
子どものころからとても好きな季節、大切な原風景|筆とまなざし#421

成瀬洋平
- 2025年05月21日
間もなく瑞々しくも疎ましい季節がやってくる
先週から急に暑くなり、湿度も一気に高くなった。初夏の湿潤な空気感と風景は嫌いではない。むしろ子どものころからとても好きな季節だった。田植えを終えたばかりの田んぼに映る空の色。その水面を渡る緑色の風。雨上がりの夕方などは格別で、ダイナミックな色合いに染まった雲が田んぼに反射するさまは子どもながら大きく心を揺さぶられた。そんな風景を描きたい。そう思ったことも、絵筆を取るようになった大きなきっかけだった。まさに大切な原風景である。
しかし、クライミングをしているとその瑞々しい季節が疎ましく思えてしまうのだから皮肉なものである。つい先日までは寒いくらいで、岩のコンディションは最高だった。ところが、先週からは身体に纏わりつくような蒸し暑さで、それまで持てていたホールドがすっぽ抜けてしまうほどである。天気図を見ると梅雨前線が西から長く伸びていて、九州南部同様、東海地方も、もはや梅雨入りか? と思えてきてしまう。アトリエへ続く森は、木の葉の密度が急激に濃くなった。ピンク色のツツジが森のなかに浮かび、クロアゲハが一心不乱にその蜜を吸っている。今年は季節の移り変わりが早い。
さて、今年は7月にカナダのスコーミッシュに行くことにした。学生時代に北米北西海岸線住民の文化に興味を持ち、バンクーバーから南東アラスカを経てユーコン準州のホワイトホースまでインサイドパッセージを旅したときに、少し立ち寄ったことがある。1週間弱滞在したものの、まともに登れたのは2、3日ほどであとは雨だった。レインフォレストと呼ばれる針葉樹の深い森にあるスコーミッシュは、どんよりとした鉛色の印象である。日本人にもおなじみの岩場であるスコーミッシュ。再訪するのに20年の歳月がかかるとは思ってもいなかった。
スコーミッシュに向けて人工壁でトレーニング
出発まであと一月半ほどなのだが、天気予報は傘マークばかり。天気に一喜一憂するより人工壁でトレーニングと割りきってしまったほうが良いかもしれない。そう思い、急遽実家の使ってない一室にプライベートウォールを作ることにした。本当はクライミング小屋を作りたいのだけれど7月にはとても間に合わない。
大きさはコンパネ6枚ほどで、傾斜は130度の面一。骨組みはできたのであとはコンパネを貼ってホールドを付けるだけだ。通常のホールドのほか、クラックホールドも取り付けるつもり。これで梅雨時も楽しめそうだ。
著者:ライター・絵描き・クライマー/成瀬洋平
1982年岐阜県生まれ、在住。 山やクライミングでのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作したアトリエ小屋で制作に取り組みながら、地元の岩場に通い、各地へクライミングトリップに出かけるのが楽しみ。日本山岳ガイド協会認定フリークライミングインストラクターでもあり、クライミング講習会も行なっている。
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