編集部員が実験! 普段の装備とビバークグッズを活用した寒さ対策|緊急ビバーク【中編】
PEAKS 編集部
- 2022年03月25日
山中でトラブルがあって下山できなくなり、緊急ビバーク。今回の記事では実際にビバークをしてみて、どういう心理に陥るのか、どういうことが起こるのかを実践検証している。前回の「ビバーク未経験が陥りがちな、場所選びの落とし穴」に続き、今回は寒さ対策の基本を検証してみた。
INDEX
▼【前編】【後編】もこちらよりお楽しみください。
着られるものは全部着る!
無事ビバーク地が決まった。次はどうする? とカトウに尋ねる。
「レインウエアを着ま……す」
なんとなく自信なさそうに答えるが、間違ってない。できるだけ体を暖かく保っておくために、持っているウエア類は早めに着られるだけ着たほうがいい。
日帰り装備にしてはカトウの持ち物は充実している。バックパックから防寒着とレインウエアを取り出し、身に付け始めた。行動中に着ていたフリースの上に防寒着、その上にレインウエアを重ねる。レインウエアは保温性はそれほどないが防風性が高いので、ビバーク時はぜひ身に付けるべきものの筆頭である。
黙って見ていると、ニット帽や手袋も忘れずに付け始めた。意外と忘れがちなレインウエアのパンツも穿いている。おお、わかってるじゃないか。
身に付けられるものをひととおり身に付けると、カトウはエマージェンシーシートを取り出した。実際に使ったことはないそうで、広げるのも初めて。慣れない手つきで体に巻き付け、体を小さくしてくるまる。
「風を遮断してくれる感じがあって、あったかいです」
しかしこれでカトウの手持ち装備は使いきった。寒さから体を守ってくれるものは以上である。これで朝まですごせそう?
「んー……、なんとかなりそうな気がします」
現在の気温は4℃。時刻は午後5時。これから気温はさらに下がっていくはずだが、さて……?
カトウのとった寒さ対策
お茶を飲むとあったまります
午後6時。すでに日はとっぷりと暮れた。カトウはエマージェンシーシートにくるまってひたすらじっとしている。声をかけてみた。
「これからどうする?」
「思いつきません」
行動食とかいろいろ持っているじゃない、せっかくだから食べようよ、体あたたまるよ。と言うと、「あ、そうでした」と思い出したように言って荷物から行動食を取り出した。
さらに、カトウは固形燃料とお湯を沸かせるカップまで持っている。これは使わない手はないだろう。こうした固形燃料やガスストーブなど、火をおこせる物があるかどうかは、ビバークの快適性を大幅に上げてくれるのだから。
カトウは行動食を食べ、固形燃料で沸かしたお湯でピスタチオココアを飲み、人心地。
「飲んだり食べたりすると落ち着くでしょ」
「はい、寒くなってきていたけどあったまりました」
防水マッチがあって助かった!
緊急時には焚き火もありだ
寒くて耐えられない場合は、焚き火をおこすのもありだ。焚き付けとなる紙や固形燃料などを持っていれば、木が湿っていないかぎりスムーズに火をおこすことができる。ただし山火事には十分注意して、緊急時に限る。とくに、風があるときや、乾燥した時期で落ち葉が周囲にたくさんある場合は十分に注意をしよう。
4時間経過。つらくなってきた
時刻は夜9時。ビバークを始めてから4時間ほどがたった。気温は0℃。これから未明にかけて、まだまだ下がっていくはずだ。私とカメラマンの取材チームはダウンジャケットを着てテントに入り、夕食を食べてゆっくりしていたが、そろそろカトウの調子を見にいってみよう。
「調子はどう?」
「寒いです……」
カトウが弱々しく答える。聞けば、体の寒さは耐えられないほどではないが、足が冷たいという。むしろそちらのほうがつらいとも。たしかに、手足など末端の冷えは意外と耐えがたいもの。我慢できないという意味では、胴部分の寒さよりも上かもしれない。
「靴ひもをゆるめると少しマシになるかもしれないよ」
「なるほど」
早速カトウは靴ひもをほどいた。
「んー……、少し冷たさが減ったような気もしますが、劇的には変わらないかな……」
そうやって少しずつアイデアを与え、快適条件を作り出すいくつかの試みをしばらくやっていたが、絶対的に気温が低いので、寒いことには変わりはないようだ。
【実験の教訓.2】
足先の冷えはかなりつらい
手足などの末端は女性のほうが冷えやすいという。私(森山)はあまり経験がないが、手足が冷えやすい人は要注意ポイントかもしれない。ビバーク時は靴ひもをゆるめたほうが、足をリラックスさせられるうえに、靴による圧迫を軽減できるので冷えも抑えることができる。シュラフカバーなどで足を覆える場合は靴を脱いだほうが温まることも多い。
フードをかぶる
フードの保温力は意外なほどに高く、ウエア一枚分に匹敵するほど暖かく感じる。せっかくフード付きのウエアを着ているにもかかわらず、フードをかぶらずに「寒い、寒い」と言っている人をよく見かける。忘れがちなので、ビバーク時は必ずかぶろう。
バックパックに下半身を入れる
大型バックパックを使っているときに有効なビバークテク。バックパックに下半身をすっぽり入れることで、ハーフシュラフのように使えるのだ。今回のカトウのバックパックでは小さすぎるが、足を入れるだけでも足先の冷え解消には使えたかもしれない。
ビバークグッズを試してみる
長時間じっとしていてつらそうでもあるので、このへんで、用意してきた各種ビバークグッズのテストをしてもらうことにした。
ツエルトやシュラフカバーを取り出し、カトウに与える。座り込んで体が冷えていたなか、各種グッズのテストでしばらくぶりに体を動かしたカトウは、みるみる元気を取り戻していくようだ。やはり体を動かすのは、温まるための手っ取り早い手段なのだろうか。
ツエルト
ビバークの心強い味方、ツエルト。テントのように張って使うこともできるし、エマージェンシーシートのように体をくるんで使うこともできる。今回使ったのは重量320gの2人用サイズ。ひとりで使うなら重量百数十グラムのソロ用ツエルトもある。
カトウの感想
サイズが大きくて、エマージェンシーシートより体をすっぽり覆ってくれるので暖かく感じました。エマージェンシーシートはどうしても隙間ができてしまうのでそこから冷気が入ってくるんですが、ツエルトは余裕があるので体全体を覆うことができて包まれ感が高いです。生地自体は薄いので保温性がある感じはないのですが、全体をきっちり覆うことができるのがいいですね。そのぶん暖かく感じるんだと思います。
タイベックシート
アウトドアではおなじみタイベック。断熱性と防水性に優れるため、登山でもなにかと役に立つことが多い。今回使用したのは、2m×1mサイズのシート。森山がテントのグラウンドシートなどとして多目的に使用している私物で、重量は130gほど。
カトウの感想
これは暖かいです。サイズ的にはエマージェンシーシートと同じくらいだったので隙間はできてしまうのですが、こちらは生地自体に保温性があるように感じます。くるまっているとだんだん暖かく感じてくるような感覚もあって、安心感はけっこう高いです。ただし、隙間ができて下から冷気が入ってくるぶん、ツエルトよりは劣るかな……。もっとサイズが大きくて体全体を覆えるようであれば、これがいちばん暖かいかも。
シュラフカバー
クライマーのビバークによく使われている。寝袋のような保温性はないが、軽くてかさばらないことと風や濡れを防いでくれるところがメリット。重量は素材や製品によって200 〜300gほど。今回使ったのはゴアテックス製で370gのしっかりしたもの。
カトウの感想
暖かさはツエルトやタイベックシートのほうが上に感じました。とくに下半身が冷たく感じて……。靴を履いたまま入っていたのですが、靴を脱いで入ったほうが足先が冷たくなりにくかったのかもしれません。ただ、全身がすっぽり覆われるので安心感があって落ち着きます。エマージェンシーシートなどと違って、体を動かしても体が覆われた状態が常に保たれるので、気を遣わないですむのもいいところですね。
新聞紙
昔の登山技術書には必ず書いてあった伝統的なビバークグッズ。どの家庭にもあるし、焚き付けにも使えるので便利だとされていたが、近ごろはどの家庭にもあるとはかぎらないのが難点。重量は120gほど。そのビバークグッズとしての力量はいかに?
カトウの感想
これは……どうなんですかね……? ちょっと暖かくなったといわれればそんな気もするし、ほとんど変わらないといわれればそうとも思えます。使わないよりは使ったほうがいいのかもしれないけど、まあ……正直、効果は感じませんでした。ただし、ちょっと雑に体に巻いてしまっていた感もあるので、枚数をたくさん使って、ていねいに身に付けるようにすれば、もうちょっと効果は感じられたのかもしれません。
※この記事はPEAKS[2021年3月号 No.136]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。
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装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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