『ブッシュクラフト読本』|PICK UP BOOK
PEAKS 編集部
- 2020年09月11日
reviewer 鈴木アキラ
焚き付けにするからと、生木のシラカバの樹皮をナイフで剥がしている自称ブッシュクラフターと先日やりあったばかり。著書 に「アウトドアで活躍! ナイフ・ナタ・ 斧の使い方」(山と渓谷社)ほか、多数。
ブッシュクラフトをビギナーにもわかりやすく解説。
最初に断っておきたいのだが、僕は当初「ブッシュクラフト」という言葉に「ロハス」と同様の商業的なニオイを感じて嫌悪感をもっていた。どちらも、考え方やそれが目指す方向性には共感できるし、ヒトが生きるうえで大切な要素であることには間違いないのだが、その新しい言葉やイメージをモノに結びつけて儲けようとする考えが透けて見えていたからだ。
「マタギやアイヌの伝統野外生活技法」では目新しくもなくモノも売れないのだ。芸事の家元制度同様に、BBQをはじめとしたさまざまなものに「検定」制度を作って資格を与えようとする金がらみの動きにも嫌悪を感じているのだが、ブッシュクラフトも検定制度がすでに存在しているようだ。
また、ブッシュクラフト好きな人のキャンプスタイルを見ていても、画一的すぎてだれもが同じに見えてしまう。ナイフは北欧製、焚き火の着火はメタルマッチか火打石、食事の煮炊きはガスやガソリンのストーブは使わずすべて焚き火、タープの下で寝るのが基本、服はアースカラーでなくてはならずアロハシャツなどは論外。と、ここまでハードなサバイバルスタイルを貫いているのに、整備されたキャンプ場で1泊してご飯食べて帰ってくるだけのキャンプでは、もったいなさすぎる。
北欧ナイフを卸している会社の友人が「売れるのはいいのだけれど、だれも彼もがバトニングをするために美しい木製ハンドルが傷だらけになったり割れてしまったりして、さらには強度が足りないと苦情を言われたりする」とぼやいていた。とまあ、いまの日本における「ブッシュクラフト」というものの現状に、のっけからとても辛口の話になってしまったのだが、長谷部さんのこの本を悪く言うつもりはまったくない。それどころか、そうそう!ブッシュクラフトみたいなことは、こういう紹介の仕方をされるべきなんだよ、と思う。
ブッシュクラフトを「プリミティブに自然を楽しむ遊び」と捉えているのも、「いまの自分のキャンプスタイルに少しずつ取り込んで覚えていけば楽しいよ」という考え方や、「メタルマッチや火打石で着火しなければブッシュクラフトではない!などということは決してない」と日本のブッシュクラフトの現状を危惧しているような書き口にも非常に共感を覚える。また、サバイバルの分野にも属する知識や技術の話を、これから始めてみたい人にも非常にわかりやすく書いているのは、さまざまな野外体験をし、講習会などで人に伝えている長谷部さんならでは。
ブッシュクラフトには「しなやかな知識」が必要で、そのことをきちんと知っているのが伝わる。僕はブッシュクラフトこそ、子どもに伝えるべき知識と技術だと考えている。「子どもがキャンプについて来てくれなくなったから、ひとりでブッシュクラフトでも始めてみるか」ではなくて、できれば子どもといっしょに、この本をベースとして、少しずつスキルを高めていってほしいと思う。また、当然だが、災害対策の教科書としてもこの本は最適だ。
ブッシュクラフト読本
- 長谷部雅一 著
- ¥1,680
- メイツ出版
著者の長谷部雅一さんは、本誌でも人気の連載ページをもっているアウトドアプロデューサー。彼のこれまでの経験と知識をブッシュクラフトという切り口で紹介しているのが本書。「ブッシュクラフトはこうしないとダメ!」的な書籍やネットの紹介が多いなか、ブッシュクラフト本来の自由さ、楽しさを伝えてくれる本。
- BRAND :
- PEAKS
- CREDIT :
- 文◉鈴木アキラ Text by Akira Suzuki
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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