
筆とまなざし#130「20年前の情熱を携えて。思い出のクライミングホールド」

PEAKS 編集部
- 2019年05月14日
実家の倉庫から懐かしいものが出てきました。段ボール箱のなかに入っていたのは、埃を被り、少々カビ臭くなったクライミングホールド。大きめのものからビス留めのジブスまで二箱分。高校時代、自宅の倉庫に作ったクライミングウォールに取り付けていたものです。
僕がクライミングを始めたのは中学生のときで、いまのように一般メディアに取り上げられることもなく、ごく少数のマニアックな人々だけが行なう行為でした。フリークライミングしかやらないという人もいましたが、登山の延長としてクライミングをする人が大多数。現在のようにボルダリングしかやらない、という人はほとんどいませんでした。当時のクライミング雑誌を見てもボルダリングの記事は稀で、ルートやアルパインクライミングの記事がほとんどでした。
高い山に登るためにはクライミング技術が必要だ。中学生のときにそう思い、近所のブロック塀をよじ登って練習しました。もっと本格的にやってみたいと当時東海地方に1軒だけあったクライミングジムを訪ねたのは中学2年のとき。高校生になると自宅に小さなクライミングウォールを作り、急いで帰宅しては毎日飽きることなく登っていたのでした。
単純に登ること自体が楽しかったし、岩場にも目標のルートがありました。高校生のクライミングコンペも目標にしてもいたのですが、やっぱりいちばんは世界中の山や岩壁に登ってみたいという憧れだったのでしょう。青春18切符を片手に日帰りで大阪のクライミングジムへ行ったり、ひとりで岩場へ行っては見ず知らずのクライマーにビレイをお願いしたり。当時の純粋な情熱は相当なものでした。高校2年の終わりに参加したクライミング大会を境に、その情熱は絵描きになることへシフト。登っていなかった訳ではないけれど10年ほどのブランクを経て再開し、いまに至ります。
当時の思いが詰まったホールドに触ると、不思議なことにあのときの感触がありありと蘇ってきました。このホールドを縦にしたりアンダーにしたりして課題を作っていたな。当時思い描いていた憧れとはちょっと違う人生を歩んでいるけれど、ふと、その憧れを実現するのにまだ遅くないかもしれいという思いが頭をよぎりました。埃を被ったホールドには20年前のチョークが付いていました。そしてそこには、20年前の情熱がまだ消えずに残っていたみたいです。
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PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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