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お父さん、出勤す。|旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺 #51

春になると少し思い出すことがある。ライチョウにひと目惚れをして、当時勤めていた会社を辞め、ライチョウが近くに住んでいるからという理由だけで山小屋従業員に転職した昔のことを。まだ独り身で無茶がきき、向こう見ずで突っ走っていたころである。四捨五入で50になるような年齢になり、日々のメンテナンスを怠ると途端にあちこちが痛くなってくる今日このごろであるが、あのころを思い出し筆を走らせてみる。

編集◉PEAKS編集部
文・写真◉高橋広平

お父さん、出勤す。

近年ではそれほどでもないが、私の認識では、20年近く前は圧倒的に定職についている人間のほうが社会的立場が上だったと捉えている。就職に失敗したのち、いくつかのバイトを経てサラリーマンの末席に就いていた20代後半、そんなカタギの道をかなぐり捨てて山に飛び込んだのが2008年春のこと。時代はかの忌まわしきリーマンショックをむかえた年である。

運良くと言っていいのか、その金融危機前に山小屋業界に転職していた私は、影響をあまり感じずにすごしていた気がする。山小屋経験のある人ならわかるかもしれないが、山にいるあいだはお金をあまり使わずにすごせるため、下界の影響を受けづらいからだ。そしてライチョウを追いかけることで目一杯だったので、ある意味非常に充実した日々だった。

山小屋勤務の合間にライチョウを探す日常。ほどなくしてライチョウは早朝の遭遇率が高いということを感覚で掴みはじめていた。勤務シフトは早番と遅番が一日おきに組まれていたため、就業開始前に余裕のある遅番の日にライチョウ探索を繰り返していた。

手探りの探索は試行錯誤の連続である。筋トレを兼ねて暗いうちから稜線を小走りで駆け回り、かすかな物の気配、何かしらの音に至るまで神経を尖らせ周囲を探る。しだいにイワヒバリかホシガラスか、それともお目当てのライチョウかを視界のなかのわずかな差で感知できるまでに成長した。

そうしてライチョウ探索スキルを磨いていたある日のこと。繁殖期を迎えたオス鳥が、自分の縄張りを守るべく見張りに立つために、暗いうちから静寂の稜線に羽音を響かせ飛んできた。

当時の撮影機材の性能といえば、ISO感度がせいぜい800~1600程度で暗所の撮影には向かないものがほとんどだった気がする。ただし、ダイナミックレンジ(ラチチュード)の特性上、露出オーバーがデータが白飛びで吹き飛ぶのに対し、アンダー露出はある程度までデータが残る傾向があった。地面と空との境界で極端に露出が変わる山岳(稜線)というフィールドにおいて、基本的に私は撮影機材にマイナスの露出補正をかけている。なぜにこれを説明したかというと、1日のなかでも早朝はライチョウに出会う確率が高い反面、露出確保が難しいということを話したかったからである。

写程圏内に現れたオス鳥をより良く写すために動向を見守る。陽の出を待つ東の空は魅力的な色彩に染まってきた。そんななかオス鳥は自らの縄張りを見張るべく、お気に入りのお立ち台へ歩を進めていく。これは生態解説にも使えるなと、静かにポジショニングしシャッターを切った。

今回の一枚は写真家活動初期に撮ったお気に入りのひとつ。タイトルは「お父さん、出勤す。」だ。いまでこそシルエットで撮ることは特別なことではなくなっているが、これは試行錯誤の時期にトライしたこともあり、自分のなかでモニュメント的な位置づけの作品になっている。

今週のアザーカット

以前、東御市文化会館で企画展をした際に大きな看板に印刷してくれたことがありまして、会期終了後に捨てるのがもったいなかったので撤収時にきれいに写真部分だけをカット、回収してました。その後どうなったかというと、自宅の私の部屋(魔境)の扉に貼り付けまして写真のとおりになっております。ある意味いちばん目にする写真となりました(笑)。

▶過去の「旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺」一覧はこちら


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PROFILE

高橋広平

PEAKS / 雷鳥写真家・ライチョウ総合作家

高橋広平

1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。
Instagram : sundays_photo

高橋広平の記事一覧

1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。
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