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机の引き出しの中のアカネズミ|筆とまなざし#303

自然との境界に位置するアトリエ小屋だからこそ。アカネズミとの同居

アトリエには大学生時代に見つけた木製の机があります。使われているのはナラ材。大学で廃棄されるのを待っていた机を、事務員さんに話して譲ってもらったのです。かつてだれかが使っていたその勉強机はすっかり色褪せ、見るからに古びていたので焦茶色のオイルステインを塗りました。それ以来、もう15年以上その机で絵を描いています。

先日、とてもうれしいできごとがありました。紙を取り出そうと机の引き出しを開けると……中に入れていた紙が小さく千切られ、幾重にも重なって卵のように丸まっているのです。もしや、と思いました。以前、引き出しに入れていた剱岳の絵の右端が、何者かによって齧られていたことがありました。ずいぶん気に入っていた絵だけにショックも大きかったのですが、自然との境界に位置するようなアトリエ小屋にしたいと思っていただけに、これでようやく絵が完成したのだと思うことにしました。

鳥類の研究者である友人に聞いたところ、絵を齧ったのはアカネズミだろうとのこと。日本固有の野ネズミで、日本列島に広く生息しています。ちなみに在来種の野ネズミはほかにヒメネズミやハタネズミ、カヤネズミなどがおり、いわゆる「家ネズミ」と呼ばれるドブネズミなどは外来種です。アトリエの向かいの斜面に穴を掘って暮らしているのはジネズミ。ネズミという名前ですがモグラの仲間です。

さて、引き出しの中の卵のように丸まった紙屑。よく見るとその紙屑が小刻みに動いています。息を凝らして鉛筆の先で紙をめくっていくと……クンクンクンクン、小さなピンク色の鼻が外のようすを伺うように見え隠れしています。さらに紙をめくると「なんだなんだ」といわんばかりにニョキッと頭が現れました。真っ黒いつぶらな瞳がなんとも愛らしい。夜行性のアカネズミはお休みの最中だったのでしょう。すぐに頭を引っ込めると手で器用に紙屑を掴んで蓋をし、再び紙屑の中に引っ込みました。動画を撮って、早速絵に描いてみることにしました。自分の住処の上で絵が描かれているとは、ましてや自分が描かれているなど思ってもいないでしょう。なんだか不思議で、とても楽しい気持ちになりました。

少しずつ寒くなったこのごろ、紙屑のベッドはなかなか温かそう。さて、このアカネズミはいつまで引き出しの中で暮らすのでしょうか? アカネズミと同居しながら、しばらく観察してみたいと思います。

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

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