれるが、この大岐のロングボーダーは、猛者ぞろいだ。松下歩さんもその一人。この夏、アマチュアサーフィンの最高峰である全日本選手権で見事優勝を飾った。2児の母で結婚、出産を挟み5回目の挑戦だった。
「この素晴らしい海があったから、今の自分があります」
この松下さんと従妹になるのが、上野俊二さんだ。スタイルあふれる自由なスタイルで、大岐の波を心いくまで楽しんでいる。
「ロングボードは、短距離でなく長距離を走るみたいな感じが好きですね。歌も歌えるし、仲間と話もできて楽しめる」
地元のサーファーは数が少ないので、皆顔見知り。仲間の絆は海を上がっても強い。上野さんが“兄貴”として私生活でも人生相談したりと頼りにするのが小花敏史さん。サーフィンが縁で結ばれた奥様の昌子さんと、マイペースに浜に通っている。見るからにお似合いのカップルだ。
マナー違反が増えている現状
昔は仲間だけでのんびりと楽しんでいたが、大岐の名前が広がるとともに、大阪など他県からのサーファーが増えてきた。
「ローカルがアツいビーチです。『一見さんお断り』みたいなところもある」と小花さん。
少々きつい言葉だが、それには理由がある。一部のビジターサーファーのマナー違反だ。サーファー以前に人として当たり前のことが守れない者が、年々増えていると言う。特に問題となっているのが、路上駐車。確かに交通量は少ないが、地元住人の生活道路であることは変わらない。1台くらい平気だろうと駐車しても、邪魔になることも。
「地元のおばちゃんにしたら、路上駐車している人みんながサーファーと思っているから、結局私達が『あんた達やろ』と苦情を言われることも……」と、昌子さんは顔を曇らせる。
「遠くから来て波に乗りたい気持ちはわかるけど、人がいっぱいだったらスルーしていくような余裕を持ってほしい。『一見さんお断り』と言ったけど、本当に好きなら一緒にやろう、という昔気質もありますよ」と小花さん。
守り続けていきたい「日本の宝」
3年前、大岐で山を切り崩して太陽光発電所が開発される計画が持ち上がった。自然環境を大きく変え、土砂災害や漁業へ影響を与える恐れがある。そんな矢先、地元サーファーが中心になって反対運動を行った。その声に応えて全国のサーファーから署名が寄せられ、着工は見送られた。大岐のサーファーも、その支援には感謝しているという。
「このままの自然を残しておいてほしい。自分の子供達もサーフィンを始めましたが、次の世代にも、大岐は奇麗であってほしいなと思いますね」との昌子さんの言葉にうなずく小花さん。
日本の宝ともいえるこの浜を守っていくことは、ローカル、ビジターという垣根を越えて、我々サーファーの使命かもしれない。
(出典:『NALU 2019年1月号 No.111』)
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