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山と道 夏目 彰さん×ハイカーズデポ 土屋智哉さん 特別座談会「理想のレインウエアとは」(前編)

素材の改良に伴い、より高機能なプロダクトへと日々進化を遂げているレインウエア。

この数年のテーマであった「軽い」、「蒸れにくい」が高い次元で実現されつつあり、今後の製品はどこへ向かうのだろうか。

2019年10月中旬に開催された、レインウエアの方向性について語り合ったアウトドア業界関係者によるトークイベントを誌面で公開しよう。

山と道 夏目 彰さん

ウルトラライトハイキングをコンセプトに超軽量な道具を作るアウトドアブランド「山と道」代表。モノ作りのみならず、最近はメディア展開やイベントなども精力的に行なっている

ハイカーズデポ 土屋智哉さん

東京・三鷹のハイカーズデポ店主にして、言わずと知れたウルトラライトハイキングの伝道師。製品や素材についても業界で比類のない知識を持つ。昨今はテレビ出演なども行なう

レインウエアの3要素

土屋 本日の司会進行を務めさせていただきます、ハイカーズデポの土屋です。「山と道」は昨年来ウェブサイトで、さまざまな山道具を深掘りしていく「山と道ラボ」という連載記事を作られていて、そのなかの「レインウエア編」は、自分もこの業界で20年以上販売業に携わってきたなかで、わかっているつもりだったけれど理解が足りていなかったことや、違う形で理解していたことなど、さまざまなことを気づかせてもらえる連載でした。それを見ていた「パーテックス」や「プリマロフト」を展開されている三井物産アイ・ファッション(以下、MIF)の方から「こういう話をもっと広げてリアルな場で展開し、多くの方から意見をいただいて、もの作りに活かしたい」というお話があって、この場が設けられることになりました。なので、今日は「山と道」代表の夏目さんの話を中心に、素材の専門家としてMIFの開発担当の方にも入っていただいて、それ以外にもここに来ていただいたメディア関係者やプロショップの方々と、ワイワイと意見交換しながら話を進められたらと思っています。

夏目 「山と道」の夏目です。「山と道」を始めて来年で10年になります。僕はその前にアウトドアの業界にいたわけではなく、ズブの素人でメーカーを始めたので、いざレインウエアを作ろうってなったとき、その本質やメカニズムについて、僕自身がきちんとわかっていなかったんですね。そのため、レインウエアってなんだろう、防水透湿ってなんだろうという根本の部分から深掘りして、それをお客様と共有しながら理解していきたいと思っていたんです。それで山と道の研究部門であり、その研究成果を発表する場でもある「山と道ラボ」を立ち上げました。そこでいろいろと調べるなかでわかったことを、この場で共有しながら話を進めていけたらと思います。「山と道ラボ」では代表的な防水透湿素材に対して独自試験を行なったんですが、その際、僕らが考えるレインウエアの3要素として、透湿性、保温性、透湿速度を抜き出しました (試験結果は山と道JARNALSにて公開中。www.yamatomichi.com/journals/7698/)。

土屋 この3要素を抜き出した理由はなんですか? まずレインウエアの機能として、保温性というのは違和感を感じる方もいるかもしれない。レインウエアは透湿性能がクローズアップされがちで、保温性が高いということは蒸れるってことなのではと思われる方も多いと思います。

夏目 レインウエアの機能の本質を突き詰めていくと、究極的には濡れないために着るものではなく、低体温症にならないために着るものですよね? なので、保温性も重要な要素ではないかと考えました。

土屋 透湿速度というのもあまり見ない要素ですよね。

夏目 のちほど詳しくお話しますが、防水透湿素材は大きく分けて衣服内がある程度蒸れてから透湿が始まる素材と、着た瞬間に透湿が始まる素材の2種類に分けられます。このふたつの1時間後の透湿量は同じかもしれないですが、実際の着用感や蒸れの感じ方はかなり違いますよね。ここでテクノロジーと素材の話をもう少ししたいと思います、各防水透湿メンブレンの素材名で使われている、「PU」はポリウレタン、「ePTFE」というのはフッ素膜です。「親水性」と「疎水性」という違いもあるのですが、疎水は水を含まない、親水は水を含む素材という意味です。そして、無孔膜というのはいったんメンブレンが除湿剤のように湿気を吸って、それが面で拡散することによって透湿するメカニズムで、「パーテックス・シールド」や「カムレイカ」(OMMのオリジナル防水透湿素材)などがこれに当たります。多孔膜はその名の通りミクロの穴がたくさん空いていて、そこから湿気が直接外に出ていくメカニズムで、「パーテックス・シールドプロ」や「イーベント」などはこちらに当たります。直接湿気が外に出ていくので、透湿性や通気性の面では無孔膜より優れます。また、「ポーラテック・ネオシェル」に関してはナノファイバーによるエレクトロスピニングというテクノロジーで、多孔膜よりさらに透湿性が高いとされています。

(客席より)アウトドアライター 村石太郎さん ライターの村石です。質問なのですが、これって本来は「『ネオシェル』はこのメーカーの○○、『ゴアテックス』はここのメーカーの〇〇」というように製品名も明記してテストをしたほうが正確ですよね?

夏目 たしかに製品によって誤差やばらつきは当然あると思います。たとえば、僕らは「パーテックス・シールド」、「パーテックス・シールドプロ」を使ってレインウエアを作っていますが、ものすごく薄い生地に仕上げてもらっているんですよ。「シールド」と「シールドプロ」はじつはまったく違うテクノロジーの素材で、先ほどお話したように「シールド」はある程度蒸れてから透湿が始まる素材、「シールドプロ」は着た瞬間に透湿が始まる素材のはずなんですが、おそらく生地が薄いせいで「シールド」のほうが透湿速度が速いという結果になっています。

土屋 防水透湿素材のメンブレン単体と、それが衣類になったときに出るデータというものは当然違いますからね。素材や試験の話になるので、MIFの技術部門である伊藤さん、高さんにも前に来ていただきましょうか。

 MIFの高です。たしかに防水透湿メンブレンと生地とのマッチングであったり、もっと細かいところを言ったら生地との接着の仕方でも素材の性格は変わるので、この結果だけを見て「これがこの素材のすべてです」とも言えないかとは思います。

パーテックスやプリマロフトを展開する三井物産アイ・ファッションの開発担当者である高宏明さん

(客席より)ライター・フォトグラファー 三田正明さん 「山と道ラボ」の編集を担当している三田と申します。ご指摘の通りなんですが、「山と道」で行なった試験の意義があるとすれば、さまざまな防水透湿素材をすべて同一の方法で試験を行なってみたことにあるのかなと。透湿性を測る試験には「A-1法」や「B-1法」などいくつかあるんですが、これまでその素材に都合の良い試験法で測ったデータしか出ていなかったので。

ライター/フォトグラファーの三田正明。近年は「山と道」ウェブサイトの構成や撮影、執筆も行なっている。ウルトラライトハイキングへの造詣の深さは業界随一で、当記事の構成と執筆も担当

伊藤 MIFの伊藤です。透湿性でついては先ほど三田さんのお話で出た通り、 代表的なところでJISで定められた「A-1法」「B-1法」という試験方法があるんですが、僕たちはそれに基づいていかに測定結果の数値を高くするかということを目的に素材の開発をしてきました。実際に保温性など、他の部分とのバランスを取っていくかということに関して、正直、こういう形でいろんな素材で振り幅があるというのを改めて感じた次第です。

三井物産アイ・ファッションの伊藤博秋さん

やり方も測定時間も違う検査方法

土屋 「A-1法」と「B-1法」の違いは? 専門家の方から伺えますか。

伊藤 「A-1法」は疎水性の多孔膜素材に対して有効とされています。つまりそのコーティングに対しては良い数字が出る、ということですね。一方で「B-1法」は親水性の無孔膜素材に対して有効だと言われています。

 補足させていただくと、「B-1法」は実際は水をフィルムに直接当てて、無理やり吸わせて数値を出しているんです。もっというと、各素材とも「透湿性能が24時間で2万グラム」のようにうたっていますけれど、基本的に実際の測定時間は15分間なんです。その15分を24時間に換算して数値を出しているんですよ。「A-1法」であれば測定時間は1時間です。試験方法や測定時間も違うものを24時間に揃えて「2万グラム、1万グラム」という比較になっているのが現状なんですね。

三田 なぜ24時間測定しないのですか?

 できるとは思いますが、検査できる機関も限られていますし、やはり大量にデータを取るとなると大変なので、ある程度時間を区切って倍数化しているのが現状です。ただ、 それがJISという公的な試験方法で定められているので、みなさんがそれに疑問を感じずに何十年間も続けており、それが市場のスタンダートとなっている。僕が言うことじゃないかもしれないですけど(笑)。

夏目 僕たちの試験の話に戻らせていただくと、たしかに、これでその素材のすべてがわかったわけではないのですが、ある程度の特性は出せたと思うんです。テストをするまでは、透湿性が高くて通気する素材だけが個人的には良いと思っていました。でも、各素材を比較することで、それぞれの特徴が見えてきたんです。透湿性が高くて通気する素材は、抜けが良いけれど寒いとも言えますし、蒸れるけれど保温性が高い素材は、悪天候時に身体を守ってくれるかもしれない。いろんな特性を踏まえて、それぞれの違いがあるということを理解したということが、僕たちにとってすごく良い経験になりました。

村石 保温性を司るのは生地の厚さではないですか?

 生地の厚さではそんなに変わらないと思います。すごく厚みのあるウールの生地とすごく薄いナイロン生地を比べたら保温性の違いがかなり出ると思いますけど、たとえば70デニールくらいの昔ながらのしっかりしたナイロン生地と、最新の7デニールの薄い生地を比べたときに保温性に直結するかというと、それはないと思います。それよりも保温性を感じるのは、これは僕の主観になってしまうんですが、動き始めて最初に蒸れたとき。実際は透湿性能が少し低いと体温がラッピングされる状態になるので暖かくなる。で、親水性の無孔膜は湿気を生地に一旦吸わせているので、最初のうちはウエア内に湿気がたまって体温が上がっていく感じにはなると思います。一方で疎水性多孔膜の「イーベント」などを着ていると寒いと感じる方がいらっしゃると思うんですけれど、やはり蒸れ感が着た瞬間から外に出ているからだろうと思います。

後編へ続く

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PEAKS 編集部

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装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。

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