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東北地方を中心に伝わっている民間伝承「鮭の大助譚」|筆とまなざし#417

自分のなかに眠っていた大助が、ムクムクと再び動き出す

東北地方を中心に「鮭の大助」という大鮭が登場する民間伝承がある。青森県から新潟県までの鮭遡上河川に広く伝わり、岩手県、山形県、新潟県がとくに多い。それらはいくつかのパターンをもって伝えられていおり、それらは総称して「鮭の大助譚」と呼ばれている。学生時代、「鮭の大助譚」を探して東北地方を歩き回っていたことがあった。

「鮭の大助譚」のあらすじは次のようなものである。

「昔、あるところに川での魚を獲って生活する男がいた。ある日、田植えを終えて泥まみれになった牛を川で洗っていると、どこからともなく大鷲が飛んできた。大鷲は牛を引っ掴み、彼方の空へと飛んでいった。怒った男は牛の仇を打ってやろうと、短刀を抱えて牛の毛皮を被り、大鷲が来るのを待ち伏せた。ところが、大鷲は男もろとも牛の毛皮を引っ掴み、絶海の孤島にある松の木の上の巣へと連れ去ってしまった。男は短刀で大鷲を殺し命からがら脱出する。しかしそこは絶海の孤島。男は故郷へ帰る術がなく途方に暮れた。しばらくして、どこからか白髪の老人がやってきた。老人が言うには、ある秋の日に鮭の大助が(男の)故郷の川へ子どもを産みに行くから、大助に頼んで連れて帰ってもらえば良いだろう。やがて、海の彼方から大きな鮭がやってきた。大助は男を見るなり憤慨し、ひと口に飲み込んで殺してしまおうとする。大助は魚の親分。自分の仲間を獲って生活する男は憎き敵だった。ちょっと待ってくれと、男は大助に懇願する。今後一切魚獲りはやめるから、どうにか故郷へ連れて帰ってほしい。それなら良いだろうと、大助は男を背中に乗せて川を遡り、男は故郷へ帰ることができた。それ以来、村では大助が川を遡上する日には梁を開け、漁に出てはいけないとされた。また、大助は川を遡るときに「鮭の大助いま遡る!」と大声で叫ぶ。その声を聞いたものはたちまちのうちに死んでしまうと言われ、村人たちは大助の声が聞こえないようにその日はどんちゃん騒ぎをしてすごした。ところが、時代は降って欲深い長者が現れた。長者はほかの者が漁をしない日ならたくさん鮭が獲れるではないかと、大助との約束を破って漁をした。以来、長者の家族は次々と死に、家は没落してしまった。」

物語として残っている地域もあれば、大助の遡る日(地域によって異なるが鮭遡上の最盛期である場合が多い)は漁をしてはいけないという禁忌だけが残っている地域もある。大助との約束を破った欲深い長者の話は新潟県に多い。

人間は、自然に働きかけ、利用し、そのなかから富を抽出しなければ生きていけない。大切なのはその「折り合いの付け方」である。欲深く、強引に力でその折り合い点を人間の側に持ってきてしまえば、必ずしっぺ返しを喰らってしまう。「鮭の大助譚」は、鮭にも人間にもwin-winになる折り合いの付け方、あるいは両者の絶妙な緊張関係の上に導き出された折り合いの付け方を語る伝承なのだと思う。

「鮭の大助譚」をめぐる旅は卒業とともに一区切りを迎えたのだが、最近、自分のなかに眠っていた大助がムクムクと体をくねらせながら動き始めたような気がする。それは「鮭の大助譚」とフリークライミングとの共通性を強く意識するようになったからだ。

著者:ライター・絵描き・クライマー/成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ、在住。 山やクライミングでのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作したアトリエ小屋で制作に取り組みながら、地元の岩場に通い、各地へクライミングトリップに出かけるのが楽しみ。日本山岳ガイド協会認定フリークライミングインストラクターでもあり、クライミング講習会も行なっている。

https://www.naruseyohei.com

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

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