苛酷な状況で使うアウトドアギア“そのとき“はいつかやってくる|装備トラブルの体験談
PEAKS 編集部
- 2022年03月28日
いつかは壊れるのが、道具である。どれだけ大切に使っていようが、それが苛酷な状況下で使うアウトドアギアであればなおさらだ。金属が主要部品のバーナーやクッカーなどは比較的長持ちするが、アウトドアウエアや登山靴、テントなどは経年劣化が免れない。とくに高温多湿な夏が訪れる日本の気候は、古い道具に愛着をもっている人にとって天敵ともいえる。
僕個人も、さまざまな道具を壊してきた。とくに20年以上にわたって旅を続けてきたアラスカでは長期間にわたって山中で生活をするため、幾度となく道具に不具合が生じた経験がある。もっとも多いのは、テントのトラブルだ。数週間の間、移動しながら毎日設営と撤収を繰り返し、強風にあおられ、激しい雨に打たれ、夏の吹雪に見舞われたこともあった。
極北の原野では、24時間沈まぬ太陽の紫外線を受けて生地は劣化していき、砂を噛んだジッパーコイルは開け閉めするうちに擦り切れて開閉ができなくなってしまう。レインフライが透けるように薄くなって破け、シームテープがすべて剥がれ落ちたこともあった。
旅の期間が長くなればなるほど道具の扱いは手荒くなり、クッカーはひしゃげ、ハンドルが取れて火から降ろせなくなったこともあった。2.5層のレインウエアも着ているうちに防水透湿皮膜が劣化し、剥がれ落ちたことがある。アラスカ名物の蚊を除けるため防虫剤を塗りまくった肌から付着し、絶えずバックパックのショルダーハーネスと擦れた結果だった。深い藪を漕いで表地からビリビリにしてしまったこともある。
登山靴のソール剥がれも、よく起きた。ある夏には、出国する前日に山のなかでソールが剥がれ、よくその日までもってくれたと感謝したことがある。アラスカの原野では長靴を履いて歩くこともあり、ひび割れによる漏水や、中のクッションが擦れてボロボロに剥がれ落ちたこともあった。
こうした登山装備の補修は、旅の途中で応急処置を施す。登山靴などは素早く簡単に補修してしまうが、細かな修理は晴れた日の午後に行動を早めに終了して、ゆっくりとした時間をすごしながら行なった。使用するのは配管修理用のダクトテープであり、レインジャケットも、テントも、靴のソールも、クッカーのハンドルも、サングラスだってダクトテープで修理した。とある友人は、粉砕したカヤックのフレームをひと巻きのダクトテープすべてを使って応急処置したこともあった。それ以来、僕はアラスカではつねに新品のダクトテープひと巻きを携行するようになった。
ダクトテープはとにかく万能だ。いつもトレッキングポールに巻いて、すぐに補修ができるようにしている。着火剤にもなるので、落水時に焚き火を熾したり、避難小屋などで薪ストーブに火をつけたりするときにも素早く使える。ファーストエイドキットの中には薬などに加えて道具の補修キットも入れていて、強力な粘着力のティアエイドやタイラップ(結束バンド)、縫い糸と針、ボンドなども持っているのだけれど、正直ほとんど使ったことがない。レインジャケットなどは街に戻ったら使いものにならないので、ゴミ箱に捨ててしまう。そのため、ダクトテープでの補修で充分なのだ。
ジッパーやテントフレームの交換を行なうときには、プライヤー付きのレザーマンも必要不可欠な装備になっている。ガソリンバーナーの補修ほか、付属のヤスリで金属部品を削ったり、ハサミでほつれた糸を切ったりするのにも役立つ。
行動中に起こる装備の不具合はストレスでしかない。とくに長期間にわたる登山であれば、雨が浸みてきたり、歩きにくかったり、いつテントが壊れるのかと不安に思いながら毎日をすごさなくてはならない。そうした心配をなくして、より安全で快適にすごすためには、ある程度使い込んだ装備は引退させて、新しい道具と入れ換えることも必要だ。愛着のある道具との別れ。“そのとき”はいつかやってくる。登山装備を補修しながら、寿命まで使い込みたいところだが……。
村石太郎さん
登山用具について日本随一の知識を有するアウトドアライターで、北アラスカの原野を旅する冒険旅行家としても知られている。PEAKSでは、連載「野外道具探訪記」を担当する。
※この記事はPEAKS[2021年3月号 No.136]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。
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PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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