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クランポン&アイスアックスのメンテナンス方法

クランポンとアイスアックスをばっちりメンテナンスしている人はそれほど多くはないのでは!? とくに手入れが難しいのはクランポン。そのコツを紹介しよう。

クランポンの爪を鋭く保つことが大切

世界的なアルパインクライマーでもある鳴海さん。これまでにいくつものアックスやクランポンを使ってきた。いまや、パーツごとにバラで保管して、山行内容に応じてオリジナルのセットアップまでするという、アックス&クランポンのエキスパート。

「手入れの基本は、サビさせないこと。アックスもクランポンも金属製品ですからね」。とはいえ、やることは注油して拭き上げるくらい。ウエアや寝袋などに比べれば、日常のメンテナンスは単純だ。

ただし、クランポンの爪だけは要注意という。「使い続けていると、必ずすり減って爪の先端が丸まってきます。見た目に1ミリ、2ミリの変化でも、雪面への食い込み方はずいぶん変わるんですよ。食い込みが甘いクランポンというのは、場合によっては致命的。ヤスリで研いで、先端の鋭さを保っておくことは重要です」

摩耗しやすいアルミ製クランポンならともかく、一般的なスチール製クランポンはそう簡単には摩耗しないので、山行ごとに手入れが必要というものではない。ただし、ちょっと鋭さがなくなってきたなと感じたら、面倒がらずに研いでほしいと鳴海さんはいう。鋭い爪の効果は想像する以上にあり、それは安定した歩行と安全につながるからだ。

その研ぎ方だけは、少々知識とコツがいる。そこを中心に手入れの仕方を教えてもらった

POINT

  1. サビや汚れを落とす
  2. 研ぎ方は道具ごとに正しい方法で
  3. 完全に乾燥させて保管するのが重要

必要な道具はコレ!

シリコンオイル

ウエス

ヤスリ

クランポンのチェックポイント

パーツに傷みはないか

ストラップやヒールレバー、スノープレートなどが劣化していないかチェック。センターバーやサイズ調整ラッチなどの金属パーツが変形していることもあるので注意する。

爪が摩耗していないか

クランポンでもっとも消耗するのがここ。先端が摩耗して丸まっていると、硬い雪面や氷に刺さりづらくなって危険なので、すべての爪を定期的に研いで鋭くしておこう。

アイスアックスのチェックポイント

サビたり摩耗がないか

ピックや石突きなど、スチール製で尖った部分のサビや摩耗具合をチェック。シャフトはそうそう傷むものではないが、まれに、凹んだり穴が開いたりすることもある。

クランポンの日常チェック

サビや汚れを落とすのが基本

一度使うだけで、クランポンはキズだらけ泥だらけになる。その状態で放置していると、サビだらけになってしまう。よほど深刻なサビでないかぎり、強度が落ちるようなことはないが、可動部分が固着してしまうのはよくあること。使用のたびに、激しい汚れを落として軽く拭いておこう。

写真のモデルはステンレス製なので、サビてもこの程度だが、通常のスチール製のものは一日で盛大にサビることもある。使用後の手入れは必須だ。

激しい泥汚れなどはまず水洗い。乾燥させてから、オイルを染みこませたウエスなどでサビや汚れを拭き取る。オイルを使うことでサビ防止にもなる。

ウエスはどんなものを?

ボロきれや古タオルなど、基本的になんでもよいが、ロストアローの修理部門では、糸くずの出にくいサラシを使用しているとのこと。

オイルには注意

シリコンオイルなど、樹脂パーツを傷めない成分のものがベスト。写真のシリコンスプレーは、ロストアロー修理部門で使用しているもの。

ストラップの傷みをチェック

クランポンには、ストラップやヒールレバーなど、金属以外のパーツも多い。こういう部分は壊れやすいところなので、定期的にチェックしておこう。ストラップは自分で簡単に交換できる。バックル類は自力での修理は難しいが、ショップやメーカーに依頼すれば、ほとんど修理可能だ。

ストラップの傷みで多いのは、ほつれや固定金具の故障。ほつれがひどいと雪が付着しやすくなるので、写真のような状態になる前に新品に交換しよう。

写真上は、岩に強くこすってできたほつれ。下は末端のほつれ。左は交換するしかないが、下の末端のほつれは、ライターであぶって固め直すこともできる。

ストラップを交換する際は、自分のモデルに合うか確認しよう。補修パーツは、ショップで購入できるほか、メーカーに交換を依頼することも可能。

スノープレートなどの傷みもチェック

スノープレートは、常に岩や地面にこすられているので傷みやすい部分。穴が開いたり、固定部分が壊れたりしたらもちろん交換すべきだが、表面のキズにも注意。あまりにキズが多いと、雪が付着しやすくなってスノープレートの効果が半減するので、ここも定期的にチェックしておこう。

多少のキズは気にしなくてもよいが、キズだらけでささくれていたり、大きめで深いキズがいくつもあるような場合は交換するとより快適に使える。

ほとんどのモデルで、交換用スノープレートが販売されている。メーカーはもちろん、モデルごとに形が異なるので、自分のモデルに合ったものを。

センターバーも、折れたり曲がったりしたら交換しよう。カーブしたものやしなる素材のものなど、各種オプションが選べるモデルも多い。

摩耗したクランポンを研ぐ

爪が丸まっていると危険!

クランポンの爪は岩などにこすられて次第に摩耗していく。先端が丸まってくると、硬い雪面や氷などに刺さりにくく、スリップしやすくなる。硬い雪面や氷というのは、ひとつのスリップが致命的というシチュエーションが多いので、鋭さがなくなってきたなと感じたら、面倒がらずに先端を研いでおこう。

前爪をのぞいた本体部分の爪は、歩行時に常に接地するので摩耗しやすい。歩行の安定性に大きく影響する部分なので要チェック。新品時から3~4㎜短くなったら買い換えを検討しよう。

写真は前爪を真横から見たところ。このモデルは爪の上下方向(厚み)を削って先端を尖らせている。左右方向(幅)を削っているモデルも多く、その場合は爪の左右を研いで鋭く仕上げる。

爪の成形の仕方

クランポンを研ぐには、鉄工用のヤスリを使う。研ぎ方の基本は、もともとの爪の形にできるだけ合わせて先端を鋭くしていくこと。その際のコツは、接地する方向(下向き)に歯を立てること。斜めに歯を立ててしまうと、接地したときに刺さりにくく、スリップしやすくなってしまう。

爪が斜めの場合、主として○方向にヤスリをかけて歯を下向きに立てるようにする。×方向に研ぐのは最小限にするとうまく仕上がる。

爪の厚みを削って歯を立てているものは上の図、横幅を削っているものは下の図のようにヤスリをかける。下の場合は左右均等に研ぐ。

力の入れ具合に注意

クランポンに使われている鋼材は硬いため、きれいに研ぐのはなかなか難しい。20~24本研がなくてはならないため根気もいる。つい雑にやってしまいがちだが、やりすぎると無駄に爪を短くしてしまって、クランポンの寿命を縮めてしまうことも。コツを覚えて、ていねいに研ごう。

1

研ぎたい方向に角度を合わせてヤスリをかける。力を入れるのはこのときのみ。

2

後半は力を逃がすようにヤスリをかけると、先端がうまく鋭角に仕上がる。

クランポンをしっかり固定して研ぐ

研ぐときは、クランポン自体をしっかり固定しないと、ヤスリの力が逃げてうまく研げない。ただし鋭利なものなので、ケガには十分注意しよう。グラインダーを利用する人もいるが、強度を落とさずに正確に研ぐのは熟練が必要なので、メーカーは推奨しておらず、ヤスリを使うのが安全。

研ぐときは足なども利用してクランポンをしっかり固定。ケガには十分注意。

一気に仕上げようとせず、削り具合を確認しながらていねいに研ごう。

ヤスリはいいものを使おう

ヤスリはものによって性能に差がある。よいものを使えば作業時間が短くてすみ、仕上がりもよくなる。昔からクライマーの間で使いやすいと定番的な評価を得ているのが、ニコルソンというメーカーのヤスリ。1本2,000円ほど。鳴海さんが使っているのもこれだ。

アイスアックスのメンテナンス

汚れやサビを落とす

雪山登山用の一般的なアイスアックス(ピッケル)は、クランポンにくらべれば手入れは簡単。基本的には、サビや汚れを落とすだけでよく、やるべきことは多くない。まれに、シャフトやピックが変形することがあるが、そうなると修理は不可能なので買い換えるしかない。サビ落としやサビ止めには、クランポン同様、シリコンオイルなどをつかうのがおすすめ。

ヘッドやピックはスチール製なのでサビやすいところ。サビが浮いていたら、オイルを含ませたウエスで拭いて落としておこう。

歩行時の雪落としに、シャフトでクランポンを叩くことがよくあるが、ラバーグリップに激しいキズがつくと雪が付着しやすくなってしまう。

シャフト先端の石突きは摩耗しやすい部分。あまりに丸まっていると滑りやすくなるので、ときおりヤスリで研いで成形しておくといい。

ピックは研ぐべきか?

クライミング用のアックスでは、ピックの鋭さや形状がパフォーマンスを大きく左右するので定期的に研ぐ必要があるが、通常の一般縦走用アックスはその必要はないといっていい。必要があるとすれば、岩に当てて先端がつぶれてしまったときくらい。それでも軽くヤスリをかけて成形するくらいで十分だ。

保管時は完全に乾燥させてから

クランポンやアックスは、素材的にそれほどデリケートなものではないので、保管も神経質になる必要はないが、水分だけは大敵。下山後に濡れたままクランポンケースに入れて放置などが、ありがちかつ最悪のパターンで、あっという間にサビだらけになってしまう。使用後は風通しのよいところで十分に乾燥させてからしまうようにしよう。

下山後に、ピックや石突にカバーをつけてそのまま収納というのもやりがちだが、カバー内側に水気が残っているとなかなか乾かず、サビの原因になってしまう。

教えてくれた人 ロストアロー 鳴海玄希さん

ブラックダイヤモンドやスカルパ、オスプレーなどを輸入販売するロストアロー勤務。先鋭アルパインクライマーでもあり、2018年にはインドヒマラヤで初登攀を果たした。

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PEAKS 編集部

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装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。

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