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ユーコンカワイの解脱登山@身延山・前編

光が来れば闇、闇のあとにはまた光。人生はその繰り返し。それでも男は愚直に上へと登っていく。この先に待ち受けるは極楽浄土か、はたまた悟りの境地なのか。欲と脂肪にまみれたその汚れた心身を洗い清める、2020年最後の山旅へと重たい身体で向かった。

文◉ユーコンカワイ Text by Yukon Kawai
写真◉宇佐美博之 Photo by Hiroyuki Usami
取材日:2020年11月24日
出典◉PEAKS 2021年1月号 No.134

もう言い訳はしない。これは煩悩にまみれた自分自身との戦いだ。

それはまさに“壁”のような階段だった。段差が高く、一歩進むたびに腿に激しい圧がかかって思わず「ブヒッ!」という悶絶の声が漏れる。しかし、私はその苦痛を喜んで受け入れる。そう、これは自分自身の“壁”を越えて行くための修行なのだから。

ここは日蓮宗総本山・身延山。山全体が修行の場であり、全国から多くの参拝者が訪れる聖域だ。その入口にある立派な三門をくぐった先に「菩提梯(ぼだいてい)」と呼ばれる壁のような階段が現れる。段数287段、その高低差104m。ここを登りきった者は、煩悩が断ち切られて悟りの境地に達するといわれている。

うなぎ上りの心拍数。階段の中腹あたりで休憩して振り返ると、その高度感で尻の穴がキュッとしてしまう。慌てて目線を上に戻す。呼吸を整えながら、私は数日前の編集さんとの電話のやり取りを思い出していた。

「ユーコンさん、ユーチューブ始めたんすね。お姿拝見しましたよ。がんばってますねぇ」

「あ、ありがとうごいます。へへへ。チャンネル登録よろしくっす」

「バカヤロウ!!」

「え!?」

「ユーコンさん太り過ぎです!コロナ太りの見本動画かと思いましたよ。このままじゃ、来年は山の取材なんて行かせられないです!」

「ブヒィ!」

「ほら、もう反応からして豚になってるじゃないですか。仕事なくなったうえにぶくぶく太ったんじゃ、また奥さんに怒られますよ。身延山っていうちょうどいい山があるんで、そのたるんだ精神と体を引き締めてきてください!」

「ブ……はい、わかりました……」

唇を噛み締める。たしかに自粛で山に行かなかったのもあるが、なにかにつけて「くそ! コロナめ!」と言いながら家で寝転んでポテチを食い、「やってらんねえぜ!」と叫びながら源氏パイとか食っていたことは事実だ。これはある意味私にとっての自戒の登山。多くの法難を乗り越えてこの身延山を開山した日蓮聖人のように、私もこの苦境(デブと金欠)を乗り越えて行かねばならんのだ。

日蓮宗総本山久遠寺。マチュピチュ遺跡のように天空に浮かぶ伽藍と門前町。20もの宿坊を備えており、多くの参拝客が訪れる。

腿がピクピクと痙攣を起こす。まるで「土下座前の大和田常務」のような状態になりながらも、なんとか菩提梯を登り切った。すでにヘロヘロだが、何気にまだこの時点では登山道にすら到達してなかったりする。ここから山頂にある「奥之院思親閣」に向けては、東と西のふたつの登山道があり、今回は紅葉がきれいだという西ルートを選んでその足を進めた。

登山道というより昔の峠道といった趣。西ルートは景色も開けて紅葉も綺麗。「登らねぇ豚はただの豚だ」と言い張るただの豚にはちょうどいいリハビリだ。

日蓮聖人の遺灰が納められた御廟塔などをめぐりながら登ること40分。そこには“天空の寺”と名付けられた「松樹庵」という坊があり、かつて日蓮聖人が袈裟を掛けて休憩したといわれる木がいまも祀られている。そこからは「うん、そりゃだれだってここで休憩するよね」という絶景が眼下に広がっており、森の海のなかに浮かぶ久遠寺本堂や多くの宿坊の光景は、まるでマチュピチュ遺跡でも見ているかのようだった。その景色をボケーっと眺めていたら、「おい、いつまでも休んでるんじゃない、このブタ野郎!」という視線を感じ、振り向くとそこにはニホンカモシカが。責めるような視線でこちらをジッと見つめてくるその目が嫁と重なる。私は「ひいい! すいません! 痩せます! 働きます!」と叫びながら、再び修行の道に戻ったのである。

山頂にある奥之院思親閣。身が引き締まる思いだが、実際の身はまったく引き締まっていない。
我欲など1ミリも存在しない。願いはただひとつ、世界平和のみである。
武井坊の住職、小松祐嗣さん。身延山から七面山への参拝道を繋ぐ「修行走」なる大会も主催しており、地域の活性化にも尽力。

>>>後編につづく

ユーコンカワイの解脱登山@身延山・後編

ユーコンカワイの解脱登山@身延山・後編

2021年12月19日

ユーコンカワイ

この1年で激太り。山どころか丘にも登れなくなってしまったただのデブ。一方で売れないユーチューバーとしても活躍し、収入の減量化は順調に進んでいる。いろいろ反省が必要な44歳。

この記事はPEAKS 2021年1月号 No.134からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっています。

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PEAKS 編集部

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装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。

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