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編集部員が実験! ビバーク未経験が陥りがちな、場所選びの落とし穴|緊急ビバーク【前編】

山中でトラブルがあって下山できなくなり、緊急ビバーク。こうしたときの対処法は登山技術書の必須コンテンツ。しかし机上でノウハウを学んでいるだけでは、いざというときにどうすればいいか、なかなかイメージができない。そこで実際にビバークをしてみて、どういう心理に陥るのか、どういうことが起こるのかを実践検証してみた

編集◉PEAKS編集部
文◉森山憲一
写真◉小関信平

 

▼【中編】【後編】もこちらよりお楽しみください。

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山中で一夜を過ごし、ビバークがより快適になる方法を探してみた

山行中にトラブルが起こって日没までの下山が難しくなってしまった。状況やレベルに応じて、こういうときの対処法はさまざまに考えられるのだけど、パターンとしていちばん多いのはやはりビバーク。

とはいえ、山中で一夜を明かすのは、経験したことがない人にとっては不安でいっぱいであるはず。実際には、雪山でもないかぎり、たとえ着の身着のままであったとしてもビバークで死んだり深刻な状況に陥ることはまずないのだけど、経験がなければそれはわからないのも無理はない。

ということで、ビバーク未体験の読者のために、代わりに編集部員が実際に山中で一夜を明かし、その実態がどのようなものであるのかをレポートしよう。同時に、どうすればビバークがより快適になるかのノウハウもお伝えする。

極寒の山中でビバークさせられるはめになったのは編集部のカトウ。PEAKS 1月号(2021)で道迷い実験に挑んでもらったニシバラに続いて、PEAKS編集部実録チャレンジ企画第二弾である。

カトウはテント泊経験はそれなりにあるが、幕営用具を持たないビバークの経験はなし。実験にあたっては、「日帰り登山でふだん持っていく装備」を用意してもらった。

ビバーク場所の標高は900mほどで、夜間の気温は0℃を下回った。果たしてカトウは元気に朝を迎えられるのか?

ビバークさせられた人

加藤 里

結婚式場勤務〜登山ツアー会社を経て、昨年PEAKS編集部に加入した流浪の民。秋田出身なので寒さには強いだろうと実験台に抜擢。ビバークした経験はなし。

ビバークさせた人

森山憲一

登山ライター。−20℃の南アルプスで座りビバークをしたのがいちばんつらかった思い出。パタゴニアの最高級ダウンに身を包み、ぬくぬくと加藤をレポート。

カトウの持っていた全装備

カトウが一夜を明かすための全装備。ビバークを想定したものではなく、ふだんの日帰り登山で使っている物を用意してもらった。日帰り用装備としては十分以上といえる内容で、これといって不足している物は見当たらない。水筒にいたっては3種類も持っている。にもかかわらずパックサイズは小さく、さすがPEAKS編集部員! 小型ガスストーブを持っていくこともあるというが、今回は固形燃料(エスビット)で代用。これで0℃以下の一夜に挑むのだ。

バックパックの中身

・レインカバー
・防寒着
・レインウエア上下
・ニット帽
・手袋
・着替え(Tシャツ、ズボン、ソックス)
・スマートフォンとモバイルバッテリー
・サコッシュ(財布、手ぬぐい、ティッシュなど)
・ヘッドランプ
・PEAKS付録のトートバッグ
・固形燃料(エスビット)
・ファーストエイドキット
・エマージェンシーシート
・お茶類
・行動食(おにぎり、エナジーバー、グミ、イカ天、飲むアンコ)
・カップ&カトラリー
・PEAKS付録のクッキングボード
・500㎖ミネラルウォーター
・ナルゲンボトル
・保温ボトル(お湯入り)

いざビバーク! ……なのだが

1月のある日、ある山にカトウを連れ出した。幸い天気はよく、1月としては特別寒くもなく暖かくもなく、よくある関東の冬の低山の1日である。時刻は16時。日没までおよそ1時間。私はカトウに声をかけた。

「じゃあ、実験スタート。あなたはいま、今日中に下山できないことを悟った。さあ、どうする?」

「えっ……(ポカーン)」

なんだかカトウはキョドっている。いや、ビバーク体験することは知ってるでしょ。ビバーク場所を探すんだよ。……ということはもちろんカトウはわかっているのだが、いざビバークとなると、なにをしていいのかすぐには頭に浮かばないらしい。

ここでひとつの教訓。ビバーク未経験者は『まずなにをしたらいいか』がわからない。そこで早速、私がアドバイスする。

「まずはビバークする場所を探そう」

カトウはあたりをキョロキョロ見渡しながら歩き始めた。が、どうも周囲を見ているようで見ていない感じがする。「探そう」といわれてもどういう場所を探せばいいのかわからないので、闇雲に見回しているようなのだ。

無目的にあたりをさまようカトウ。糸の切れた凧のようだ。その目はなにを見ているのか

そのうち見るからに適当に決めたような場所で立ち止まった。

「ここにします」

「どうしてここ?」

「うーん……、木に寄りかかれるから……?」

なるほど。それは正解なのだろうか。

【実験の教訓.1】
未経験者はまずなにをしたらいいかわからない

「ビバークしよう」と決めても、具体的になにをすればよいのか、経験がないとなかなかわからない。ビバークするとなったら、やるべきことをテキパキと行なわければいけないのだが、グズグズと時間を浪費してしまうのが未経験者にありがちなことでもある。まずやるべきなのは、ビバークする場所を探すこと。もし日没が迫っているような時間ならば急ぐべき。明るさが残っているうちに、できるだけ快適に一夜を明かせそうな場所を探すことが第一歩だ。

ビバークする場所の選び方

なんとなく周囲を歩きまわってなんとなく決めたのがここ。まず気になったのが、周囲が開けていて吹きさらしであること。このときはとくに風はなかったし、短時間休憩するならここでも文句はないが、一夜を明かすとなるとそれなりに苦しい時間になることが予想される。最初は体が温まっているので問題を感じないが、1時間もすればつらくなってくるもの。ここしかないのならともかく、周囲にはもっといい場所がいくらでもあった。考えなしに適当な場所で手を打つと後悔するはめになるので、場所選びにはこだわろう。

ビバーク地のセオリー

・大きな岩の下など屋根になるものがある
・下地が濡れていたり湿っていたりしない
・窪地や樹林などで、風が通りにくい
・落ち葉や草などで下地がやわらかければ理想

カトウの決めた場所では一夜はつらかろうと思い、森山が探し直したのがここ。最初の場所から数十メートルしか離れていないが、周りがササに囲まれてはるかに落ち着ける。体に感じる空気の流れも最初の場所と比べて明らかに少なく、寒さを感じにくいはずだ。ビバークの際は、上記のセオリーに沿って、面倒がらずにできるだけいい場所を探そう。

バックパックをマット代わりに

最初の場所ではカトウはただ地面に座っていたが、地面からの冷えは意外にこたえるもの。バックパックをマット代わりにして座るのが、簡単かつ効果的なビバークテクだ。カトウはレインカバーを持っていたのでそれも重ねた。持っている物はフル活用するのが基本である。

バックパックの中に入れていた荷物は、PEAKS付録のトートバッグにまとめた
バックパックにレインカバーを重ねて使うと、地面からの湿気や濡れ防止にもなる

登山道に座り込むのは最悪

登山道上の目に付いた適当な場所で落ち着いてしまうのは、初心者がいかにもやりがちなビバーク例だ。登山道は開けているので、ビバーク場所としては適さないことが多い。疲れきってもう一歩も動けないというならそれもしかたないが、少しでも元気が残っているなら、登山道を外れた場所も見回して、可能なかぎりいい場所を探すようにしよう。

落ち着いたら連絡を

場所を決めて落ち着いたのち、携帯電話が通じるようなら、家族などに下山できなくなったことを連絡しておこう。その後は無闇にケータイをいじらずにバッテリーを温存。

 

※この記事はPEAKS[2021年3月号 No.136]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。

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