【後編】挑戦前に学んでおきたい!岩稜歩き・クサリ場通過の注意点
PEAKS 編集部
- 2023年03月24日
梅雨が明けて、いよいよ夏山シーズン本番。今年こそアルプス、あこがれの岩稜帯へと夢を膨らませている読者も多いだろう。しかしそこは岩稜帯。一般登山道にはないキケンも多く潜んでいる。安全に岩稜帯を通過するための基本技術やマナーを解説する。
編集◉PEAKS編集部
文◉井上大助
写真◉黒田 誠
クサリ場通過の注意点
準備が整ったところで、実際にクサリ場通過の注意点を説明する。肝心なのは、いかなる場面でもあわてないこと。あわてないためには十分な事前練習を行なうことと、現場の状況をしっかりと把握することだ。
ルートファインディングはしっかりと
クサリ場に限らず、登山道の難所に着いたら、いきなり取り付かずに立ち止まり、しっかりとルートファインディングを行ない、その全容をできるだけ把握することが大切だ。登り始めてしまうと狭い範囲しか見えなくなるので、登るべきライン、顕著な手掛かりの有無、危なそうな箇所、休めそうなポイントなど、できるだけ情報を事前に得ておこう。
また、クサリ場では、手が離せないようなポイントが続く場合があるので、取り付きが広く安全な場所ならば、ルートファインディングをしながら身支度を整えたり、休憩を取るのもいいだろう。
クサリはしっかりと握る
当たり前のことだが、クサリはしっかりと握ろう。しかし、自分(あるいは後続者)の体重がかかることによって手がクサリと岩に挟まれて抜けなくなることや、指がクサリのコマに挟まれてしまうこともあるので、どこを握れば安全か、つねによく観察し、考えながら登りたい。もちろん、レザーグローブを着用するようにもしたい。腕はヒジを伸ばした状態でクサリに捉まり、前進時に引き付けるようにする。そして、クサリだけを頼って登らないことも大切。詳細はあとで述べるが、クサリ以外に手を使う余裕ももっておこう。
適切なラインを登る
上記のルートファインディングがきちんとできていないと、本来進むべきラインから外れてしまいやすい。ほとんどの場合、クサリは岩の登りやすいラインに沿って設置されているものなので、クサリから外れてしまうと浮石が多くあり、身動きが取れなくなるなど、非常に危険な状況に陥る場合がある。
おかしいと思ったら無理はせず、慎重に安定したポイントまで戻ろう。そこであらためてルートファインディングをし直して、適切なラインに戻って慎重に進むようにしよう。クサリのないコースでは、目印や踏み跡などを見落とさないように、注意しながら歩く。
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支点ごとにひとりずつ登る(下る)
クサリ場のクサリやハシゴは岩がしっかりした場所ごとに支点(埋め込みボルト)が打たれている。このボルトが打たれているポイントの間を「1区間」というが、この1区間に入れるのは1名が原則だ。先行者がいるのに後続者がぶら下がってしまうと、先行者はバランスを崩してしまうので、必ず先行者が次の区間に入ってから進入すること。登山者同士で合図を出すのもいいだろう。待機する場合はボルトか岩のしっかりした部分を持ち、後続者がクサリを引いても影響を受けない体勢を取るようにしよう。
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すれ違い時は待てるほうが待つ
いくらルートファインディングをしっかり行ない、先行者がいないことも確認して進みだしたとしても、全体が見通せないようなクサリ場の場合、上方から下山者が降りてくることもあるだろう。通常の登山道では「登り優先」が原則であるが、クサリ場においては、待てる状況(場所、体力、経験、気付いたタイミングなど)にあるほうが待つのが原則。場合によっては安全地帯まで戻って待つことも考えよう。そして、待ってもらうほうは恐縮して慌てて行動しようとするはず。しかし、慌てさせるのは事故の元。「ゆっくり、落ちついて登ってください」と優しくひと声かけられるのがスマートな岩稜登山者だといえるだろう。
トラバース(横移動)では、足の入れ替えを上手に使う
トラバースの岩場でクサリが設置されているようなところは、足場が極端にせまいことを覚悟しておこう。しかし、そんな難所でも足さばきがしっかりできていれば、それほど怖くはない。まずは両手でクサリまたは岩の手がかりをしっかり保持して、軸足をしっかり置いて荷重をし、もう片方の足を進行方向に差しだす。その際、前にも述べたように、上半身を壁から離すとしっかり荷重できるうえに次のスタンスも見つけやすい。次の足場にしっかり立てたら重心移動をして、うしろの足を引き寄せる。腕よりも足を先行させるイメージがよいだろう。
クサリ“だけ”を頼って登らない
クサリ場ではクサリだけを頼って登り下りしている人が相変わらず多いが、これはほぼまちがい。本来は岩の手がかりが少ない箇所にクサリは設置されているが、クサリを固定するボルトの岩が脆弱であったり、手がかりの位置も等間隔・一直線ではないので、どうしてもクサリの位置がズレてしまうことがある。場合によってはクサリだけを頼って登ると、登りにくいラインを登らなくてはいけないこともあり、必要以上にクサリ場が難しく感じることもある。あくまでクサリは補助と考え、基本は岩の形状を利用して登るようにしたい。
クサリだけを頼って登ってはいけない理由
写真は実際にメジャーな登山道に設置されていたクサリ場のものだ。いまにも抜けそうなボルトやハーケンに針金みたいなもので固定されていたり、もとの径の半分以下まで摩耗したクサリが意外に多い。まさにロシアンルーレット状態だ。これは設置後数十年メンテナンスされていなかったり、そもそもの資材が適切でなかったりしたためだ。こういったクサリ場も多いことを念頭におき、100%信じていいかを考えてクサリ場を通過しよう。
※この記事はPEAKS[2021年8月号 No.141]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。
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編集◉PEAKS編集部
文◉井上大助
写真◉黒田 誠
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装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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