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筆とまなざし#261「『Arts and Climbs』な旅に沖縄へ。〜その2・聖地『浜川御嶽』〜」

導かれるかのように訪れた浜川御嶽での出会い。

沖縄にはいくつかの岩場があるのですが、今回は代表的な2カ所を訪れることにしました。ひとつは南部にある具志頭で、もうひとつは本島最北端の辺戸岬です。具志頭が琉球石灰岩のガビガビした岩質でボルダリング中心なのに対し、辺戸岬は純粋な石灰岩のルートエリア。具志頭近くのキャンプ場に2泊したあと、辺戸岬を目指して北上することにしました。

琉球特有の信仰のひとつが、海の向こうに理想郷「ニライカナイ」があるというもの。一年のあるとき、ニライカナイから神々が人間の世界にやってくるとされており、各地で来訪神のお祭りが行なわれます。列島各地にある「御嶽」はニライカナイから神様が来訪する聖地。祭祀に仕えるのはノロという女性神官で、聖域は男子禁制とされていたそうです。具志頭から車で20分ほどのところに斎場御嶽という大きな御嶽があることを知り、北上する前に立ち寄ってみることにしました。

海岸沿いの曲がりくねった道を進むと御嶽の看板があり、道を挟んで反対側に大きな駐車場がありました。駐車場横の売店を見ると「斎場御嶽チケット販売所」とあります。知らなかったのですが、ここは琉球王国最高の聖地とされ、2000年に世界遺産に登録されたとのこと。そして御嶽を訪れるにはチケットを購入しなければならないということでした。しかも販売所が開くまでまだ1時間ほどあります。Googleマップで調べると、近くに浜川御嶽という別の御嶽があることがわかりました。来た道を引き返し、浜川御嶽へ行ってみることにしました。

小さな看板を頼りに細い道を下ると未舗装の空き地がありました。空き地に車を停めると、御嶽はすぐそこにありました。ひっそりとした森。頭の取れたシーサー。煙の匂いが残る祈りの場。大きな岩と岩の間が聖域とされるのでしょう、そこには岩の上から無数の植物の根がシャワーのように垂れていました。聖地というと湿り気を感じる場所を想像していましたが、天気が良かったからなおさらなのか、浜川御嶽はとても明るい心地よい場所でした。御嶽から海へと続く小道がありました。湧き出る水が小川となって砂浜を流れ、大きな岩にはガジュマルの根っこが力強く絡まっていました。森の木陰が、燦々と砂浜に降り注ぐ陽光をさらに際立たせていました。

浜に出ると、海のなかに石碑の頭がひょっこり出ているのに気が付きました。案内板によると、そこはヤハラヅカサと言って、琉球創世の神とされるアマミキヨがニライカナイから来訪したときに降り立った場所。潮が引くと石碑まで陸続きになるのだそうです。浜川とは海のそばの湧き水のことで、アマミキヨはこの水で疲れを癒やし、浜川御嶽にしばらく仮住まいしたと伝えられています。御嶽と海との境界、光が溢れる風景。あまりにも気持ちの良い場所だったのでスケッチブックを取り出しました。

絵を描いていると、ひとりの老紳士がやってきました。

「斎場御嶽よりこっちのほうが静かで良いですよ。導かれたんですね。いまでもノロの人たちが家族でやってきて時々お祈りをしています」

男性は今年80歳になり、高校卒業と同時に集団就職で埼玉に行き、40年以上働いてから数年前に故郷の沖縄へ帰ってきたそうです。今年は戦後77年。

「(沖縄戦のときも)もちろん沖縄にいました。肉親も亡くしました。ほとんどの家が肉親を失い、なかには全滅した家庭もありました。平和の礎が見える場所に住んでいますが、いまも1日に2度、礎に向かって手を合わせます。今年で『返還50年』ですが、でもやっぱり基地がありますからね……戦争は絶対にダメですよ、絶対に!」

穏やかだったおじさんの表情が険しくなり、口調が強くなりました。

「ああ、ごめんなさい」

おじさんはすぐにまた優しい口調に戻り、光が満ちる浜辺へと歩いて行きました。ぼくは絵の続きを描き、浜川御嶽をあとにしました。

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

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