【榎本信介】人生を変えたサーフボード
FUNQ NALU 編集部
- 2021年09月18日
『マジックボード』。それは、外見上のアウトラインやロッカー、さらにデータ上の数値といったものでは計り知れないような、特別なフィーリングを伴ったサーファーとサーフボードとの一期一会の出合いである。そして時に、自分や自分の周りの者達の人生までをも一変させてしまうような、強烈な体験となるのだ。そこで、著名なサーファー達が経験した『マジックボード』との出合いやストーリーに耳を傾けてみた。
マジックボードの定義は、サーファーによってそれぞれだ。だが、そのサーファーの人生を変えてしまうようなサーフボードが存在したら、それこそ本当の“マジック”だろう。今回、そんな一本について語ってくれたのは、「エノ」の愛称で親しまれるプロロングボーダー・榎本信介。
◎出典: NALU(ナルー)no.121_2021年7月号
それまでの縛りから解き放たれ、自分らしいスタイルを見つけた。
サーフィングライフ、いやサーファーの人生そのものを変えてしまうサーフボード。それこそが本当の意味でのマジックボードではないだろうか。エノこと榎本信介の話を聞くと、そう思わずにはいられない。
エノがそのボードと出合ったのは、今から二十数年前、23才の時だった。地元藤沢のリサイクルショップにたまたま立ち寄ったところ、床に転がっていた中古のショートボードが目に入った。稲妻マークで有名なライトニングボルトだった。80年代の6’5”のシングルフィン。価格は2万円。価値があるかわからなかったが、興味本位で購入したのだ。
▲ずっと旅の相棒だったライトニングボルト。一番の思い出はチュチュカンでのチューブ
初めて海で乗った時の衝撃は鮮烈だった。
「それまで乗っていたショートボードだと、パンピングしたりすごく動かさないとサーフィンにならなかった。だけど、このライトニングボルトはもう本当にテイクオフもスーッと早くて、ボトムターンとトップターン、カットバックというシンプルなサーフィンになる。飛ぼうとか、ちょっと回ろうとか、そういう余計なことが省けて、シンプルにサーフィンができて、楽しかったことをすごく覚えている」
当時、ショートボードのコンペティションに専心していたエノだったが、自分のサーフィンに伸び悩みを感じていた。そんないき詰まりを吹き飛ばすような力が、このボードにはあった。
「当時、こんなシングルフィンに乗っているサーファーはいなかった。人と同じ板に乗ってないから、自分らしい乗り方ができた。ショートボードだとみんなが同じようなボードで同じようなサーフィンをして競い合っている。そこから外れて、自分の路線でいける楽しみを見つけることができたと思う」
それまでの縛りから解き放たれて、波乗り本来の自由な楽しさに立ち戻ったエノ。それまでは「オヤジが乗る物」と興味も示さなかったロングボードにも乗るようになった。そして、ほどなくしてプロのロングボーダーとして活躍するまでに。
▲調子がよくてもオファーがあれば手放してしまう。「ボードは乗ってもらってナンボ」
あの一本と出合わなければ、違うシェイプをしている。
現在はシェイパーとしても活動するエノ。長さにこだわらず、独自の感性とセンスから生み出す個性的なボードは、コアなサーファーから支持を集めている。このシェイプの世界へ導いたのも、このライトニングボルトだ。
「ボルトの板ほどしっくりくるものがなかったので、自分の中でいろんな想像がふくらんできて、サーフボードを作りたくなった。レプリカではないけど、自分なりにショートボードを作ろうと思って、最初に削った一本がボルトと同じ6’5”のシングルフィン。それが、シェイプの始まり」
人生に「もし」という言葉はないが、エノがライトニングボルトに出合っていなかったとしたら……。
「今のスタイルではなくなっていたのかな。ショートボードをずっと乗り続けていたとしたら、また違うシェイプをやっていると思う。性能的にいうのであれば、自分が思ったように動いてくれて、思うようなラインが描けるのが、一番のマジックボード。だけど、自分のサーフィングライフやスタイルも、すベて変えてくれるような一本もマジックボードだと思う」
自分が出合ったような運命のマジックボードに、他のサーファーにも乗ってほしい。そんな思いを胸に、エノは日々シェイプルームに向かう。
▲「シェイプをしていて、これは絶対いいだろうな、というボードはある。だけど、仕上げてしまうと、すぐにそれを超える一本を作りたくなる」
▲現在、もっともお気に入りのノーズライダー。「性能でいったら、今のマジックボード」
Profile
1973年、神奈川県出身。「エノ」の愛称で親しまれるプロロングボーダー。コンペで活躍するだけでなく、フリーサーファーとしてサーフィンメディアにフィーチャーされる。シェイパーとして自身のレーベル「EDNA SURFBOARDS」のもと、スタイルあふれるボードを手がけている。シェイプからラミネートまでこなす数少ないクラフトマンでもある。地元の藤沢にて、ショールーム兼シェイプームの「エドナ屋」を主宰。
▲ハングテンを際どい所で安定してメイクすることに特化したスペシャルノーズライダー
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PROFILE
FUNQ NALU 編集部
テーマは「THE ART OF SURFING」。波との出会いは一期一会。そんな儚くも美しい波を心から愛するサーファーたちの、心揺さぶる会心のフォトが満載のサーフマガジン。
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