矢島センセー奥多摩で写真について教えてください!
PEAKS 編集部
- 2020年08月28日
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山で写真を撮るのって本当に楽しい。なんだけど、プロのカメラマンの写真と比べると、やはり写真の良さが二味も三味も違う。達人の技と視点、そして山撮影の心構えを聞けたらなあ……なんて妄想を浮かべてたら、優しき矢島プロからお誘いが。山と写真が大好きな生徒ふたりが、センセーとブナの森へ――。
撮って、撮って、撮りまくれ!
鈴木優香(左)
剱も雪山も攻める登山歴7年のガチ山女子。山で見た景色をハンカチに仕立ててゆくプロジェクト「マウンテンコレクター」(www.mountaincollector.com)を手がける。
矢島慎一(中)
山写真歴10数年で、小誌でも山での撮影法の連載を担当するカメラマン。好きな山域は生まれ故郷に近い奥秩父、山撮影のモットーは「とにかく押せ!押せば写る」。
鈴木健太(右)
アウトドア・旅ライター。普段の登山にも一眼レフを携行するが、プロに教えを受けながらの山行は初めて。旅行誌では撮影まで担当することも。舵社『カヌーワールド』で連載中。
ゆっくり歩いてもおよそ3時間。これから撮影登山に行く三頭山のコースタイムだ。今回先生役となる矢島さんに、当日の車中で山名を知らされた鈴木優香さんとライター鈴木は、ともに北アルプスなど高山が大好物。
「奥多摩の低山で、標高は1500mぐらいかあ……」
スズキーズのやや下がり気味のテンションを見透かし、矢島さんがニヤリと笑って補足する。
「たとえばコースタイム1時間くらいの低山を、半日ぐらいかけてゆっくり撮り歩く贅沢撮影山行をすると、山の写真に対して新たな気づきが生れます。僕もよくプライベートで冬の高尾山に出かけ、丸1日かけて撮影してますよ」
なるほど、そういうことネ。登山口の森林館に着くと、僕はキャノンの一眼レフ・7Dを、優香さんはニコンの一眼レフ・D5000をバックパックから取り出した。「普段は父からもらったミノルタのフィルムカメラで撮影してるんですけど、今日はデジカメでの撮影山行と聞いて、こっちを持ってきたんです」
「優香さん、今回の山行でテーマを決めませんか? 僕は矢島さんに光と影を徹底的に教わり、それを追いかけたいです」
「私のテーマは〝とにかく好きなものだけを撮る!〞。地面に落ちた葉っぱや岩そのもの、枯れてる系のものが好きなんですよ」
さすが美大卒、視点が渋い。準備運動を終え、いざ森のなかの登山道へ。今日の予報は曇り一時雨。矢島センセーの真似をし、サコッシュに速乾タオルをくくりつけ、万が一の雨に備える。が、予報とはうらはら、時折木漏れ日が輝き、まずまずの天気だ。葉を透けた緑の光がきれいだなあ……なんて思ってたら、横でさっそく、優香さんがパシャリ。
「撮りたいと思った瞬間に撮ってみるのが大事! まずは練りすぎずに、バーンバーンとシャッターを切ってみてください!」 と、山に入った途端にホットモードの矢島センセー。センセーは説明に擬音語が多くて巨人の長嶋元監督みたいだけど、写真への愛をスゴく感じるし、教わる僕らの気分も盛り上がる。
まずはいいと思ったものを撮ってみて、目で見た感じ方とモニターでの見え方に違いを感じたら、明るさや色味を変えて撮影し直せばいいそう。
写真もトります♪ 食事もトります♪
先生に教わった色味を変える簡単な方法に、ホワイトバランスの変更がある。太陽のマークや電球のマークなどで液晶やダイヤルに表示されてるアレだ。
「例えば太陽光モードで撮ったら青みが増し、曇りモードで撮ったら赤みが増します」
試しに太陽光モードで葉っぱを撮ってみると……おぉ、普通に撮るより爽やかな雰囲気に!
マイペースにシャッター切り続ける山の撮影団は、鞘口峠(さいぐちとうげ)の分岐に到着。ここでセンセーから優香さんへ提案が。
「一度、僕のレンズを貸すので、それで撮ってみたら? f1・8と明るいレンズですので、ボケ味もきれいですよ」
「f値ってなんですか?」
「絞り値ともいって、この値が小さくなるほどピントの合う幅が狭くなり、例えば手前にある花にはピントが合い、背景はきれいにボケるんです」
さっそく、目の前の標柱を撮ってみる優香さん。
「本当だ。ただ標柱を撮っただけなのに背景がボケて雰囲気が出た!」
分岐を左に折れ、浅間尾根の森をさらに進む。途中、急斜面で細く光るクモの糸に反応した優香さんが、ガガッと地面を蹴って登り、レンズを向けた。おっとり系の子だけど、被写体を見つけたときの集中力はスゴい。
「風景の開けた稜線と違って、森や谷のほうが光と影がドラマチックなんですよ。1カ所だけスポットライトみたいな光が当たってる場所があるみたいに」
センセー曰く、光の向きは写真の雰囲気を決める重要な要素。
低木の写真を3カ所で撮影したものをモニターで見せてもらうと、逆光は葉に透明感のあるキラキラした雰囲気に、光が正面から当たった順光は枝や葉の形・色が目の前の実際の木と同じに見えた。
「横から光が当った状態の〝サイド光〞で撮っても、被写体が立体的に見えておもしろいですよ」
試しに杉の幹をサイド光で撮ると、杉皮の凹凸がはっきり見えてなんだかかっこいい。
「あとは被写体を撮る角度を変えてみてください。たとえばあの白い花。ここから撮ると花の後ろの風景が抜けていて明るいから花があまり目立たないけど、こっちから撮ると……ほら!」
「おお~」
しゃがむ、ずらす。被写体がよく映える角度を探してみよう。
日陰にある木の幹の濃い茶色を借景に、白く浮かび上がる美しい花の画像を見せられ、感嘆の声を上げるスズキーズ。
ちょっとの工夫で、写真がこんなに変わるとは。
山頂手前のブナの路に差し掛かる午後、雲の厚みが増し、森のなかが少し暗くなった。
「日が差していないのなら、花や葉の葉脈など、繊細な部分はかえって写しやすいので、被写体そのものの魅力に迫るのもおもしろいです。
曇っていても、光と影がないわけではなく、明暗差が弱くなっているだけ。ピーカンのときは明暗差の激しい硬い光、曇りのときはやわらかい光。それぞれをどう楽しむか、だと思います」
と、言ってるそばから、センセーは先行していた優香さんが森を抜ける瞬間にシャッターを切った。
光が少ないときでも、森を抜けた場所と森に明暗差は必ず生まれ、いい画を狙いやすいそうだ。
蛍光がかったブナの葉と明るい灰色の木肌に惹かれ、夢中で撮影していると三頭山の山頂に到着。
山頂は木々の緑が濃く、その枝の合間からぼんやり山なみが見え
る。先生、広い風景を撮るときはどうすれば?
「f値を8~11に絞り、全体的にピントが合うように撮るのが一般的。だけど、開けてない山頂の場合は、f値を小さくして、撮りたい遠方の山にピントを合わせ、手前の木々をボカしたほうが、意図のはっきりとした画が撮れますよ」
センセーの風景撮影講義に耳を傾けているあいだ、後ろでは優香さんがベンチにカメラを向けて、なにやら懸命に撮っている。
「見て、カケスの羽根。青と黒のコントラストがスゴくきれい」
遠巻きに見ていたセンセーは
「優香さんは被写体の好みと見つめ方、被写体への距離の取り方に強い意志を感じるよね」と絶賛。
CHECK
逆光ってダメなの? 順光ならなんでもいいの?
正面から光が当る順光(上)は被写体の形・色をはっきり正確に伝えやすく青空の風景を広く撮るときにおすすめだが、ベタッとした単調な画になることも。背後から光が当る逆光(下)は被写体をふんわりキラキラした雰囲気で撮ったり、ドラマチックなイメージで撮影できたりする。撮りたい意図によって使い分けることが大切。
低山でじっくり撮る、急かすもののない贅沢時間
下り道は、センセーからの提案により、モノクロで撮ることに。色彩がなくなるぶん光と影を意識的に見るようになり、逆光、順光、サイド光で撮るとどうなるかわかりやすくなるのだとか。各光の性格が一番分かりやすかったのが、下りの予定ルートから少し外れてまで向かった三頭山避難小屋だ。
室内に入り、窓辺のランタンを逆光で撮っている優香さんを、真横からパシャリ。モニターを見ると、光の当たっている腕や頬だけ浮かび上がる、立体的な写真が撮れた。
ブナの質感サイコー。しばし頬ずり良いスか?
一方、優香さんも「逆光でランタンを撮ると、上の立体的な文字の凹凸がしっかり浮き出て、いい画が撮れ!」と、なにかを掴んだようす。
「山小屋はサイド光の宝庫。窓辺で撮れば光の当っているところだけ目立ち、影の部分はストンが落ちて雰囲気が出る。小屋の窓辺は鉄板ですよ~」と矢島センセー。
小屋のランタンで光の捉え方を伝授。
森のなかでは全体より自分が気になる〝部分〞を探そう。
その後も沢を撮ったり、滝を撮ったりと十二分に撮影を楽しんだ一行。気づくと下山口に着いたのは出発から6時間半後。コースタイムの2倍以上をかけた山行だった。
「いままで山頂を目指してひたすら歩く登山が多かったけど、たまには写真とじっくり向き合う山もいいなと思いました」という優香さんにセンセーもうなずく。
「普段は〝歩く〞ことがメインで〝撮る〞ことはサブですが、今回はそれを逆転させた山歩き。遠くは行けない代わりに、被写体を発見する感動や、それを写真に変換する楽しみを存分に味わえたと思います。次は山小屋に連泊し、稜線の景色や、朝夕のきれいな光をじっくり撮影してみませんか?」
「センセー、ぜひぜひ!」
(スズキーズ声を揃えて)
檜原都民の森 三頭山撮影山行
データ
- 都民の森 森林館~鞘口峠~三頭山~森林館
- 総距離:約5.3km
- 総歩行時間:約6時間半
アクセス
中央自動車道上野原ICから約45分。JR武蔵五日市駅からバス乗り継ぎ計75 分(バス運休も)。
アドバイス
水場が少なく水は多めに携行を。都民の森駐車場は17:30閉鎖(季節により変動)なので注意。
CHECK
ピントをどう合わせたいか、それが問題だ!
基本用語として覚えておきたいのがf値(絞り値)。一眼レフ本体のダイヤルなどで数値を増減でき、数値が小さいほどピントの合ったところ以外はボケて(上)、大きいほど全体にパキッとピントが合う(下)。「f値の最小値はレンズによって違う。森のなかでの撮影は、大きくボカすことができるf値の小さい単焦点レンズがおすすめ」と先生。
放課後反省会
シャッターを切りに切り、撮りに撮った写真のなかから、下山後それぞれお気に入りの1、2枚を選び、誌上でプチ寸評会。同じ山行でも撮り手でこんなに視点が違うとは。出るか、矢島先生の激辛コメント!?
ヒノキ(左)とブナに寄って撮影したものです。優香さんが「木肌を画面いっぱいに切り取るのが好き」と言ってたのを聞き、自分もマネてみました。あえてマイナスの露出補正をして暗めに撮ることで、木肌のしっとりとした表情を際立たせています。
森のなかで被写体を探すコツは、全体を見ようとしないこと。みんなの写真を見ればわかるように、自分が気になる“ディティール”を探すのが大切です。その際、暗いシーンに強く、被写体の前後を大きくボカせられるf値の小さい単焦点レンズが、活躍します。
花が地面に落ちているので、一般的には時期を逃したと思われがちですが、私はむしろ美しいと感じました。花のピークを求めて山に行くのも良いですが、たまたま歩いたそのときに見られるものを、そのままの姿で撮るのもおもしろいと思います。ほかに山火事注意の看板やカケスの羽根の写真も、今回のお気に入り!
【センセーからのひと言!】
だれも気づかなかった地面に散らばるサラサドウダンに着目したのが見事。それを絶妙な距離感、フレーミングで収めてます。
普段は青空の開けた絶景や花など分かりやすいものを撮ることが多いけど、今日は光と影だけを追い、一見地味な被写体にも目を向けました。葉っぱの写真は、曇りのやわらかな光が葉脈を浮かびあがらせてきれいだなと。優香さんの写真は小屋のサイド光がドラマチックでシャッターを切ったら、立体的な画が撮れました。
【センセーからのひと言!】
テーマの光と影を捉えることに成功してます。葉っぱの写真はもう少し近づき、背景をボカすと主役の葉がより際立ちます。
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- CREDIT :
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文◉鈴木健太 Text by Kenta Suzuki
写真◉高橋郁子 Photo by Ikuko Takahashi
取材日:2017年6月29日
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。