ソロトレッカーのための登山計画書の作り方
PEAKS 編集部
- 2021年06月09日
いつもは仲間が書いてくれていた登山計画書。しかしソロならば自分で作らなければならない。とはいえ、その書き方と目的を知れば、それほど大変なものではないので、気軽に始めよう!
文・写真◉森山憲一 Text & Photo by Kenichi Moriyama
出典◉PEAKS 2020年9月号 No.130
ソロであろうとグループ登山であろうと、登山計画をしっかり考え、計画書として記すことはとても大切。
しかしソロであれば、グループ登山のときよりもさらに重要になるといえるだろう。その理由は大きく分けてふたつある。
1 ソロ登山では、山中で遭遇するさまざまな状況にすべて自分で判断を下していかなければいけない。そのときに、コースの情報が頭に入っているか否かは、正しい判断を下すうえで非常に重要。事前にコースのことを詳しく調べて自分で山行計画を作れば、自然と必要な情報が頭に入る。
2 作った登山計画書を登山届として提出すれば、そこに行動予定がすべて書かれているので、万一遭難してしまった際、救助する人にとって強力な情報源となる。頼れる仲間がいないソロ登山の場合、このことはとても重要。登山計画書がある種の保険、あるいは自分の身を確保してくれるロープのような存在になるのだ。
「登山計画書」というと、なにか堅苦しくて身構えてしまうが、その目的をまとめてしまえば、「行く山のことをいろいろ調べて、決めた内容を他人にわかるように書いておくこと」だけといえる。そう考えれば、楽しい作業でもあるし、自分に返ってくるメリットも豊富。あまり身構えることなく、気楽に習慣づけるようにしよう。
計画に必要な情報を集めよう
登りたい山が決まったら、さっそく情報収集。そのとき、まず最初に見ておきたいのが登山地図だ。そこには、登山道やコースタイム、山小屋やテント場、水場の場所など、さまざまな情報が記されている。山やコースの全体像もわかりやすく、必要な情報を大づかみにするには登山地図がいちばん適している。
個別の詳しい情報を知りたいときに活躍するのがインターネット。
とくに、アクセスの交通機関の情報などはインターネットで調べるのがいちばん情報が新しくて信頼できる。ただし、山間部の場合、バスやタクシーの情報はネットに載っていないことも多く、電話で問い合わせるというのもいまだ有効な情報収集手段となり得る。
❶ルート
登りたいコースを決めたら、登山口から下山口まで、地図上でたどってみよう。このときのポイントは、現場の状況を想像しながら、時間をかけてじっくりとたどること(登山口から下山口まで15分以上かけて見ると理想)。そうすることで、いろいろな情報が頭に入り、コースのイメージが形成される。これが大切なのだ。
❷登山口・下山口
駐車場やバス停、トイレ、登山届ポストの有無などが記されている。駐車場の広さやバスの時間などは記されていないことがほとんどなので、別途、ガイドブックやインターネットなどで最新情報を調べよう。バスやタクシーの情報はインターネットではわからない場合が多く、電話で問い合わせるのがいちばん確実で早いことも多い。
❸コースタイム
1日の行程を考えるのに重要な情報。ただしこれは標準的な平均値なので鵜呑みは危険。
ふだんから、標準コースタイムと比べて自分がどれくらいのペースで歩けるのかを把握しておくと、無理のない行動計画を立てられる。
❹山小屋・テント場
山小屋やキャンプ指定地(テント場)の場所が記されている。宿泊地を決めたら、山小屋のホームページや電話などで、最新情報を入手しよう。最近は新型コロナウイルスの影響で全国の山小屋がイレギュラーな運営体制になっているので、最新情報の入手は必須。そういう特殊事情がなくても、登山道の崩壊など、思わぬ重大情報が得られることもあるので、直接確かめることは大事だ。
❺水場
ルート中で水が得られる場所を知ることができる。ただし、飲用に適するかどうかは基本的に自己判断であるし、流水が涸れている場合もあるので、あてにしすぎると危険。あくまで参考程度にとどめよう。
❻危険箇所
岩場や雪渓などの危険箇所や、迷いやすい箇所などが、マークや文章で示されている。より詳しいことが知りたい場合は、ガイドブックやインターネットなどで情報を入手しよう。
それ次第では、クランポンやヘルメットなどが必要になったりすることもある。
❼エスケープルート
疲労や悪天候などで予定していたコースが歩けなかった場合、予定を変更してすばやく下山できるルートをエスケープルートという。
地図を見て、エスケープルートになり得る登山道をいくつか確認しておけば、山中で万一の際にあわてずにすむ。ただしエスケープルートが予定コースより難易度が高いコースだとかえって苦労することになってしまう。下山しやすいコースを調べておくことが大切。
❽展望地や花
見晴らしのいい場所や花の名所などが記されていることもある。写真撮影や高山植物が趣味の人は、場所を確かめてそこで時間を取れるような計画を考えよう。
天気
非常に重要な情報だが、これは地図ではわからないので、インターネットなどで調べることになる。
お気に入りのサイトをひとつ決めて、山行1週間くらい前から見ていれば、天気の動きがわかって有益。
雨が予想されるときは荷物の防水を強化したりするなどの対策も考えよう。一般の天気予報は市街地を想定しているので山の天気とはズレることもあり、登山に特化した情報を出してくれるサイトのほうが参考になる。
登山計画書の書き方
登山計画書の書式に決まりはないので、自分の好きな形式で記せばいい。下は、日本山岳・スポーツクライミング協会が公開している書式例。よくある一般的な内容だが、山岳会に所属している人を想定した書式になっているので、現代の個人登山者にはいまひとつそぐわない部分も多い。
Wordファイルでダウンロードできるので、自分の使いやすいように書式をカスタムするといいだろう。
ところで登山届として提出する場合は、ここにある項目すべてが必須というわけではない。登山届として重要な情報は、赤の地色で示した部分のみ。ほかは、書いてあればよりベターだが、なくても登山届としては十分機能するのでご安心を。
❶提出の日付
書いてあるほうがもちろんベターだが、なくても大きな問題はない。
❷目的の山域・山名
行動予定を見ればこれはわかるので、とくに書いていなくてもかまわないが、こうして冒頭に記しておけばわかりやすい。
❸入山日・最終下山日
入山日はここに書いていなくてもとくに問題ないが、最終下山日は重要。予備日を含めて「この日時には必ず下りてくる」という最終リミットを記しておけば、それをすぎたらなにかアクシデントがあったのだと周囲の人が判断しやすい。これをすぎたからといって警察が自動的に捜索に動き出してくれるわけではないが、家族などには救助要請を出すか否かの重要な判断材料になる。
❹役割
リーダーや食料担当など、パーティ内での役割分担。山岳会などの内部文書としては必要だが、登山届には書かなくても問題ない。
❺氏名
これは最重要情報なのでフルネームで必ず記入すること。
❻性別・年齢
生年月日を含めて書いたほうがいいが、情報の優先度からすると、連絡先や行動予定よりは下がる。登山届の簡略化をするなら最悪落とせる情報。
❼住所・電話番号
ここは重要。住所や自宅電話番号も書いたほうがいいが、もっとも重要なのは携帯電話の番号。たとえばひとり暮らしの人が自宅固定電話の番号を書いても、遭難救助のときにはほとんど意味がない。
❽緊急連絡先
家族や友人など、万一の際にまず連絡をとってほしい人の氏名と連絡先。連絡先は、住所などより携帯電話の番号が圧倒的に重要(住所は書かなくてもよい)。なにより重要なのは、緊急連絡先に設定する人にこの計画書を渡して、内容を伝えておくこと。
❾日程と行動予定
出発地点から下山地(宿泊予定地)までの経路を日ごとに記入。万一の際、どこを重点的に捜索すればよいのか判断するための重要情報なので、必ず記入しよう。コース変更の可能性があれば、エスケープルートなどとして、それも記入しておくとベター。
➓山岳会・サークル
山岳会やサークルに所属している場合は記入。救助・捜索時に警察が山岳会と連絡をとったり協力要請したりすることもあるので必要。
⓫概念図
予定コースを示した簡単なルート図を描いておくとわかりやすい。
⓬装備表
携行している主な装備の一覧。パーティ登山でメンバーごとの装備忘れを防止するには役に立つ欄だが、捜索する立場から見れば重要度は低い情報。ただし、無線機を持っている場合は周波数等を含めて書いておくと、万一の際に役に立つことがある。
「登山計画書」と「登山届」と「入山届」、なにが違う?
現状、どれも同じような意味で使われている。本来的には、「登山計画書」は文字どおり登山の計画を記した書類一般を指し、一方、「登山届」は入山を自治体などに知らせるためのもの。微妙に役割は異なるものなのだが、登山計画書はそのまま提出すれば登山届としても機能するので、現実的にあまり区別されていない。言葉の違いを過度に気にする必要はないといってもいいだろう。ちなみに「登山届」と「入山届」は同じ意味。
登山届の提出方法
提出方法は大きく分けて以下の4つの方法がある。1)郵送、2)ファクス、3)インターネット、4)登山口等のポスト。利用しやすさを考えれば、現在では3と4が主流。
もっともわかりやすく提出が簡単なのが4のポストで、そこに提出している人が多いのではないかと思われるが、ここでは圧倒的にインターネット利用をおすすめしておく。その理由は、いざ捜索となったときの情報の速さだ。
長野県山岳観光課に聞いた話なのだが、登山口のポストに入れられた登山届はリアルタイムで回収されているとは限らないという。とくに山奥の登山口などでは、頻繁に回収に行くのが大変なため、どうしても情報共有にタイムラグが生じてしまう。
たとえば遭難の第一報が入ったのが夜間だったとすると、場合によっては登山届の回収は翌朝まで待たねばならず、そこから該当の登山者を探すという作業が必要になる。そして、回収に行ったポストに、目当ての登山者の登山届がある保証はなく、何カ所か回らなくてはいけないこともある。捜索の初動に大きな無駄が生じてしまいやすいのが登山届ポストなのだ。
その点、インターネットならば、24時間いつでも検索可能。検索の速さはインターネットがもっとも得意とするところで、警察はデスクに座ったまま瞬時に目当ての登山届を探し出すことが可能だ。初動スピードの差は圧倒的。
これだけの差があるため、長野県ではできるだけインターネット提出を推進していきたい意向だという。それはもっともな話だと思う。
登山口のポストはいつも目にするし、提出も簡単なので利用しやすいが、効率的に運用するには、思わぬ苦労が裏でかかっている。オンライン提出の環境はかなり整ってきたので、今後は積極的にインターネットを利用しよう。
オンラインで提出
インターネットの登山届サイトを通じて提出するのが一般的。その老舗かつ最大手の「コンパス」というサイトであれば、多くの自治体と連携しているので、万一の際の情報共有が非常にスムーズ。記入も選択式が中心なのでわかりやすい。現在のところ、もっとも推奨できる提出方法だ。
登山口のポストに提出
登山口などに設置されている専用ポストに提出する。用紙が用意されているところもあるが、ないところも多いうえに、現場で書くのは時間がかかり、書きもらしをするおそれも増す。
自宅で書いたものを持っていくのがおすすめだ。手軽な方法ではあるが、オンラインに比べると問題もある。
登山届より大切なのは「近しい人に知らせておくこと」
ある山岳救助隊員が言っていた。「家族や知人に、いつどこの山に行くか伝えておいてくれさえすれば、最悪、登山届は出さなくたってかまいません」。
警察や自治体が「登山届を出してください」と言うのは、登山者の管理がしたいからではなく、万一の際の救助をスムーズに進めたいから。捜索となれば、いずれにしろ家族等に連絡を取ることになるので、その人たちが行動予定を知っていれば問題はないというのだ。
逆に、だれにも行き先を伝えずに、登山届だけ律儀に出しているのは本末転倒の行為といえる。登山届を出すことの目的はなんなのか。それを考えれば、救助隊員の言葉はもっともな話だということがわかるだろう。
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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