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北海道 大雪山 撤退の黒岳、天望の朝陽山

今シーズンいちばん早く雪が積もるのは、どこなのか? どこに行けば、先駆けて本格的な雪山を楽しめるのか? そこで向かったのは、北海道の中央部にある大雪山。本州でいえば、標高3,000m以上の気象条件をもつ過酷な環境だ。 しかし天気は荒れ模様。広大な山域のなかで、まずは比較的アプローチしやすい黒岳を目指すが……。

スノーシューをはいても深く沈み込む、柔らかな雪。ここはまだ順調だ

いつになったら、今年は山に雪が積もり始めるのかな。どこに行けば、本格的な雪山の気分を味わえるのかな。そればかりを気にして晩秋をすごした僕は11月末、とうとう大きなバックパックに雪山装備を押し込んで、羽田空港から飛行機に乗った。

思いがけず動き出した黒岳ロープウェイで五合目へ。

目指すは北海道の大雪山。そのタイミングでは、日本で唯一、まともに雪が積もっていた山域だ。大雪山はいくつもの山の総称であり、そこには北海道最高峰、標高2291mの旭岳が含まれ、山麓の西側には旭岳ロープウェイが運行している。また、旭岳山頂の東には火口を取り囲むお鉢があり、さらにその北東側にある標高1984mの黒岳の山腹にも黒岳ロープウェイ&リフトでアプローチできる。今回は、その黒岳ロープウェイを利用し、大雪山の山々を歩こうという計画なのだった。

ロープウェイの窓からは層雲峡の向こう側の山が見える。そのなかには朝陽山もあったはずだ。

旭川から層雲峡に移動し、ロープウェイの五合目駅で降りた僕は、まずは黒岳の七合目へ向った。スノーシューをブーツに取り付けると、はじめは深い雪でも難なく進むことができる。だが、ときおり太腿まで新雪に埋もれるようになり、スピードが出なくなる。これから先が思いやられた。

ロープウェイの五合目駅に降り立ち、次に黒岳リフトの五合目駅へと歩く。

ところで、僕はなぜ五合目からはじめに七合目を目指したのか。六合目ではないのは、たんに気分の問題だ。じつは五合目から七合目までは、通常ならば黒岳リフトで簡単に標高を上げられる。しかしこのときは、スキーシーズンを前にした整備運休中。そのために、自分の足でこの区間も登らねばならず、目下の目標は駅がある七合目になっていたというわけだ。

樹林帯のなかはあまり風を感じない。フカフカの新雪が気持ちよい。

そもそも、このとき黒岳ロープウェイが運行していたのは運がよかった。というのも、この山域はここ2週間近く猛烈な風が吹き荒れ、黒岳ロープウェイはほぼ運行ストップ。だから、スムーズに五合目まで移動できたことすらめずらしく、ありがたいことだった。

事実、旭川に到着した初日も強風で朝から運行中止。この日は東京からの移動もあって入山時間を早めることはできず、ロープウェイに乗らずに麓から歩くには時間が足りない。よって初日から入山を延期し、この日は、すでに北海道2日目になっていたのである。

黒岳リフトは運行停止中。その五合目駅の手前でスノーシューを履く。

これほど雪が積もる前の七合目までは、ある程度歩かれていたらしく、無雪期の登山道が下に存在すると思われる場所の雪は、それなりに締まっている。スノーシューを履けば、くるぶし程度までしか沈まない。ところが幅1mほどのその帯から外れると、一気に太腿まで雪中に埋没し、足が引き出せなくなってくたびれた。

だれの足跡もついていない雪の上。雪が少しでも締まっているのは夏の登山道があると思われる場所だけで、コースを一歩踏み外すと、すぐに太腿まで体が沈み込む。

空と周囲は思いのほか明るい。強風で頭上の薄暗い雲と雪煙がかき消され、光が差し込むタイミングも多いからだ。舞い上げられた粉雪はキラキラと輝き、雪山の美しさを格別にする。自分が暮らす雑然とした東京から、この黒岳山腹に来ただけでも満足度は高い。

硬い雪面がときどき現れ、スノーシューのエッジが小気味よく雪上にくい込む。

リフトの七合目駅に到着するころには比較的密生していた樹林帯が終わり、笹原のなかにダケカンバなどが点在するだけになる。すると、雪煙に巻かれる時間が増え、吹き上げられた雪で覆いつくされた一瞬、周囲が完全に見えなくなるほどだ。五合目駅ではわりと温かいマイナス5℃だったが、いまや体感温度もハンパなく低い。

強風が吹いてくると地吹雪のように雪が舞い、前方の視界が遮られる。

これは、ヤバいな……。今回の「理想」の行程は、黒岳石室の前で1泊目のテント泊を行い、翌日はお鉢をまわり、白雲避難小屋の前で2泊目。そして3日目に下山するというものだ。

だが日程中の強風が改善されなければ、「次点」はテント泊にこだわらず、黒岳石室で一泊し、お鉢をめぐって下山という計画。それも難しいようであれば、ルート半ばの北ほく鎮ちん岳だけで折り返すのが「次々点」。もしくはせめて黒岳だけには登り、日帰りで終わらせる。その旨は登山計画書にも記載した。なにしろ予報では台風に近い風速20m前後の風が続くのだ。

七合目をすぎると斜度が増す。こちらの天気は思わしくないが、少し離れた北大雪の山々の上には青空が広がっていた。

七合目をすぎると、傾斜が増して黒岳の山頂が近づく。その周辺には恐ろしいまでの薄暗い雪煙が渦を巻き、まるでなにか得体の知れないものが意思をもって空に襲い掛かっているような勢いだ。もはや強風どころか猛風である。

太陽の光が差す時間帯もあるものの、うす暗い雲が頭上を覆い、雪煙が恐ろしいほどの勢いで吹き上げる。稜線は間違いなく荒れ狂っている。

僕は呆けたように頭上の雪煙を眺めていた。すでに八合目近くまで登り、無雪期ならばあと20〜30分ほどで山頂に着き、そこから黒岳石室には10分もかからない。黒岳にはもう7〜8回は登っている。そのうち2回は、9月半ばだというのに大雪が降り、風もひどく寒かった。今回はそのとき以上に雪も風も気温も過酷な状況だ。

アイスアックス(ピッケル)は持っていない。忘れたのではなく、僕は難しい場所は避け、道迷いを起こさなければアックスが必要ないはずのルート計画を考えていた。必要になるくらいなら、すみやかに撤退しようとも。

それにしても、なんだか妙にワクワクして楽しい。危険な領域は近づいているが、まだすぐに引き返せる安全圏内。そして、その安全圏内から危険な領域を肌身で感じる。これくらいの緊張感はいい。

鮮やかな赤はナナカマドの実。これ以外は茶色の木の枝しか、周囲に色をもつものはない。

層雲峡を隔てて黒岳の反対側には、数年前に登ったニセイカウシュッペという山が見え隠れしている。その東隣には、名前に惹かれていつか登ってみたいと思っている比麻良山(ひまらやま)もあるはずだ。山頂付近には雲がかかっているが、おおむね晴れて青空も出ている。

長く伸び始めたつらら。先端を折って口に入れると、大雪山がより身近になった。

あちらなら少しは楽だったか? いやいや、きっと強風は同じだ。何度も黒岳の山頂付近を眺める。あの雪煙のなかに不用意に突っ込めば、体が吹き飛ばされるかもしれない。飛ばされないまでも強烈な向かい風を受け、体感温度はマイナス30℃以下になるに違いない。

次第に風は強さを増し、今後どうすべきかと考えるために休憩。保温ボトルのカップには強風で雪が吹き込み、熱い紅茶で瞬間的に溶けていった。

さて……。僕は雪中に腰を下ろし、熱く甘ったるい紅茶を飲みながら、しばし考える。いや、考えるまでもなく、心は決まっていた。今回は断念し、下山しよう。この日は金曜日。天気予報によれば週末には寒波が流れ込む。それも、「今世紀最強のハロウィン寒波」などと呼称するメディアもあり、この時期としては過去に例がない強烈さだ。無理をするのはバカげている。

潔く撤退を決め、七合目の駅がある場所へ戻る。

先ほど「理想」「次点」「次々点」などと段階的な計画を披露していたが、じつは五合目駅を出発する時点での僕の最終的な考えは、おそらく今回は「次々点」すら難しいだろうということ。あらかじめ撤退は半ば覚悟していたのだ。

撤退を決めれば、あとは迅速に戻るだけ。

帰路は雪上を重力に従って下がるだけだから、楽なもの。しかし、ついさっき自分でつけてきた雪上のトレースは舞い上がった雪によってほとんど消え、太腿まで沈み込んだ場所ですら早くも埋まりつつある。もしも翌日、黒岳を目指す人がいても、僕が前日歩いたことはわからないはずだ。

11月中旬にはスキー場になっているはずの斜面。そのころには大勢の人が入るのだろう。

振りかえると、黒岳の山頂は雪煙を上げ続けている。不思議なことに、僕は撤退したことを残念とも思っていない。さらに安全になった場所から見ていると、その荒々しさはじつにカッコよく、もはや山頂なんてどうでもよくなった。

五合目駅まで戻る前に、もう一度だけ黒岳を振りかえる。雪煙が弱まると山頂付近が垣間見えたが、あまりの荒れっぷりに、計画を断念したことを後悔するどころか、むしろ喜ばしいことにすら感じる。

五合目駅付近まで戻ると、もう風の影響はほとんどない。トレースもそのまま残っている。このあたりは、なんと平和な場所なのだろう。

ロープウェイで戻った層雲峡。このあたりは断崖絶壁ばかりだ。

出発時に声をかけてくれたロープウェイの係員さんに挨拶。「やはり今日は危険なので、またいつか出直してきます」返ってきた言葉は、「いい判断だと思いますよ」

リフトの五合目駅の近くには黒岳登山口の道標が。ここまでくればもう安心。

ホント、僕もそう思う。層雲峡に戻り、近くの野営場に移動。こんな季節にほかの利用者がいるはずもなく、エゾシカの鳴き声だけがこだまする。山上ではなく山麓のテント泊になってしまったが、これはこれで悪くない。

あまり人を怖がらないエゾシカ。この2頭はどうやら親子のようだ。
宿泊地は層雲峡野営場。冬に利用するのは初めてだった。

この日は静かで心地よい夜だった。もしも稜線まで登っていれば、間違いなくツラい一夜になり、それどころかなにかトラブルを起こしていたかもしれない。実際、数日前に旭岳では登山者が行方不明になり、自衛隊も出動して捜索活動が行なわれていた。

夜メシはカレーとスープ。水は近くを流れていた沢を利用したが、まだ凍結していなくてよかった。
分厚いダウンジャケットと寝袋に包まれ、テント内でくつろぐ。スマートフォンで確認すると、明日の天候はさらに悪そうだった。

翌日は黒岳から見るとニセイカウシュッペの手前に当たる朝陽山へ。この山域を中心にガイドをしている友人に相談したところ、朝陽山山腹のパノラマ台という展望地への往復をすすめられたのだ。

朝メシはラーメン。冬は体が温まる。

朝陽山は標高1370m。パノラマ台は1000mに満たない。風も強くないと思われ、視界が開ければあの黒岳を眺められる。ただし、朝陽山山頂までの道は途中で途切れてヤブに覆われ、大量の雪が積もらない限り、到達は困難らしい。

朝陽山のパノラマ台を目指し、樹林帯を登る。

朝陽山と標高が近い黒岳五合目の積雪量を想定すれば、山頂付近の雪はヤブをわずかに覆った程度で、雪を踏み抜いてまともには進めないだろう。山頂にも行ってみたかったが、今回はパノラマ台だけでよしとした。

はじめはキャンプ地から車道を行く。前日からの雪で道路も真っ白だ。

それにしても、撤退した山を見るために反対側の山に登るとは、おもしろい! 地図に登山道は記載されているのに、僕の計画にはまったく入っていなかった山だが、やはり地元の人に聞いてみるものだ。しかもルート上の注意点も教えてくれて、ありがたい。

頃合を見てクランポンを付ける。これで一気に歩きやすくなった。
本の穴には、真っ赤なナナカマドの実がいっぱい。どんな動物が隠したのか?

登山口から標高を上げていく。途中まではブーツの底に雪の下の岩や枯枝の感触があったが、次第に柔らかな雪だけを感じるようになり、僕はブーツにクランポン(アイゼン)を取り付ける。それからスピードは急速に上がった。

気温は予想以上に高く、岩の前で休憩しがてらハードシェルを脱ぐ。

天気は前日よりも明らかに悪化している。昨日と同じく、ときおり淡い陽射しが差し込むが、おおむね曇りで上空の風は非常に強い。スマートフォンで調べると、黒岳ロープウェイは再び運行中止で、昨日、無理に黒岳へ登っていたら、帰りは山麓まで歩くハメになっていた。やはり撤退して正解だった。

パノラマ台と山頂付近まで延びる道との分岐。

低い尾根をまたぎ、分岐を右に曲がって斜面をトラバースしていく。パノラマ台はもうすぐだ。そのとき、なんと青空が広がり始めた。いまこの瞬間ならば、きっと黒岳が見えるに違いない。期待とともに最後の短い痩せた尾根をすぎると、僕はパノラマ台の上に立っていた。

とうとう到着したパノラマ台は、切り立った崖の上。しかも強風でとても立ってはいられないのだ。この絶好の展望台からの景色は、P16も見てほしい。
いたるところにあったピンクのテープ。だから道はわかりやすい。

黒岳は……。残念ながら山頂付近は今日も強烈な雪煙が舞い、確認不可能。だが山麓には層雲峡の街並み、山腹にはロープウェイとリフトが通る白い線がはっきりと見える。周囲には白雲岳や赤岳の稜線が並び、黒岳山頂が眺められなくても十分すぎる展望だ。

尾根の上では強烈な風を受け、再びハードシェルを着込む。

だが、そんな風景に感激していたのは一瞬のこと。パノラマ台は想像以上の強風にさらされ、しかも断崖絶壁の上。とてもではないが、怖くて立ってはいられない。僕はドンと腰を下ろして重心を低くしたが、それでも恐怖心が収まらない。高所恐怖症とは無縁の僕がこれほど怖くなるとは、我ながらビックリだ。これなら、昨日の雪煙のほうがよほどマシである。

大粒の雪が勢いを増し、帽子の上に積もっていく。
この日も最後までほかの登山者とは会わず、足跡は自分たちのものだけだった。

再び立ち上がり、よろよろと安全地帯まで戻る。これでひと安心。とはいえ、これでは少々歩き足りない。僕は分岐まで戻ると今度は山頂方向へと足を進める。だが標高1150mほどの尾根上に出ると本格的に雪が降り始めた。もはや眺望は無理。先ほどのパノラマ台での青空が、最後の天からのプレゼントだったのだ。

パノラマ台のあとは山頂付近へ続く登山道を尾根の上に出るまで進んだ。今回はここで折り返すことに。

今度こそ、僕は潔く引き返すことにした。層雲峡野営場に張ったままのテントには、雪が降り積もりつつあるだろう……。

層雲峡に降り立ち、パノラマ台のほうを見上げる。いまあそこにいても、ほとんどなにも見えないだろう。

当初の目的は遂行できなかったが、無理はしていけないのが、雪山というもの。だが、難しいからこそおもしろかった。

これでいいのだ!

張りっぱなしにしていたテントに戻る。これにて今回の雪の旅は終了。

初冬を迎えた大雪山系 層雲峡の南、そして北の山へ

基点は、大観光地でもある層雲峡。ここから南側の大雪山の中心部に向かって年中運行の黒岳ロープウェイが五合目まで、そして黒岳リフト(今回は整備のため運休中)が七合目まで延び、登山に利用できる。その反対の北側にあるのが朝陽山で、山頂までの道は途中で途切れているが、展望台のパノラマ台まではしっかりとした登山道がついている。層雲峡野営場は層雲峡の中心から東に10分ほど歩いた場所にあり、無料で利用可能だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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PEAKS 編集部

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装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。

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