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サーフィンを止めるな/サーファーからのメッセージ(ベン・マーカス編)

今、世界は未曾有の変革期を迎えている。Covid-19という未知なるウイルスによって誰もが 経験したことのない自粛生活を強いられ、経済は停滞し、海に入ることさえ煙たがれるこの世の中を、誰が一体予測できたことだろう。これからのサーフシーンはどうなって行くのか。
この大きく時代が変わるその瞬間に、サーファー達は何を想い何を願ったのか。
その断片を切り取り、後世に残すためにこの特集は企画された。
『THE VOICE-サーフィンをとめるな。』
リアルなサーファー達の声をここに贈りたい。
◎出典: NALU(ナルー)no.117_2020年7月号

マリブに住むサーフィン・ジャーナリストが見たもの

マリブは世界の経済に大打撃を与えている新型コロナウイルスの感染拡大を乗り切るには良い場所かもしれない。マリブの外の世界は死の恐怖に怯え、経済の深刻な落ち込みで沈んでいるが、マリブではそれほど大きな変化はなく、中には前よりも良い変化も見られるくらいだ。
イーグルスのボーカルでありドラマーでもあるドン・ヘンリーは、“ボーイズ・オブ・サマー”という曲の中でこう歌っている。「通りには誰もいなくなった。ビーチにも誰の姿もない」と。まさにその状況が起きていたのだ。渋滞はほとんどなく、駐車場は閉鎖され、保安官はビーチへのアクセスを制限したり、サーフィンを禁止したりする検疫法を徹底するために陸・海・空に駆り出されていた。
マリブ周辺では、波チェックをしようとクルマを停止させただけで何千ドルの違反チケットを切られることになった。ましてパドルアウトなんてできるはずもない。
ミッキー・ドラやケンプ・アーバーグ、グレッグ・ノール、マット・キヴリンといった20世紀の偉大なるサーファーがいた1950年代こそ、マリブのサーフィン、そしてサーフィン全体においての黄金期だったと思うが、新型コロナウイルスはいろんな意味でタイムマシンだという感じがしている。道路やビーチにそれほど人が溢れていなかったサーフィン黄金期に遡っているかのような状況を作り出したのだ。
photo: Vanessa Siravo

古き良き時代のアメリカを感じられるマリブ

マリブと聞くと、たいていの人はお金持ち、有名人、かわいい女の子、イカしたクルマといったお決まりの南カリフォルニアをイメージするはずだ。しかし真実は、マリブこそ今では珍しくなった古き良き時代のアメリカが感じられる街の一つなのだ。南カリフォルニアでは唯一と言っていいだろうし、さらにはベストな街と言っていいだろう。マリブは本当に田舎の街なのだ。マリブの人口密度が1平方マイル600人に対して、湘南が2,890人、サンタモニカが11,000人、東京が16,440人、マニラが107,520 人である。
約1週間前、私はスイートウォーター・キャニオン・ロードを運転していた。その道路はマリブの波をチェックできる隠れたスポットで、峡谷とマリブのファーストポイントを見下ろすことができる。そのとき数週間振りに海がうねっていた。 初めてマリブのビーチがクローズしてから4月の間はずっとほとんどフラットな状態が続いていたのだ。
季節は春だから、うねりは太めだが風雨を伴っていて、それほど良いとは言えなかった。セットの波は誰にも乗られず砕け散っていて、奇妙でSF映画を見ているかのような光景だった。
それからインサイドで小さな波にリップをかましている男を見つけた。同時に私は思った。「彼は逮捕されないのか?」
太陽が沈んでいく様子をしばらく眺めていて、 本当に素敵な場所だ、素晴らしい光景だと感じ、そこを離れたくなかった。しかしゆっくりと丘を降りていつものようにパシフィックコーストハイウェイ(PCH)を右に曲がっていった。
PCHを走っているときに左を見ると、保安官が走り回り、ライフガードボートが一隻海に出ていき、ヘリコプターが旋回しているのがわかった。
これらの動員はすべて先ほどの1人の男のためだった。この状況こそ3月から4月、そして5月にまで渡る厳しい状況を表していると言える。

まるで1950年代のSF映画のような光景

私にとって、新型コロナウイルスは良い方向にも働いていた。というのも、私は今、マリブについて長い歴史を書いていて、静かな環境と誰にも邪魔されない時間が必要だったからだ。毎朝起きてからマリブキッチンでコーヒーをゲットして、 マリブにできたばかりのホールフーズへ行く。カリフォルニアで唯一、新型コロナウイルス大流行の最中でも完璧にモノが買える場所だ。
交通量が極端に少ないPCHを東に向かい、右肩越しに波を見ても、制限がかかっている最中の数週間はまったく人がいなかった。
コロナ騒動の真っ最中にハリケーン・マリー級のうねりがやってきたらどうなっていただろう? 大変な騒ぎになっていたかもしれないが、実際にはそうならなかったし、むしろ真逆の状況になった。
マリブはずっとフラット。カリフォルニアとロサンゼルス郡、そしてマリブは3月19日に初めて隔離要請が出されたときこそ波は割れていたが、サーフィンをしようとする人を警察はヘリコプターやボートを使って陸・海・空から逮捕していった。そういった光景はニュースにもなっていた。
おもしろかったのは、マーシャル兄弟が「SUPをすることは犯罪だ」と書かれたTシャツをリリースしたことだ。さらに、そのTシャツには2人の保安官が押収されたSUPを持ってビーチを歩いている写真がプリントされていた。
そのスタンドアップ・パドルボーダーの事件は4月3日に発生し、全米のニュースになった。「マリブは立ち入り禁止。それが海の中でも」というニュースだ。警察はマリブのビーチを全面的にクローズし、まるで1950年代のSF映画のように道からもビーチからも人が消えた。
photo: Marshall Coben

これはチェマシュ族の呪いなのか?

しかし、そのことが本当の意味で私に影響を及ぼしたわけではない。私はマリブロードに建っているガレージから引っ張り出してきた歴史本について書いていて、自分の頭をクリアにするためにスタンドアップパドルで近くの海に出かけていった。ただ自分の気分転換のためであって、マリブに近づこうなんて気はさらさらなかった。監視ボートやロサンゼルス郡保安官ヘリコプターに遭遇することもあり、私は逮捕されるかと思ったが、何もせず過ぎ去っていった。
また、私にとってマリブの歴史本を書くことは、良い機会でもあった。その本はチュマシュ族のインディアンについて書かれた「チュマシュ族再訪の呪い」という長いエッセイから始まり、彼らがいかに素晴らしいものを持っていて、スペイン人がやってきたときにいかにすべてを失くしたか、そしていかにしてスペイン人が彼らを奴隷にしたかという内容が続いている。
そこで私は感染病がタイノ族や古代マヤ人、アステカ族、ハワイ人、そしてチュマシュ族に広がっていったのかを書いていた。なぜならそうした先住民は感染病に対する免疫を持っていなかったからだ。
そして今回、21世紀では現代の人々に対して同じようなことが起こっている。これはチェマシュ族の呪いなのか?
Illustration Courtesy: Reeve Woolpert

サーフィン黄金期の始まりを表す1枚の写真

この記事のために、私はスペイン人がやって来る前のフマリウ村(現在のマリブ)を描いたリーブ・ウルパートのイラストを手に入れた。マリブクリークとラグーン、サーフライダービーチを見下ろすイラストだ。
私は思った。「崖の上に建つ館の裏から、同じアングルで誰もいない波の写真を撮ったらおもしろいぞ」
不可能だろうか? 本来、実現するのはSFの世界だが…実際にはSFじゃなく、撮影ができたのだ。
かなりおもしろい。成功だ、予想に反して。
マリブの歴史本はおよそ1890年頃の古い写真と現代の写真を比較して、マリブがこの130年でいかに変化して、もしくは変化していないかを示している。
そのうちの一枚の写真が私のお気に入りだ。マット・キヴリンが高速でマリブのファーストポイントをクルーズしている1948年頃の写真だ。黄金期の始まりを表す一枚で、マリブの波を堪能できるボードに乗っている。
私はキヴリンが1948年に体験したライディングの現代版ともいえる写真を見つけたかった。
私は未だに信じがたい2014年8月のハリケーン・マリーによるマリブのクラシックなラインナップのことを思いつき、カメラマンのブライス・ロウ・ホワイトがあの日の写真で見た目的に似ているもの、キヴリンのフィーリングを表現しているものを持っていないか考えた。
そしてブライスは何枚かサンプル写真を送ってきた。その中でも気に入ったのが、ケリー・スレーターとアレン・サルロの2人が同時にキヴリンの乗った波と同じようなサイズの波に乗っている写真だ。

この時間は不思議で、まるでタイムマシンのようだった

結局のところ、新型コロナウイルスの期間中、マリブのサーファーにはいいことも悪いことも不思議なこともあったのだ。私は本を書くのに必要な集中できる時間をたっぷり取ることができた。 そして本来ならフォトショップで加工する以外に 手にすることは不可能だと思われた写真を得ることができた。
スイートウォーター・キャニオン・ロードを登って人生で初めて人のいないマリブのファーストポイントを目にし、1人の男性が警官に逮捕される光景を見た2日後、再びうねりがやってきた。
ハリケーン・マリークラスではないものの、小さめのしっかりした南うねりで、マリブに適した波だった。
このときは、PCHを東に行こうが西に行こうがクルマでいっぱいで、ビーチも波もまったく見ることができなかった。
前と同じようにスイートウォーター・キャニオン・ロードを登ったところにクルマを止め、渓谷を見下ろし、ピア越しにファーストポイントを眺めると、その景観こそ素晴らしかったものの、蟻のようなサーファーたちが忙しなく動き回ったり、波待ちをしていたり、中にはドロップインしている人もいたりして、前の光景とは違っていたのだった。

出典

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FUNQ NALU 編集部

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テーマは「THE ART OF SURFING」。波との出会いは一期一会。そんな儚くも美しい波を心から愛するサーファーたちの、心揺さぶる会心のフォトが満載のサーフマガジン。

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