シーズン直前!緊急雪山座談会|ボクたち、ワタシたちは雪山に夢中です!
PEAKS 編集部
- 2020年11月02日
雪山愛ふっかふかの男女4人が集い、その魅力をクロストーク。雪山経験値の違う4人が語り合うことで、初心者の不安やベテランの装備まで話題は多岐に渡り、3時間超えの熱き座談会に! 雪山を始めたい人、深めたい人、必読です。
文◉鈴木健太 Text by Kenta Suzuki
写真◉飯坂 大 Photo by Dai Iizaka
出典◉PEAKS 2019年12月号 No.121
座談会メンバー
冷たい風が体を吹き抜けていく感覚が好きなんです。
田中友花里さん(左)
学校で保健の先生を務める。雪山を始めたのは1年半前で、奥多摩や丹沢など低山が中心。清楚な見た目とはウラハラ、トレランのレースでは随時好成績を収めるガチランナー。
鬼ラッセルや撤退の判断もふくめて雪山の醍醐味。
橋本 充さん(左から2番目)
エディトリアルデザイナー。雪山歴は2020年で6年目で、厳冬期の硫黄岳~赤岳縦走や阿弥陀岳北稜を登れる装備と技術をもつ。本人いわく「静けさのなかの鬼ラッセルが雪山の醍醐味!」。
生死の緊張感を越えた先に待つ風景は感動もひとしお。
平野 咲さん(左から3番目)
カリマーのプレス担当。不安や重圧を乗り越えた先の絶景が好きで雪山にハマり、2020年で4年目。昨冬は南八ヶ岳や西穂高岳にも登頂。今後はロープを使う冬期登攀にも挑戦予定。
残雪期を含むと雪山の時期は長い。遊ばないとソン!
吉野時男さん(左から4番目)
千葉のアウトドアショップ「ヨシキ&P2」 スタッフ。厳冬期登山歴10ウン年と今回のメンバーのなかで経験値はいちばん。沢登りから山岳スキーまでなんでもこなすツワモノ。
シーズン直前! 緊急雪山座談会
――平野さんは昨冬、厳冬期の西穂高岳に初挑戦したんですよね。
平野 はい。風も吹雪もなく、もう最高の天気と景色でした。
田中 わあ、すごい斜度。空もきれいですね。
平野 大雪が降って危ないかもって言われたんだけど、ちょうど当日は雪が止んで。風もなく、非常にラッキーな天候でした。朝焼けを見に行ったので、6時くらいに山頂に着いて。日の出とともに周りの山並みが雪で白くなっているのがわかりました。空の青さと山肌の白さ。夏山とはまったく色の違う世界で感動しました!
橋本 雪山を見ると山岳信仰が生まれたのもわかる気がする。雪をかぶった山って神々しいですよね。
吉野 僕が神々しいなと思ったのは、冬の戸隠の奥社へ向かう参道。スキーを履いていったんですけど、あの太い杉並木のなか、だれもいなくて厳かな雰囲気でした。
田中 私はみなさんと違って、雪山は奥多摩や丹沢の低山、北横岳あたりしか行ったことないんですが、静謐な雰囲気は大好き。トレランのときはシビアに攻めて走るんですけど、プライベートで雪山に入るときは、冷たくてきれいな空気のなか仲間とのんびりコーヒーを楽しんだり、ヒップソリでプチエクストリームをしたり。
橋本 自分の仲間にもヒップソリを持っていくヤツがいます。バックパックにくくりつけてるから、仏像の日輪みたいになっていて(笑)。僕は山頂の絶景も好きだけど、静かな雪景色のなか、延々と繰り返すラッセルも好きで。アックスで雪を崩して、足で固めて前に進む。遮二無二登っていく感じが気持ちいいんですよね。
吉野 自分で道を作りながら登っていく感覚ね。
橋本 そうです。クランポンで雪を踏む音、ときおり枝からバサッと雪が落ちる音もいい。雪のない熊本生まれなので、雪を踏むだけで気分が高揚します。
吉野 5年前、橋本君と冬の谷川岳に登ったときも、うれしそうに先頭でラッセルしてたもんね。
橋本 あのときは冬山の技術を覚えたくて、吉野さんに教えてもらいながら初めて厳冬期の山を登りました。すごい吹雪で、夏山なら20~30分で行ける天神尾根までを、2~3時間胸ラッセルで格闘しながら登ったんです。
吉野 猛吹雪で視界も悪いし、雪庇の場所もわからない。トレースも消えてしまう。こりゃあ僕でも怖いなって思い、結局撤退しましたけどね。
「山頂に登れなくてもいい雪を踏むだけで胸が高鳴る」(橋本)
橋本 本当に怖いと思ってました? なんかニヤニヤしてましたけど(笑)。
吉野 危ないなと思うときは笑うようにしてるの。実際に撤退する少し前から、もうその判断は自分のなかで付いてるんだけど、同行者を焦らせても意味ないでしょ? ある程度歩いて「これは無理だな」と同行者も理解したあたりで「今日は帰ろうか」とやわらかく声をかけるようにしてます。真剣な表情になるときは、よっぽど危険な状況だけ。
平野 わたし、突っ込むか撤退かの判断で失敗したことがあるんです。残雪期の蝶ヶ岳に友人と登ったのですが、クランポン6本爪の子やアックスのない子など、装備も雪山登攀の技術も全員ばらばらでした。途中、連続で転んで心が折れてしまった子がいたので、行くか戻るかみんなで揉めに揉めたんです。一応そのパーティではわたしが山行回数がいちばん多くて、「これくらいのコンディションなら山頂に行けるはず!」とタカをくくっていたのですが、結局撤退することに。帰りの車内の雰囲気も暗くなってしまって。もっと吉野さんのように心構えをやわらかくしないといけませんね。
吉野 でも、そういう失敗経験は大切だと思う。短い時間で雪山登攀の技術を上げるなら経験者と登るのが近道かもしれないけど、仲間と登って痛い目を見た経験ほど体に身に付くのはたしか。
道具談議に花が咲くのはみんな雪山が大好きだから。
橋本 僕は山頂に登るのがすべてじゃなく、GOなのか撤退なのかの判断を含めて、雪山の醍醐味だと思っています。
平野 橋本さんの場合、雪山のご褒美をどこに設定しているの?
橋本 ご褒美かあ……僕の場合、雪山の行程全体を楽しむのが第一目的ですね。友人と行く山域の計画段階から、行くか戻るかの仲間との話し合い、帰りの小屋でカレーを食べて危険なく下山するってとこまでが楽しい。雪山を旅する感覚ですね。駐車場まで無事戻ると、生きてることを実感します。
橋本さんのPICK UP ITEM… 山のお守りに御朱印帳は欠かせません
軽量なのに万能!
ディスプレイの良さが決め手
山行のたびに神社へ立ち寄り
――平野さんのスパーンとした絶景を求める楽しみ方とはまた違い、橋本さんの雪山の楽しみ方は妙味がありますよね。
吉野 たしかに、橋本君の登る雪山って、曇ってて風の吹いてるなか雪の付いてる岩稜帯を登ってるイメージ(笑)。
橋本 はい、悪天のときが多いかも。山頂踏んでも悪天で危ないから、とくに喜びをわかちあうこともなく「早く下りよう!」みたいな。雪山に立ち向かう感覚が好きなのかもしれない。
田中 ラッセルの話といい、M寄りの登山ですね(笑)。
吉野 昨シーズンも大寒波のなか八ヶ岳の阿弥陀岳に登ろうとしてたでしょ?
橋本 はい。でも悪天が予想されるときは仲間とBプランも考えておくんです。阿弥陀岳のときは、登れなかったら赤岳鉱泉のアイスキャンディでクライミングをしようと考えていて、実際に現地でBプランに変更しました。
平野 なるほど! Bプランで満喫できれば、帰りの車中も楽しくすごせますもんね。
「北横岳からみた真っ白な南八ヶ岳の峰々をいつかは登ってみたい」(田中)
――田中さんは3人の雪山話を聞いて、3000m級の雪山も行きたくなりました?
田中 さっきの西穂のような風景は憧れます。でも、ケルンも埋もれてしまうほどの世界ですよね。トレースが消えるほどの雪が降るとなると不安なので、最初は経験者と登りたいです。
平野 わたしもいつも登る前は不安です。「今日死ぬかもしれない」って思って毎回家を出ますから。西穂に行くときも「ピラミッドピークか独標まで行けたらいいほう」といろんな人に言われたので、緊張しながら稜線を歩きました。でも、それを乗り越えて山頂に立つと、感動もひとしお。夏山とは違ったいろんな想いが乗っかるから、また風景が格別なんですよね。死ななくて良かったって!(一同爆笑)
吉野 雪山に関して、不安や恐怖感を持つことは決して悪いことじゃない。恐さで体が固まってしまうのはよくないですが、恐いと楽しいを心に同居させるぐらいがいいと思います。
田中 なんでですか?
吉野 恐さというのは、その場にあるリスクを理解している、ということですからね。冬山の最大のリスクは寒さ。夏山と違い、足をくじいて停滞してしまっただけでも死のリスクにつながる。なにを意識すれば、リスクを回避できるのか、ルートの選び方なのか、ウエアの揃え方なのか――。怖さ=リスクを理解することで、正しい選択ができますから。
――たとえば、田中さんに次のステップの雪山をすすめるとき、吉野さんならどの山域をすすめますか?
吉野 いきなり厳冬期の北アルプスは厳しいので、残雪期の木曽駒や谷川岳辺りですね。どちらかというと、ロープウェイなど乗りものでバーッと上がって、降りた時点でアルパインチックな景色が見られる山域がいいのでは。3月からGWあたりは、比較的マイルドな環境で、かつ雪山の美しさを感じられるので雪山初挑戦におすすめです。
田中さんのPICK UP ITEM…スカートと腹巻きの着脱で温度調整♪
頼もしい強力グリップ
テンション上げるのも大事
蒸れない山専用腹巻き
田中 八ヶ岳はどうですか? 北横岳に登ったとき、天狗岳をはじめ南方面の山々のきれいな白いシルエットが見えて、いつか登りたいなと思いました。
吉野 八ヶ岳は、北横行ったら、次は天狗、その次は阿弥陀岳や赤岳と、技術の上達に伴い段階を踏めるというのがいい。スノーハイクからアルパインチックな雪山を堪能できる懐の深い山域で、おすすめですね。
平野 あとは、道具の壁を越えるだけですよね。
――平野さんは昨シーズン、アックスから厳冬期用の靴まで、冬用ギアを一式そろえたとか。
平野 はい。一から全部揃えるとなるとボーナスも飛びかねないのでなかなか踏みきれなかったのですが、踏みきりました!
吉野 アックスと冬靴だけで10万ぐらいはかかるもんね。
「アックスや冬靴を一式揃えたら雪山の世界が急激に広がった」(平野)
平野 ルームシェアしている友人は山をやらないんですが「えっ、なにこれ? なにに使うの」って意味不明なようすでした(笑)。
――なぜ昨シーズンに思いきって買い揃えたんですか?
平野 無雪期の山をはじめて5~6年たったんですが、冬も山に入りたいなって。スノーボードでゲレンデには行くんだけど、やっぱり3000m級の雪山に登りたい。それなら道具が必要――。ということで昨冬に買い揃えたんです。
橋本 それなりに金額をかけて揃えると気合も入りますよね。
平野 はい。そしたらもう、いきなり雪山の世界が広がって、月に2~3回は雪山に入ってました。結果、昨シーズンは滑りに一回も行きませんでした。
――みなさんにとって、雪山の行動範囲を広げた道具、雪山必携の道具ってありますか?
吉野 僕は3年以上使ってるスワンズのスノーゴーグル。カチッとワンアクションでレンズがフレームから浮き上がるのが、とにかく秀逸。レンズとフレームにできた隙間から換気できて、曇りがとれるんですよ。吹雪のなかでの登攀や、叩いた氷の細かな破片も落ちてくるアイスクライミングではどうしてもゴーグルが必要。でも運動量が上がるほど、曇って視界が悪くなります。その問題を瞬時に解消してくれたのがこのゴーグルでした。
橋本 これいいですね。僕は電池を使ってファンを回して換気するゴーグルを使ってるんですが、氷点下になると電池が急速に消耗して、ファンが動かないときがあります。雪山での視界の曇りは死活問題なので、高いお金を払ってでもいいゴーグルを買う必要があると思う。
平野 田中さんの腹巻みたいなのってなに?
田中 これ、本当に腹巻なの、山と道の。裏地がポーラテックなので、暖かくて蒸れない。これとプリマロフトをインシュレーションに使ったサロモンのスカートで、登り始めのときは防寒し、暑くなったらササッと取り外します。スカートは座布団にも使えて便利。
平野 女子的には防寒と日焼け対策は大事よね。私は薄めのバラクラバをふたつ用意して、寒いときは二重にする。バラクラバなら耳から鼻まわりの日焼けも防げます。あとはリップやハンド用クリームにもなり、傷口にも塗れるワセリンは欠かせません。
田中 わたしもワセリンでいちばん純度の高い、プロペトを愛用しています。冬に起こりがちなササクレの保護にも使えますから。
平野さんのPICK UP ITEM…シャリバテを防ぐ高カロリーお菓子はマスト
ポリポリ系行動食
熱気がこもらないのが◎
救命講習も受講!
橋本 さすが保健の先生! その行動食は手作りですか?
田中 はい。鉄分が摂れるデーツや疲労回復効果のあるエゴマ、クランベリー、全粒粉などをマシュマロで固めました。
「雪山で痛い目を見た経験ほど身に付くのはたしか」(吉野)
吉野 (試食させてもらい)なにより、うまいのがすばらしい! 平野さんの行動食、その多さで一泊二日分?
平野 はい、豪快ですみません(笑)。雪山ではよりエネルギーを使うので、ポテチ二袋と、とんがりコーンをくずしたもの、さらにギンビスのアスパラガスビスケットとミレービスケットを入れたもの、各ひとつずつ持っていきます。山岳会に山行届を出すとき、非常食を書く欄があるので、行動食を多めに持っていくクセがつきました。これプラス、ミネラル摂取のために岩塩を携行しています。
田中 橋本さんのこのポールって、テントのですか?
橋本 これはポールじゃなくてプローブといいます。雪崩で仲間が埋もれてしまった際、雪に刺して仲間がどこにいるか探すためのもの。アバランチビーコン、ショベルを合わせた雪山三種の神器は携帯するようにしています。残雪期の五竜岳でテント泊したときは、このショベルで雪のブロックを積んで風を防ぎました。翌朝、近くの登山者のテントが風に飛ばされて行方不明になっていたので、壁作りは大切だと痛感しましたね。
吉野 橋本君のアックスのシャフトは、滑りづらそうでいいね。滑り止めに自己融着テープを巻く人も多いけど。
橋本 もとからシャフト表面がゴム状の素材になってますから、グリップ力はいいです。登山用とクライミング用のいいとこどりのようなモデルなので、いちばん雪山で活躍してます。
――ギアに高いお金を払い、雪崩を想定して重たいものを背負い、ラッセルに体力を奪われる。それでも雪山に登るのはなぜですか?
平野 それ、ルームメイトにもよく聞かれます(笑)。
吉野 やはり、雪山には特別な景色がありますから。そこへたどり着くためには装備や準備、スキルが必要で、だれもが見られる景色じゃない。そこに至るまでの想い、費やした熱量が圧倒的だから、景色の感動がまったく違うんです。
橋本 吉野さん、今シーズンはどこか行きたい山はありますか?
吉野 錫杖岳をミックスクライミングで登り、北東方面の沢へスキーで下ってみたい。橋本君、いっしょに行こうよ。
橋本 僕は、スキーの技術がまだそこまでないので無理かなあ。下りはヒップソリで滑ってもいいですか?(笑)
吉野さんのPICK UP ITEM…朝テントから外に出てもぽっかぽか
雪中泊のつらさ解消
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曇り軽減の斬新アイデア
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。