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南アルプス幕営天望紀行・後編 グラデーションの空を見上げ、雪化粧の白峰三山に心酔して。

なぜ雪山でのテント泊を毎年繰り返してしまうのだろう? 想像するだけでつらいシーンだらけなのに……。南アルプス・薬師岳と観音岳を3人で目指した2020年正月の記録、後編です。

>>>前編はこちら

南アルプス幕営天望紀行・前編 グラデーションの空を見上げ、雪化粧の白峰三山に心酔して。

南アルプス幕営天望紀行・前編 グラデーションの空を見上げ、雪化粧の白峰三山に心酔して。

2021年11月25日

文◉泥谷範幸 Text by Noriyuki Hijiya
写真◉宇佐美博之 Photo by Hiroyuki Usami
取材期間◉2020年1月3日〜4日
出典◉PEAKS 2020年12月号 No.133

つらかった記憶を、心躍る瞬間がきれいに上書きしていく。

鍋の仕切りという今日一番の大役を終え、晩酌とともに食事をいただく。

「じゃあまずはダシが出るキノコと鶏、あとネギも白いところは入れておこうかな。今日は食材そのものの味を楽しみたいから、味付けは薄めにしておくね」

胡散臭い奉行が鍋を得意げに仕切る。でもそのおかげか、味はピカイチだった(はず)。そのあとは人思い思いに時間をすごす。気が付けば、夜空には満天の星が。1年経って忘れていたけれど、やっぱり冬は空気がすごく澄んでいる。夏の空も悪くないけれど、それと比べ物にはならない。消灯時間を考えない自由な感覚も、半年ぶりで新鮮だ。そのときより今日のほうが圧倒的に寒いけれど。

薬師岳の手前、砂払岳付近からの甲府盆地の夜景。見事な空のグラデーションをスマホで撮影してみるが、目にしたような色合いには写らなかった。

翌日、4時ごろに起きてヘッドランプの明かりを頼りに薬師岳へと向かう。

「急がないと明るくなっちゃうよ」

重荷から解放され偉そうにリーダーを気取る僕。でもそのかいあってか、ちょうど観音岳山頂で日の出が迎えられた。ご来光は何度も山で拝んでいて正直ありがたみが薄れてしまっているのだけれど、やっぱり新年1発目は格別だ。つい、普段はしない願掛けなんかしてしまったり。

朝日を浴びながら観音岳でしばしの休息。雲海に浮かぶツートンカラーの富士山が神々しい。

帰り際、これまで何度も歩いているものの一度も登ったことがない辻山に寄り道することに。分岐で僕らはバックパックをデポし、ゆるやかに続く道を登っていった。山頂に到着し、待ち受けていたのは白峰三山の展望。昨日、今日と何度も見ていたけれど、辻山からの白峰三山がなぜか一番近く感じられる。ちょうど山肌が視界の先に平行にある感じ。僕ら3人は広い山頂に散らばり、会話をするでもなく山を眺めていた。

辻山への分岐でバックパックをデポする。ここから辻山までは15分程度。
辻山から白峰三山を眺める。山頂は広々としていて寝転びたくなるほど。

* * *

まもなく雪山の時期がやってくる。今シーズンも少しだけれど極上のデレを求めて、重荷を背にどこかの雪山へと向かうのだろう。

針葉樹の森はなんて雪と相性が良いのだろうか。食料を消費し帰路は足取りも軽やか。

ルート情報

アクセス

起点となる夜叉神峠までは冬期はバス便がないため、マイカー、または甲府駅や韮崎駅などからタクシーでアクセスする。駐車場は無料で約100台程度が利用可。登山口にトイレはあるが、売店などは近くにないので買い出しはかならず街で済ませておくこと。ちなみに青木鉱泉や御座石鉱泉に下山しても冬期はバス便がないので注意。

アドバイス

滑落の恐れがあるような場所はほぼない。基本的には12本爪クランポンとトレッキングポールで歩けるが、念のためにアイスアックスもあると安心。水は時期によっては南御室小屋の水場が使えるが、雪が多いと埋まってしまうこともあるので、その際は雪で水を作る。夜叉神峠まで出て稜線上の風が強いときは無理せず引き返そう。

 

※この記事はPEAKS 2020年12月号 No.133からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっています。

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PEAKS 編集部

PEAKS 編集部

装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。

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