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水晶小屋|シェルパ斉藤の山小屋24時間滞在記

「北アルプス最後の日本百名山」として親しまれている水晶岳。山頂へはどの登山口からも10時間以上を要するという。だが、それだけの奥地にも、稜線の厳しい風に耐え、登山者をもてなし続けている山小屋が存在する。そこには先代と現ご主人の技術と愛着が込められていた。

 

本誌連載は24時間滞在を謳っているけれど、地理的にそれが難しい山小屋もある。どの登山口からもコースタイムが10時間を超える北アルプス最深部の水晶小屋もそのひとつだ。

水晶岳の山頂までは稜線上の登山道を歩いて約30分。標高2977mの山頂からは夏真っ盛りの8月中旬でも山肌のあちこちに雪渓が見られる。ここは日本百名山でもある。

しかし前日に三俣山荘に滞在した僕らは、午前中の早い時間に水晶小屋に到着した。翌日もギリギリの時間まで水晶小屋にいるつもりだから、24時間に近い滞在は果たせると思う。

野口五郎岳、烏帽子岳へと続く裏銀座縦走コースを望む絶景の場所に水晶小屋はある。自分が北アルプスのど真ん中にいることを実感できるロケーションだ。

水晶小屋までたどり着いて感じるのは、山の広がりだ。稜線が四方に望めてそこには道がある。あっちに行けば裏銀座、こっちに行けば読売新道というように、ここからさまざまな場所に向かって歩き出していける。そしてそれぞれの道を歩いてここへやってくる登山者もいる。山奥なのに、水晶小屋が登山道を行き交う人々にとってのオアシスのようにも思える。

水晶小屋の前の平坦地には単管で組んだテラスがあり、ベンチとイスが設置されている。裏銀座の山並みを眺める絶好の展望所。ここで飲むビールやコーヒーは格別だ。

ただし、ここは砂漠のオアシスと違って水が出ない。使っている水はすべて天水だ。

受付を済ませると宿泊者は水を購入できる権利券を渡される。ろ過された天水を宿泊者は500㎖100円で購入できるが、その上限が500㎖に設定されている(読売新道と竹村新道方面に向かう人は1ℓが上限)。

小屋の扉の右側に宿泊の受付兼売店がある。よく見ると自然木を使った柱と、カウンターの下の壁が寸分たがわず収まっている。さすがは木工職人の圭さん、と感心した。

その権利券を手にして、ここがどんな場所なのかを思い知ったが、さらに指定された寝場所を知って思わず声が出た。

布団1枚に2名が基本なのだ。山小屋24時間滞在記90回目にして、初めての体験である。

ワンフロアスタイルの2階の寝室は天窓もあるし、四方にも窓があって明るい。屋根裏部屋ならではの窮屈な印象はない。バックパックを吊るすフックもそれぞれあって使い勝手がいい。

ピークシーズンに山小屋を利用する登山者はそんなの当然だ、と思うかもしれないが、これまで僕はそのような状況を避けてきた。でも、それを経験しなければ本当の山小屋を語れないという思いがないわけでもない。

厨房と入口をつなぐ出窓に掛けられた暖簾は圭さんの妻、敦子さんの作品。褪せた色も水晶のデザインもかっこいい。センスのよさを感じる。売店で売られている手ぬぐいもおすすめ商品だ。

どんな状況になるんだ? 見知らぬおっさんと寝るってどうよ? と不安が頭をよぎる。大自然の絶景に身を置きながら、そんなことに頭を悩ます自分が小さく見えて恥ずかしかった。小さい自分を鼓舞する意味でも、水晶岳に登って雄大な風景を眺め、おおらかな気分に浸る努力をした。

最深部の山小屋に夢を見る

水晶小屋は現在の建物が5代目にあたる。初代は1933年に建てられたが、戦時中に吹き飛ばされ、1946年に伊藤正一氏が買い取ったときは基礎の一部のみが残っている状態だったという。

座布団に座って寛げる食堂。談話室も兼ねており、角には山の雑誌や書籍が並ぶ本棚もある。妙に落ち着く広さだ。壁には水晶小屋の歴史や水晶岳で見られる花を紹介したパネルが飾られている。

正一氏は1959年に木造の小屋を建築する。ところが完成直前に台風が直撃し跡形もなく倒壊。1964年には石垣と鉄骨の組み合わせで屈強な小屋作りに取り組んだが、これまた完成直後に暴風雨により吹き飛ばされている。

この場所がいかに厳しい自然環境なのかを思い知らせる史実だが、不思議なことに、吹き飛ばされた直後に仮設した工事現場のようなプレハブ小屋は、2007年まで42年間も壊れることなく存続したという。

入口脇の土間は自炊スペース。下駄箱の上は折りたたみ式のカウンターになっており、窓から裏銀座を眺められる。壁に「ゆっくり歩こう山と人生」と書いてある。深いね……。

イソップ寓話をイメージさせる逸話だが、このような歴史を経て三俣山荘の現ご主人であり、伊藤正一さんの息子の圭さんが、現在の建物に着手する。

一見すると普通の山小屋だが、過去の経験を活かして暴風に打ち勝つための工夫が施されている。建築の基本は蔵だ。頑強な構造の蔵を倣って設計されており、風の影響を受けにくい高さに抑え、さらに下から吹く風に煽られないように軒下も短く設定されている。

右から大久保一樹さん(24)、岡部賢二さん(30)、吉見なぎささん(34)。取材当日は夕方からオーナーの伊藤圭さんが三俣山荘からやってきた。スタッフがお揃いで着ているTシャツがシンプルなデザインなのにインパクトがあって秀逸。中央の岡部さんは圭さんのバンド「ヒーターズ」のメンバーでもある。

感心してチェックしていると、三俣山荘から伊藤圭さんがやってきた。現在は三俣山荘にいるが、水晶小屋から圭さんの山小屋生活はスタートしたし、自分が設計してシステムを作りあげてきた水晶小屋への愛着は格別なのだろう。

木工職人でもある圭さんだけに細部にもこだわりが垣間見られる。「昔ながらの大工道具って美しいじゃないですか」と語る圭さんは電動工具を使わずに刃物を使って手で木を削り、寸分違わずに収めていく。ここは小屋でありなら、圭さんの作品でもあるのだ。

木の壁に囲まれた清潔なトイレはバイオ式。使用後はペダルを踏んで流す。最新鋭のシステムで排泄物を完全に浄化する。上部がガラスの引き戸になっている浄化装置は一見の価値あり。

さらに感心したのはトイレだ。山小屋のトイレはバイオ式でもトイレットペーパーは便器に捨てないことを義務付けているが、ここは「備えつけのペーパーは便器に流してください」と書かれてある。

つまりトイレットペーパーを分解する能力を備えたトイレなのである。水がなく、寒さも厳しく、自家発電しかない標高2700mの地でこのようなバイオ式トイレがあることに驚きを感じる。現時点でナンバーワンの山小屋のトイレといっても過言ではない。

そこまで求める理由を圭さんは「システムとして完結した小屋をめざしたいからです」と語る。過酷な自然環境でもダメージを与えることなく、人間が快適に暮らせるシステム。やがてそれが現代人の生活にも活かされるとまで考えているのだ。

ところが、そこまで考えて作り上げた小屋にもかかわらず、圭さんは「水晶小屋は自分のもの、という感覚はないんです。水晶岳が神だとすれば水晶小屋は寺社仏閣なんですよ」と述べた。

夕食はおかわり自由のカレーライス。貴重な飲料水をあまり消費しなくてすむ工夫なのか、それほど辛くなく、食べやすくておいしい。

かっこいい話だなと感心していると、スタッフが突然「ドリーム!」と声を上げた。これ以上宿泊者が来そうもないから、ひとり布団1枚で寝られる、とのこと。その確定をここではドリームと呼ぶとのことだった。ホッとした喜びはあったけど、挑戦しても良かったかなという思いもほんの少しある。

イワナが水晶小屋の名物朝食になっている。骨も頭もすべて食べられる。カルシウムも豊富でありがたい。おかずの盛り付けも盛られた皿もお洒落だ。

充実した山小屋ライフをすごした翌日、僕らは水晶小屋から車が置いてある新穂高温泉まで一気に歩き通した。新穂高温泉に着いたとき、水晶小屋は遠い山小屋だったんだなと実感したし、そんな場所にある山小屋に自分が泊まったことを誇らしく感じた。

  • ぽかぽか力汁(餅2個入り) ¥1,000
  • おしるこ ¥800
  • カップヌードル  ¥500
  • 天然酵母パン ¥300
  • 缶ビール500m ¥850
  • 缶ビール350㎖  ¥650
  • 日本酒 ¥550
  • ウイスキー ¥1,300
  • ホットコーヒー、ホットココア 各¥400
  • ホットミルク ¥600
  • ホットカルピス ¥500
  • ペットボトル飲料 ¥500
  • 缶ジュース ¥400

アクセス

雲ノ平方面や裏銀座方面、読売新道などいくつかルートがあるが、どの登山口からでもコースタイムは10時間を超える。僕らは三俣山荘の取材も兼ねていたため、初日は新穂高温泉から鏡平山荘、2日目は三俣山荘に泊まり、3日目の午前中に水晶小屋に到着した。帰りは新穂高温泉まで一気に下った。

料金

  • 1泊2食 ¥10,200
  • 1泊夕食 ¥8,600
  • 1泊朝食 ¥7,800
  • 素泊まり ¥6,200
  • 子ども割引(高校生まで) 2食付き¥2,000引き、素泊まり¥1,000引き
  • 連泊割引 ¥500引き
  • グループ割引(前日に三俣山荘、三俣山 荘、水晶小屋のいずれかに泊まった方) ¥500引き
  • 収容人数 30人
  • 営業期間 7月15日〜9月30日

連絡先 TEL.0263-83-5735

http://kumonodaira.net/suisho

出典

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PEAKS 編集部

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装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。

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