ひさしぶりに訪れた新宿「世界堂」で出逢った水彩絵具「DANIEL SMITH」|筆とまなざし#329
成瀬洋平
- 2023年05月31日
初めて見つけたアメリカシアトル製の「DANIEL SMITH」。「Moonglow」は予期せぬ風合いが生まれそう。
先日、ひさしぶりに上京した際に新宿の世界堂へ立ち寄った。ビル一軒が丸々画材屋というのはたぶん日本で一番大きいのではないだろうか。10年以上前、東京に住んでいるときはよく通った画材屋である。1階には万年筆や文具、事務用品がところ狭しと並べられ、2階は紙や製図用品、3階には絵の具などが売っていて、4階は額縁コーナーである。店内は10年前と全く変わらず、見覚えのある店員さんもいたりして、なんだかタイムスリップしたような気分になった。
上京ついでにスケッチブックを買って帰ろうと立ち寄ったのだが、なんの気なしに絵の具コーナーへ向かった。ホルベイン、ウィンザー&ニュートン、ラウニー、見慣れたメーカーの水彩絵の具のなかに、初めて見る絵の具を見つけた。ラベルには「DANIEL SMITH」と書かれている。色見本を見ておどろいた。ざらっとした独特の質感と滲み具合。とくに「Moonglow」という色はこのメーカーでも人気の色らしく、単色でありながら所どころ色合いが違う。POPを見ると、顔料中の粒子の質量、重量の差によって混合された顔料の定着する場所が異なり、その結果「Moonglow」という単色の絵の具でも予期せぬ複雑な色合いが現れる。この現象をグラニュレーション(粒状化)というらしい。ざらっとした質感はこの「粒状」からくるものである。
水彩絵の具はイギリスのメーカーが多い。けれども「DANIEL SMITH」はアメリカ、シアトルの会社。日本では見かけない絵の具を旅先で見つけるのが楽しみで、サンフランシスコ郊外のカウンターカルチャーの雰囲気が残る画材屋で買った深い群青は大切な色のひとつだし、フランスのセユーズの岩場に向かう途中で立ち寄った古い谷沿いの小さな街の画材屋で買ったラベンダー色の絵の具はプロバンスの旅の思い出。「DANIEL SMITH」は、日本にいながらそんな旅の楽しみを味あわせてくれるようだった。
普段使っている絵の具よりずいぶん高価だったけれど4色買った。「Moonglow」は赤や青の中にビリジアンが浮き上がっている。水彩の滲みは完全に想像することはできないけれど、この絵の具を使うとさらに予期せぬ風合いが生まれそう。どんな変化をもたらしてくれるのか、絵を描く楽しみがまたひとつ増えた。
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