BRAND

  • FUNQ
  • ランドネ
  • PEAKS
  • フィールドライフ
  • SALT WORLD
  • EVEN
  • Bicycle Club
  • RUNNING style
  • FUNQ NALU
  • BLADES(ブレード)
  • flick!
  • じゆけんTV
  • buono
  • eBikeLife
  • Kyoto in Tokyo

STORE

MEMBER

  • EVEN BOX
  • PEAKS BOX
  • Mt.ランドネ

<クライミング史上最後のオールラウンダー> アダム・オンドラ 【山岳スーパースター列伝】#53

文◉森山憲一 Text by Kenichi Moriyama
イラスト◉綿谷 寛 Illustration by Hiroshi Watatani
出典◉PEAKS 2019年2月号 No.111

 

山登りの歴史を形作ってきた人物を紹介するこのコーナー。
競技と岩場、どちらでも世界トップで活躍する驚異のクライマーを紹介する。

 

アダム・オンドラ

現在、フリークライミングは歴史上の分岐点に立っていると私は考えている。かつて登山の一技術だった岩登りが、フリークライミングとして独立してひとつのジャンルになったのと同じように、より競技性を突き詰めたスポーツクライミングが、フリークライミングから離れてひとつの独立したスポーツになろうとしているのが、現代という時代ではないかと思うのだ。

同じく登山の一技術であったスキーが競技性を追求して一大スポーツとなっていった道を、いま、クライミングがたどろうとしている。とくにオリンピック競技化が決まったこの数年で、その傾向には拍車がかかり、スポーツクライミングは独自の進化を遂げつつある。

となるとプレイヤーはどうなるか。オリンピックで活躍するスキー選手とバックカントリーのトップライダーが同じ人物ではないように、競技で優勝するクライマーと岩場で活躍するクライマーはまったく別の人になっていく。実際、すでにほぼそうなっている。

以前はそんなことはなかった。岩場のルートで世界最高難度を登るクライマーは、競技でも強かった。平山ユージやクリス・シャーマなどがその代表格だ。ところがいまは違う。岩場と競技、それぞれは別個の技術が必要なほどに先鋭化され、両者の世界最先端レベルは、ひとりの才能ではカバーしきれないほど高度なものになっているのだ。

しかし、まだひとりだけ例外がいる。岩場と競技、どちらでも世界トップで戦える、おそらくは歴史上最後の人物。それが、チェコのアダム・オンドラというクライマーである。

1993年生まれのオンドラは、ローティーンのころから天才少年として騒がれ、世界に冠たる難ルートを次々と手中に収めてきた。18歳になるころからは、世界最高グレードの歴代記録を更新するようになり、以降、世界最高グレードの更新はオンドラのひとり舞台となっている。2017年には、世界で初めて5.15dというグレードを達成。これは現時点で人類が到達しているクライミング最高グレードである。

いっぽうで、オンドラは競技への出場にも積極的だ。岩場のクライミングと並行しているため、年間を通してのフル参戦こそしないものの、出場しさえすれば即優勝候補のひとり。競技だけにターゲットを絞ってトレーニングを重ねている強力アスリートを相手にやすやすと優勝をさらってしまう。

スポーツクライミングの最高権威とされる世界選手権では、2014年、2016年とリード種目を連覇(世界選手権は2年に1回の開催)。ボルダリング種目でも2014年に優勝し、2016年は、日本のエース楢﨑智亜と激闘を繰り広げた末に2位に入っている。オリンピック前の2019年にもリードで優勝して健在ぶりを示した。

これだけではない。さらに驚異的なのは、それほど経験がないはずのビッグウォールでも世界最高レベルの登攀を成し遂げていることだ。日本でもドキュメンタリー映画が公開されて話題となったアメリカ・エルキャピタンの「ドーンウォール」というルートを、オンドラは2016年にわずか8日間で登りきっている。標高差1,000mのドーンウォールは、ビッグウォールクライミングの世界最高難度を誇るルートで、初登者は2人がかりで19日もかかっている。オンドラはひとりで、わずか8日間!

どんなクライミングをやらせても世界最高レベルでこなしてしまう。「宇宙人」と呼ばれるほどの異常なクライミングの才能の持ち主。だからこそ、細分化が進んだ現代でも、これだけのスーパーオールラウンドなパフォーマンスができるのだ。こんなクライマーはもう今後現れないだろう。

今後の注目は、東京オリンピックに参加するのかどうかだ。オンドラはオリンピックにはやや批判的な態度を示していたので、出場しない可能性もある。だが、もし、競技用のトレーニングを積んで参加したとすれば、間違いなく優勝候補のひとりとなるだろう。そこで金メダルをかっさらっていく痛快なシーンを見てみたい気もする。

<注>2021年に開催された東京オリンピックでは総合6位だった。

 

アダム・オンドラ
Adam Ondra
1993年生まれ。チェコ出身のクライマー。6歳でクライミングを始め、13歳のときに5.14dというグレードのルートを登り、注目される。16歳になってからはクライミングの世界大会にも出場し、ワールドカップで4回の年間タイトル、世界選手権でも4つの金メダルを獲得している。2017年に、ノルウェーで世界初の5.15dグレードとなるルート「Silence」を初登。
https://www.adamondra.com

 

SHARE

PROFILE

森山憲一

PEAKS / 山岳ライター

森山憲一

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

森山憲一の記事一覧

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

森山憲一の記事一覧

No more pages to load