読書でひとり山へ出かけよう!
PEAKS 編集部
- 2020年06月04日
ソロトレッキングと読書。それらは孤独を有するという点で似ているかもしれない。ひとりで山に行きたくなる。そんな魔法を持った新旧の注目本をご紹介。
山に毎日いられずとも、本なら毎日でも読むことができる。
右から)山と書物 小林義正 築地書館/1957
山で一泊 辻まこと 創文社/1975
山のABC 串田孫一(編著) 創文社/1960
登山のたのしみ ガストン・レビュファ(訳・近藤 等) 白水社/1967
山のパンセ 串田孫一 実業之日本社/1972
文字を追うことを通して、だれかの物語を追体験する山旅へ。
「単独行はすべての責任を自分で引き受けなければならない。一歩踏み出す責任、岩を登る責任、ロープを出すか出さないかの責任、それに伴う時間の遅れ、続けるかどうかの判断、自分の知識と経験を脳内と肉体に蓄積されたデータベースから引き出し、それを目の前の状況と照らし合わせて最善の選択肢を選ばなければならない責任である」
グーグルアースのはこびる現代に取り残されていた地理的空白部。
人跡未踏の地の踏査を試みた『空白の五マイル』のなかで、角幡唯介は単独行、そして冒険についてこのように独白している。
憧れの地に向かったのが角幡だとすれば、憧れの人の旅路をたどりたいと思う人もいるだろう。単独行のスーパースター、加藤文太郎の生涯を描いたモデル小説『孤高の人』は定番中の定番といえる。
谷甲州による伝記小説『単独行者新・加藤文太郎伝』とぜひ読み比べてみたい。
『神々の山嶺』では主人公・羽生丈二がエベレスト南西壁冬季無酸素単独登頂に勇猛に挑み、服部文祥は『サバイバル登山家』のなかで食料を自力で現地調達する。ハードな山行とは対照的な、『ひとり登山へ、ようこそ!』からソロに目覚めた人も多いはずだ。
ここまでに挙げたタイトルは山、それもソロを扱う本の代表的な存在。すべてを諳んじられる人もいるだろう。でも、もっとほかの本についても知りたい。そんな思いを胸に、山の本の品揃えが光るブックス・モブロへ駆け込んだ。
「山の本には2種類ありますよね。ルートやタイムを解説するガイド系と、想像力を膨らませる紀行文系。僕は文学的な要素を含んだ後者が好きですね」
店主の荘田賢介さんが真っ先に手を伸ばしたのは、詩人の串田孫一による『山のパンセ』だった。
「これは続編といい文庫版といい、さまざまなパターンがありますが、この箱入りというのがポイントです。見てくださいよ、箱のここ。『寂しい山にひとりで登りなさい』って、すごいドSっぷり(笑)。山はすてきなんだけど、ひとりで行くように、怖い部分や嫌な部分も感じられないといけませんよ、ということなんです」
荘田さんはプライベートで丹沢を歩いたり、お店でもハイキングイベントを実施したりするという。続けて、山の画人の第一人者による『山で一泊』を挙げた。
「辻まことさんの本は絵の題材がすてきだなと思います。山そのものというよりも、農家やマタギなどを好んで描いているように思います。軽い文体と絵が調和しているのも魅力的ですね」
時の流れを感じさせる本を手に取りながら話を続ける。
「本としての魅力がすばらしいのは、『山のABC 』と『山と書物』でしょうか。言葉、絵、写真などいまの本にはない贅沢な印象で、めくるのが楽しいですよね。『登山のたのしみ』は、ハードコアな登攀をやっているのにそれを微塵も感じさせない、レビュファの穏やかな筆致がおすすめです」
本を読んでも、山の頂に立つことはできない。それならと、荘田さんは書き手の山旅を追体験することを望む。「だから『アルプ』が好きなのかもしれません。いろいろな人が、山に対していったいどんな想いを抱いていたのか。彼らのトレースをたどるように、活字を楽しんでみてはいかがでしょうか」
知らなきゃ恥ずかしい!? 定番本
孤高の人 新田次郎 新潮社/1973
神々の山嶺 夢枕 獏 集英社/2000
サバイバル登山家 服部文祥 みすず書房/2006
ひとり登山へ、ようこそ! 女子のための登山入門 鈴木みき 平凡社/2011
空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む 角幡唯介 集英社/2012
ブックスモブロ 店主/荘田賢介さん
鎌倉の人気古書店、ブックスモブロを経営するかたわら、市内で年に1回開催されるイベント「ブックカーニバルinカマクラ」の代表も務める。
ブックスモブロ
※2019年6月惜しまれつつ閉店しました
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。