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夏山でも冬山でも、メリノウールの2枚重ね

文◉村石太郎 Text by Taro Muraishi
イラスト◉田中 斉 Illustlation by Hitoshi Tanaka
出典◉PEAKS 2019年11月号 No.120

それぞれが快適と感じるレイヤリングを!

アクトドアアクティビティにおいて、もっとも重要な装備とはなんだろう? 登山ならば、多くの人が登山靴と答えるかもしれない。山で雨に降られてばかりという人にとってはレインウエアも大切であろう。道具マニアは、金属の道具がもつ独特の光沢感や機械としての魅力から雪山でのガソリンストーブを挙げる人もいるかもしれない。だが、多くの人は、素肌に着て吸汗拡散するベースレイヤーこそがもっとも重要な装備だと口を揃えるはずだ。

だが、なぜ体をドライに保つことが重要なのだろう。その理由は、汗などの水分は体を冷やす原因となるため。吸汗性と拡散性に優れるベースレイヤーを着ることで水濡れから肌を離すことが重要なのだ。ちなみにベースレイヤーとは、素肌に直接着るためのアンダーウエア(下着)のこと。

登山ではレイヤリングといって、重ね着をして状況に応じた最適な衣服内環境を作り出す。基本的にはアンダーウエアと体を温めるための中間着、さらにその上に羽織って雨や雪、強風から体を守るアウターレイヤー(これを硬い貝殻にたとえてシェルジャケットなどとも表現する)で構成するのだが、その基礎となるためベースレイヤーと呼んでいる。

もちろん天気が良くて風もなく、寒くもなく、暑くもない状況が続けば、高価なアウトドアウエアに身を包む必要はないかもしれない。晴天に恵まれた休日に出かける気軽なデイハイキングであれば、コットン製Tシャツにジーンズを履いていても問題はないだろう。

しかし本格的な山岳地帯へと赴くのなら、そんな時間が確実に続く確率はどれくらいあるだろう。山中では急に寒風が吹きはじめ、雨が降り出すのが常である。気温が低下しはじめれば、体温が奪われて、最悪の状況では行動不能になってしまう。夏山で雲ひとつない晴天が続けば、大汗をかいて夜になっても乾かない衣服に困惑するだろう。そのようなリスクを冒してまで登山をしたいだろうか。たとえ雨が降っていても、笑顔で自宅へ帰りたいとだれもが願うだろう。そのために、よりよいアウトドアウエア選びをすることが重要になってくるのだ。

登山と一般的なスポーツのもっとも大きな違いは、圧倒的に長い行動時間があげられる。日帰りであっても一日に7〜8時間歩くことは当たり前であるし、縦走登山ならば数日間にわたって汗をかき、冷たい雨風に体をさらされながら行動を続ける。こんなスポーツはほかには存在しない。サッカーでも約90分、野球でも3時間前後が普通であろう。長時間、天候が変化しやすい山のなかで行動するからこそ、登山者は自然の脅威から自身の身を守る術と道具が必要なのだ。人間は、衣服も道具もなしには、とても自然界のただなかでは生きていくことはできないのだから。

ちなみに僕のレイヤリングの基本は、アンダーウエアの2枚重ねだ。これは夏山であっても、冬山であっても同じ。夏は稜線に上がると冷たい風が吹いていることが多いから、お腹を冷やしてしまわないように2枚重ねが役立つ。冬でも晴天が広がれば汗をかくので、保温性と通気性のバランスがとてもいいと感じている。素材はメリノウール製のものを愛用している。メリノウールの特徴は、化学繊維に比べて速乾性は見劣りするけれど、汗で濡れてしまっても汗冷えしにくいうえ、数日間にわたって着続けていても不快な臭いを発しにくい。つねに快適な体温に保つ機能も優秀で、脱ぎ着をする必要が減ってくる。メリノウール以外のウエアを着ていると暑くなりすぎたり、すぐに寒くなってしまうと感じている。そのため、日常でもメリノウールを着続けているくらいだ。

これは僕自身が考える、あらゆる状況で快適だと感じているレイヤリングの方法だ。もちろん風が吹けば軽量なウィンドジャケットを羽織るし、厳冬期には風雪を寄せつけないハードフェイスフリースで体を守る。レインウエアやハードシェルを着るのは、雨が降ったり、稜線上で吹雪いたときぐらいなのだ。

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PEAKS 編集部

PEAKS 編集部

装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。

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