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PFCフリーってなに? 変化の時を迎えた、シェル素材の撥水加工。

防水透湿性シェル素材が正しく機能を発揮するために欠かせないのが撥水加工。現在、環境に配慮した「PFCフリー」技術の登場で、撥水加工は大きな過渡期を迎えている。そして、そこにはだれもが知っておいたほうがいい明らかな課題を抱えていた。

文◉寺倉 力 Text by Chikara Terakura
写真◉矢島慎一、武部努龍 Photo by Shinichi Yajima, Doyru Takebe
出典◉PEAKS 2021年11月号 No.144

環境配慮型、新しい撥水加工の撥水力低下問題を探る

「なんだか今年のレインウエアは撥水性がイマイチだな」と感じられた経験はないだろうか。

それはいまから6、7年前のこと。シェルに採用されている防水透湿素材のDWR(耐久撥水)プロセスの変更により、それ以前と比べて撥水レベルが低下したというできごとが実際にあった。

撥水加工には「PFC」と呼ばれるフッ素化合物が使われるのだが、それに含まれているひとつの物質が環境や人体に深刻な影響を与える可能性が明らかになった。そのため、撥水性能としてはワンランク下がるが、環境への直接的な害が認められないプロセスに変更されたのだ。

業界的にはこれを「C8」から「C6」への移行と呼んでいる。「C」とは炭素のことで、同じフッ素化合物でもC6は炭素構造の結びつきが弱いゆえ、C8よりも撥水性能は低い。だがC8のように環境を悪化させるという明確な毒性が認められず、その部分は「懸念」として残された。結果、それ以降、現在に至るまで、シェルの撥水加工はこの「C6」プロセスを中心に行なわれてきたのだ。

PFCを使った撥水加工

「PFC(Perfluorocarbon)」とは撥水加工に使われてきたフッ素化合物で、長年、防水透湿シェル素材のDWR(耐久撥水)加工を支えてきた。分子間引力が極めて弱いために物質同士を結合させにくく、撥水加工剤として使えば、水、油、汚れを弾く機能を持たせられる。これが「PFC」を使った撥水加工の原理。加熱や油分にも強いため、洗濯やドライクリーニングにも耐性があり、汗や皮脂で汚れることの多いアウトドアウエアでも安定した撥水性を発揮している。

しかし、その「C6」にも依然として環境汚染への懸念が拭えなかった。そこで元凶といえるフッ素化合物自体を使わない撥水加工の開発に力を注ぐことになる。これがここ数年で少しずつ浸透している「PFCフリーDWR」、つまり、フッ素化合物に頼らない耐久性撥水加工である。

ところが、このPFCフリーDWRにも大きな問題があった。肝心の撥水性が著しく低かったのだ。ラボテストでは高い数値を示したものの、フィールドテストでは明らかな撥水低下や浸水という問題を露呈していたのだ。

シェル素材の防水性と透湿性は、生地表面の水を弾く撥水加工によって守られていることはご存じだろう。いかに高機能な防水透湿メンブレンをラミネートしていても、撥水性がなければ表生地の繊維が水分を吸収し、水の膜に覆われる。それにより透湿性がストップして結露が始まり、生地が水を吸ったウエアは体を冷やす。

一方、防水性に影響を与えるのが汗や皮脂などの油や汚れだ。これが防水透湿メンブレンのミクロの孔に入り込むことで、それを媒介にして水分がウエア内部に染みこむのだ。この浸水は撥水加工によって防ぐことができる。厳密にいえば「撥水性」ではなく「撥油性」。つまり、油を弾く機能だ。

撥水性が低下すると、表生地の繊維に水が浸み込んで透湿性を失うだけでなく、ウエアの濡れが体を冷やす原因にも。

この「撥水性」と「撥油性」の両輪が生きてはじめて、シェル素材の防水透湿性は正しく機能する。「山から帰ってきたら、できるだけ毎回洗濯しましょう」と、メーカーがこまめなメンテナンスを推奨している理由もそこにある。洗濯によって汗や皮脂、土やほこりなどを洗い落とし、生地表面をフレッシュにすることが撥水機能回復には効果的なのだ。

さて、もうおわかりだろう。

現在のPFCフリーDWRの問題とは「撥油性」が低い、または存在しないことにある。実際のところ、ゴアテックスのウェブサイトには「PFCECフリーには撥油性がないため、早いタイミングでDWRが汗や体脂・汚れの影響を受けることになる」といった主旨の文章が記載されている。

PFCフリーDWRの撥水性の脆弱さは、フィールドテストを終えた異なるブランドの関係者からも耳にしていた。また「C8」から「C6」に移行したときの撥水性低下の実体験からすれば、PFCフリーDWRの撥水性の低さは大いに懸念されるものだった。

PFC(フッ素化合物)の問題点とは

PFCに微量に含まれるPFOAという不純物が、環境や人体に深刻な影響を与える可能性が指摘されるようになり、2015年には世界の大手化学品メーカーが製造を中止し、2019年にはストックホルム条約で廃絶物質に指定。代わって主流になったのがPFOAを含まない「C6」と呼ばれるPFC撥水加工。しかし、この「C6」撥水加工もフッ素化合物を使うことから環境への影響が懸念されており、業界全体でフッ素系撥水剤に頼らない撥水加工への移行が進んでいる。

山を歩けばだれもがも発汗するし、気をつけていても自然界の汚れは必ずウエアに付着する。そこで雨に降られたらどうなるのか。

編集部としてはPFCフリーDWRの撥水・撥油性能を確認したいと考えた。そこで品質評価機関に機能性テストを依頼した。その結果、明らかになったのは、予想通り「撥油性」の脆弱さだった。

「PFCフリー」の現状

「PFCフリー」は、環境汚染への懸念があるPFC(フッ素化合物)の代わりに、シリコンやパラフィンなど、環境負荷の低い物質を使った撥水加工。素材メーカーを中心にアウトドア業界全体が開発に取り組んでいるが、現在の段階では従来の「C6」プロセスによる撥水・撥油性能までには至っていない。とくに撥油性に大きな問題を抱えるため、レインウエアや冬山用シェルへの採用が難しく、主にライフスタイルやライトなアウトドア製品を中心に少しずつ普及している状況。

「C6」と「PFCフリー」の撥水性、撥油性をテスト

今季のテクニカルシェルに使われている7種類の防水透湿素材を「撥水性」と「撥油性」の2項目で機能性検査。その結果が上の表だ。テストに持ち込んだのは「C6 DWR」4素材と「PFCフリーDWR」3素材。それぞれ未使用の状態(初期)と30回洗濯後の状態でテストした。

まずは「撥水性」だが、DWR(耐久性撥水加工)といえども30回の洗濯では多少は機能が低下するようだ。そのなかで「C6 DWR」2素材のみ洗濯前と後で同じ性能を維持しており、「PFCフリーDWR」でも大きな性能低下はない。

次に「撥油性」テストでは、洗濯後に軒並み性能が低下するなかで「C6 DWR」2素材は強さを発揮。その一方で「PCFフリー」には、初期段階から「撥油性ゼロ」が2素材ある。

同じ撥水プロセスを施した素材に差が出ているのは、基布(表地)の種類や目付けが異なることや、薬剤、処理工場の違いなどが考えられる。

ラボテストの結果は、撥油性が著しく弱い「PFCフリー」

※撥水性は1〜5(級)、撥油性は1〜8(級)で分類され、ともに数値が高いほうが性能が高いことを意味する。テストは一般財団法人ニッセンケン品質評価センターに依頼。撥水性の試験は「JIS L 1092スプレー法」、撥油性の試験は「AATCC118」、洗濯方法は「JIS L 1930 C4M法」で実施。

アウトドアブランドのPFCフリーへの取り組み

現在、アウトドアブランドの「PFCフリーDWR」採用の実情を知るために、ブランドにアンケートをお願いした。その結果明らかになったのは、各社ともに共通した現状とスタンスだった。

アウトドアブランドには環境負荷を軽減するという責務があり、できる限りPFCフリーは推進させるべき。だが、現状では撥油性に問題があるため、基本的にはライトなアウトドアやライフスタイル製品での使用に留め、シビアな環境を想定したウエアでの使用は見合わせているとのこと。

アウトドアブランドによる環境負荷軽減への取り組みとしては、オーガニックコットンへの転換、リサイクル素材の採用、製品のリユース・リサイクル・ロングユースの推進、マイクロファイバーの削減、動物虐待のない羽毛、羊毛、皮革の入手などが挙げられるが、PFC全廃はそこに並ぶ重要なテーマである。

だが、これまでの環境対策とPFCフリーが決定的に違うのは、撥水・撥油性能はフィールドでの安全性に直結していることだ。

オーガニックコットンやリサイクル素材への転換においても、その初期のころは生地としての弱さや耐久性が課題だった。実際、暴風雨や吹雪の山でシェルが破れれば致命的だが、そのリスクを避けるために、採用率を段階的に増やしていったという実例がある。

では、PFCフリーはどうなのかという話だ。

ウールの外套やナイロンダブルのヤッケで極地や冬山に挑んだ時代に比べれば、たしかに撥水性能の優劣にかかわらず、現代のシェルはどれも高機能である。けれども、すでに多くの人たちがある一定レベルの撥水性能を体感してしまっている以上、その置き換えは慎重であってしかるべきで、見切り発車は許されない。自動運転のアシストがなくてもクルマの運転には支障はないが、その最新技術を実際に搭載するとなったなら、そこに一切の間違いがあってはならないはずだ。

実際のところ、現状ではテクニカルな製品のなかにもPFCフリーDWRを使っているウエアもあり、その境界線は曖昧だ。したがって、ユーザー自身がしっかりチェックする必要がある。ちなみに現在、ゴアテックス製品ではPFCフリーDWR使用の場合はハングタグに記載があるが、すべてのブランド、素材で使用・未使用を開示しているわけではないことも付け加えておきたい。

その意味でも、この先、シェル製品のスペックには、素材の種類や重量などと並んで、撥水プロセスに関する記載がほしいところだ。あくまで現実的な撥水・撥油性能を優先するのか、それともアウトドアの未来を見据えて「その前提」で使うのか。そのどちらの判断もアリだと思うからだ。

アークテリクス

十分な機能を発揮すると判断した製品に採用

現在、アークテリクスでは独自の基準を元に、使用用途やシーン別に十分な機能を発揮すると判断した製品に「PFC ECフリーDWR(※)」を採用しています。今後は環境保護の観点からゴアテックスプロダクトには「PFC ECフリー DWR」を、それ以外は「PFCフリーDWR」採用を進めていく方針です。しかしながら、アウトドアブランドとしては製品の用途やシーンにおいて機能を損なうことはできません。そのため、環境負荷の少ない撥水材の開発を進めながら、その製品の機能を満たすと判断した製品から採用していく方針です。

※ゴアテックス製品のみ「PFC ECフリー DWR」と表記。内容は「PFCフリー DWR」と同じ。

ミレー

メーカー側があきらめれば開発は遅れる

「PFC フリー」は環境負荷の低減を優先させた撥水加工です。現状では撥水性や撥油性に劣りますが、技術革新によって撥水・撥油力は高まると考えられますし、それがアウトドアユーザーみんなの願いでもあるはずです。もしもメーカー側が「PFCフリー」使用をあきらめてしまえば、高性能な「PFCフリー」の開発は遅れます。しかし、撥水力はアウトドアの製品にとってとても重要な機能で、撥水力の落ちた耐水防水生地は、低体温症にも通じかねない重要な問題です。したがって、少しでも早く撥水・撥油力の強い「PFCフリー」が開発されることを望みつつ、弊社では今後も「PFCフリー」と「C6」を併用していく予定です。

マムート

2025年までに100%変更していく予定

環境負荷が少なくなることは、継続的にアウトドアを楽しむためにも大事だと考え、弊社のプロダクトは2025年までに100%「PFCフリー」に変更していく予定です。ただし、現在の弊社のプロダクトのなかで、高所登山やクライミングを伴う商品については「PFCフリー」は少なく、それは撥水力低下によるリスクを理解しているからです。そうした環境での使用には慎重な商品選定が必要です。撥水力が落ちることで以前に比べて安全面などに影響が出る可能性がありますし、ブランドとしてはお客様の使用シーンに応じた商品の提案、撥水剤の使用を含めたケア方法の提案が、これまで以上に大事になってくると考えています。

モンベル

ウエアのメンテナンスも重要になってくる

「PFCフリー」採用製品は、この先も増やしていく方向で開発検討中です。しかし、「PFC」を使用しないと、機能を謳えるほどの撥油性は得られません。撥油性がないと、皮脂などが生地表面に付着しやすくなり、結果的に撥水性を低下させます。そのため、厳しい環境下で使用するアルパインウエアやオールウェザー(レイン)製品の「PFCフリー」化については慎重に取り組んでおり、現状、他のカテゴリーアイテムと比較すると採用数は多くありません。またウエアの使用方法やコンディションによってもリスクは大きく変わります。その意味でも、今後はウエアのメンテナンスもより一層重要になってくると思います。

ノローナ

「C6」の必要性を否定することはできない

現在、ノローナでは中綿入りシェルなどに「PFCフリー DWR」を採用しており、この先も増えていく予定です。「PFCフリー」のメリットは環境負荷が少ないことで、デメリットは「C6 DWR」に比べて撥水性能が低く、表面生地が水を吸うことで透湿性を著しく低下させること。発汗の多いアクティビティでは本来の透湿性が機能せず、低体温症に至る可能性まで秘めています。そこを踏まえれば、環境負荷への責任を十分に認識しつつ「C6」プロセスの必要性は否定することはできません。ノローナが創設から92年間一貫して優先していることは品質。自然のなかで快適に、よりすばらしいものとなることを重要視しています。

ティートンブロス

人命に関わるリスクは回避する必要がある

いくつかの「PFCフリー DWR」を採用した素材で、複数のテスターと長期間、山岳フィールドでテストを行なった結果、少なくとも降雨やウェットスノー条件下では、弊社の求める基準には達していないと判断しました。弊社製品を着用して厳しい気象条件下に晒された場合、ガーメントの機能低下による人命に関わるリスクは最大限に回避する必要があります。したがって現時点では、最高スペックを有する撥水メソッドを選択しています。なお、現在も複数のファブリックメーカーと検討を続けていますが、「PFCフリー」の性能が、最低でも「C6」レベルに達した段階で、十分なフィールドテストを経た上で採用していく方針です。

パタゴニア

すべての製品は地球環境に影響を及ぼしている

「PFC」最大の問題は製造段階で発生する水質汚染です。PFCの一部の製造に起因する水質汚染は、先天性異常や腫瘍の増殖を引き起こし、ホルモンに影響を及ぼすことが明らかになっています。しかしながら「PFCフリー DWR」加工は油分や泥については水と同じようには弾きません。撥油性が小さく、表面に付着した油分や泥によって撥水性の低下が起こり、その結果、汗冷えや低体温症のリスクも考えられます。しかしこれはメンテナンスで初期性能を復元することができます。私たちが製造するすべての製品は地球環境に影響をおよぼしており、私たちは自分でできることを実行し、この問題に加担するのを止める責任があります。

ザ・ノース・フェイス

撥水に関してはリスクとのバランスが重要

現在「PFCフリー DWR」を採用している製品は、サンプル段階で各国アスリートによるテストを行なっています。そこで現段階ではウエットな状況など環境によってはリスクにつながると判断した結果、リスクの少ないゲレンデやドライな環境を想定したモデルのみでの採用に留めています。環境負荷と人体におけるリスクとのバランスは大きな課題であると認識しており、そのためにもできることから変えていくことが重要だと考えます。環境配慮の取り組みに注力し、自然にかかわるブランドとしてより強く責任を持ちたいと考えます。引き続き、環境負荷の軽減と機能が両立できる製品の開発を進めていきたいと考えています。

ゴアテックスの回答

ゴアではすべてのテクノロジーを「フィットネス・フォー・ ユース(用途適合性)」で考えており、現在の「PFC ECフリー DWR(※)」の特徴および性能を検討してフィールドテストを行ない、用途適合性を考慮した結果、ライフスタイル向けや、ライトユースのアウトドア、スキー場での着用を想定したウエアなどで「PFC ECフリー DWR」を採用し、縦走、マウンテニアリング、BCスキーなど過酷な環境下では「Gore DWR」を採用しています。ゴアのラインナップとして「PFC ECフリー DWR」採用のラミネートは増加しています。これはより環境負荷の低い素材を使ったラミネートを増やしているためです。環境負荷の低い素材を使い、より環境負荷の低い使い方をしていくことは、今後必要不可欠です。ただし、それらをどのタイミングで最終製品に採用するかはブランドやメーカーの判断になります。

※ゴアでは厳格に「PFC EC(EC=Environmental Concern)フリー DWR」と呼んでいる。

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PEAKS 編集部

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装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。

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