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地形図が見られる最新スマートウォッチ、TicWatch Pro 5を登山で使ってみた!

日々、多くの登山用具に触れ、山で使い込んでいるPEAKS編集部とライター陣が、「これは!」と感じた道具を現場主義でレビューします。実際に自身が山で使っているものにかぎり、その良いところも悪いところも登山者目線でレポートするのがこのコーナーの基本方針。第1回は、いま注目のスマートウォッチです!

文・写真◉森山憲一

 

レビュー前に能書きを少々

「腕時計で地図を見ることができたら便利だな~」

という動機でスマートウォッチを使い始めて2年近くがたちました。

「スマートウォッチ」

Apple Watchの登場以来、よく耳にする用語ですが、どういうものかよくわかっていない人も多いんじゃないでしょうか? かくいう私も、自分が使い始めるまでよくわかっていませんでした。

単純に言ってしまえば、スマートフォンを腕時計型にしたようなもので、これ自体が小さなコンピューターデバイスになっています。と言うと、登山には関係がないものと思われがちですが、実際に使ってみると、役立つ局面が思ったよりたくさんあることに気づきました。

 

現代のスマートウォッチで、登山で役立つ三大機能は以下のようなものになると思います。

1)腕をひねるだけでいつでもすぐに地図を見ることができる

2)歩いてきた距離や歩行ペースなどを確認できる

3)心拍数を確認できるので、バテにくいペースを維持しやすくなる

いずれもスマートウォッチがないとできないことではなく、1は紙地図やスマホ地図、2はGPS専用機、3は心拍計があればできます。しかし、GPS専用機や心拍計は高価でもあるし持っている登山者は多くはありません。一方、腕時計ひとつあれば、それらの機能をまかなえてしまう手軽さこそが、スマートウォッチの新しさであり、これまでにない魅力といえるでしょう。

私はなかでも1に着目したわけです。長い登りを登っているときなど、「どこまで来たかな」と10分に1回くらい確認したくなるのですが、そのたびに地図を取り出すのは面倒だ。これまでは、腕時計に表示される高度計の数値で現在地を推測していたのですが、それではわりとアバウトなことしかわかりません。地図上でもっと精度高く現在地を知りたい。しかも素早くサッと。

そこでスマートウォッチを導入することになったわけです。

 

能書きはさらに続きますよ

 

2や3の機能はほとんどすべてのスマートウォッチでできることですが、1の「地図が見られる」機能を備えたスマートウォッチは、じつはそこそこ限られます。現時点(2023年7月現在)では、その選択肢は以下の3つに大別できます。

Apple Watch

■Wear OS by GoogleというOSで動作するもの(Google Pixel WatchGalaxy Watchが代表的)

Garmin(ガーミン)やCOROS(カロス)、SUUNTO(スント)などの地図表示対応モデル

 

スマートウォッチに興味ない人でも、Apple Watchの存在は知っていると思います。スマートウォッチ界ダントツのシェアを誇り、身近で使っている人も少なくないでしょう。登山で使うことを考えた場合、その長所と短所は以下のようになります。

[Apple Watchのメリット・デメリット]
非常に多機能
使用者が多いため、アプリや使い方の知識が蓄積されている
使える登山地図アプリが豊富(YAMAP、ヤマレコ、スーパー地形)
×iPhoneを使っている人しか使えない
×バッテリー持ちがよくない(24時間前後)
×比較的高価(4万円~12万円)

 

次にWear OS by Googleなるもの。これはAndroid版Apple Watchともいうべきもので、そのメリット・デメリットは以下。

[Wear OS by Googleウォッチのメリット・デメリット]
非常に多機能
Androidスマホ利用者だけでなく、iPhone利用者も使える(iPhone非対応のモデルもある)
登山地図アプリはヤマレコのみ使える
比較的安価(2万円~7万円ほど)
×バッテリー持ちがよくない(24時間前後)

 

最後にこれ。

[Garmin等アウトドアスポーツウォッチのメリット・デメリット]
アウトドアに特化した高機能性とカスタマイズ性
GPSや心拍計などのセンサー精度が高い
バッテリー持ちがよい(1週間前後~1カ月前後)
iPhone、Androidどちらにも対応
×YAMAPやヤマレコ等の登山地図アプリは使えない
×地図のクオリティが劣る
×操作性が少し複雑
×かなり高価(7万円~13万円ほど)

 

……という感じになります。

スマートウォッチはスマホと連携して使うことが前提になっているので、自分が使っているスマホに応じて、使えるスマートウォッチはある程度決まってきます。私はAndroidスマホ使用者なので、Wear OS ウォッチを選択。なかでも、バッテリー持ちのよさに定評があったTicWatch Pro 3 Ultraというモデルを購入し、1年ほど使ってきました。

これがTicWatch Pro 3 Ultra

 

TicWatch(ティクウォッチ) Pro 3 Ultraは、Wear OS ウォッチのなかでもかなり異例のバッテリー持ちのよさを誇り、公称では72時間持つといっています。ヤマレコを動かした場合はそこまでは持ちませんが、50時間くらいは持ちます。1泊2日までの山行なら充電なしで使えるので、そこが魅力でした。登山地図アプリはヤマレコしか使えませんが、私が普段メインで使っているのはヤマレコなので、そこも問題なしであります。

 

ようやくレビューに入ります

さて、この6月、私が使っていたTicWatch Pro 3 Ultraの後継機種となる「TicWatch Pro 5」が新たに発売されました。Pro 3 Ultraの愛用者としては当然気になっていましたが、メーカーから1台提供していただけることになり、今回レビューできることになりました。

 

左が新型のTicWatch Pro 5、右が先代モデルとなるTicWatch Pro 3 Ultra

 

このPro 5、Pro 3 Ultraからの主な進化ポイントは以下になります。

・高性能で省電力な最新プロセッサ「Snapdragon W5+ Gen1」を搭載
・バッテリー持続時間が72時間→80時間にアップ
・急速充電に対応(旧来比約2倍のスピード
・本体素材が樹脂から金属(ステンレス)に変更
回転クラウン(竜頭)での操作が可能に
・防水性がIP68から5ATMに強化
・最新スマホアプリ「Mobvoi Health」に対応

 

このなかで登山者的に最注目のポイントは、バッテリー持続時間が延びたことでしょう。もともとPro 3 Ultraも、Wear OS ウォッチのなかでは、Galaxy Watch5 Proと並ぶ最強クラスのバッテリー性能を誇っていたわけですが、Pro 5ではそれがさらに8時間延長。これならば2泊3日の山行も充電なしでいけるかもしれないと期待がふくらみます。

 

バッテリーの進化は期待以上

そこで実際にTicWatch Pro 5を着けて山に行ってきました。結論を先に言うと、「バッテリー持ちは期待以上の進化!」

1泊2日の登山を終えて下山したとき(実稼働38時間/うちヤマレコアプリ起動15時間)のバッテリー残量は56%でした。先代のPro 3 Ultraだと、同条件でバッテリー残量は30%くらいまで減ってしまっていたので、56%も残っているのはかなりインパクトのある数字です。

ほか、日帰り登山でも何度か使いましたが、だいたいPro 3 Ultraの1.3倍くらいバッテリーが長持ちする印象です。公式スペックではバッテリー持続時間のアップ分は1.1倍くらい(72時間→80時間)だったのですが、実使用ではいまのところそれ以上。これは嬉しい誤算。まだ2泊3日の山行で使ってはおりませんが、これならば、計算上2泊3日の山行でも充電なしで使えることになります。

 

Pro 3 UltraはWear OS最強クラスのバッテリー性能を誇っていたとはいえ、1泊2日の山行までしか使えないというのはそれなりにストレスではあり、そのために個人的にはスタメンではなくサブ扱いだったのですが、Pro 5は、いよいよバッテリー持ちが納得できるレベルにまできた感があります。これならばスタメンウォッチにしてもいいかもしれない。

ちなみに、以上は山で使ったときの話。とくに長時間アプリを動かすわけではない日常生活では96時間持ちました。公式スペックの80時間より長持ち!

 

さらに、Pro 5の売りのひとつに、急速充電に対応したことがあります。充電スピードはPro 3 Ultraの約2倍。空の状態から30分で65%まで充電できるようになったといいます。

充電スピードは公称どおりという感じで、20~30分ほど充電すれば、50~60%充電量が回復します。食事をしている間などの時間に充電しておけば十分なので、運用上のストレスがほとんどありません。

私は山中でスマートウォッチを充電するのは面倒でやりたくない派だったのですが、このスピードならやってもいいかと思えました。充電スピード、思ったより便利!

ちなみにモバイルバッテリーでも問題なく充電できました(専用ケーブルを持っていかなければいけないけど)。

 

回転クラウンが便利だ!

さて、バッテリーや急速充電のほか、Pro 3 Ultraからの進化ポイントとして便利だと感じたところを以下紹介します。

ひとつは回転クラウン(竜頭)。これを回転させることでさまざまな操作ができるようになりました。使ってみると、これがすごく便利。たとえばヤマレコの地図表示を拡大・縮小したいとき、クラウンを回すだけでできます。

 

いっぽうTicWatch Pro 3 Ultraでは、画面上の「+」「ー」をタッチして拡大/縮小をしなくてはなりませんでした。以下の動画のように。

これはそもそもやりづらいうえに、画面や指が濡れているとうまく反応せず、イライラするポイントでもあったので、回転クラウン操作ができるようになったことは実用上かなり大きな改善点と感じました。

 

回転クラウンはこれ。赤いラインが入って目立つようになってます

 

全般的な動作がさらに安定

バッテリーや回転クラウンの進化のほか、基本的な動作もより安定してスムーズになったように感じます。これは、プロセッサやメモリがパワーアップしたことによる結果でしょう。

Pro 3 Ultraでも動作に不満を感じていたわけではないのですが、Pro 5を使うと、やはりスムーズさには差があるな~と感じます。

 

 

登山用の地図アプリはやはり見やすい

左がTicWatch Pro 5、右はGarmin Forerunner 955(私物)です。どちらも同じ場所を表示しているのですが、Garminの地図は情報量が少なく、登山でガッツリ使うには少々不足を感じます。別売りの地図データを入れると地名が表示されたりして情報量が多くなりますが、それでも、等高線の見え方などを含めて、地図のクオリティはヤマレコアプリのほうが上。ここはさすがに登山専用アプリ。

Garminには、GPSの精度がおそろしくよいとか、ものすごく多機能であるとか、バッテリーがPro 5の3~4倍長持ちするとか、Pro 5にはないメリットがあるので、どちらがよいのかという単純比較はできませんが、「地図を見る」という一点においては、登山用地図アプリが使えるTicWatch Pro 5に軍配が上がります。

 

とはいえ完璧ではない

いいことばかりを書いてきましたが、欠点・難点ももちろんあります。

 

1)iPhoneでは使えない

最大の難点がこれです。TicWatch Pro 3 Ultraは対応していたのですが、Pro 5からiPhoneには非対応になってしまいました。

Androidスマホを使っている人しかPro 5は使えないわけで、これはあまりにも難点ではないでしょうか。Google Pixel WatchやGalaxy Watchなど、最近のWear OS ウォッチはどれもiPhone非対応になってきているので、しかたのないことなのかもしれませんが……。

 

2)値段が高め

TicWatch Pro 5の売り出し価格は49,999円。微妙な価格だなと感じます。というのは、先代のTicWatch Pro 3 Ultraが3万円前後で併売されているから。すべての点においてPro 5のほうが優れているのは間違いないのですが、2万円近い差がそこにあるかと問われると、迷ってしまうのが正直なところです。

主要な競合となるApple Watch Series 8やGalaxy Watch5 Proが6~7万円することを考えると十分安いともいえるのですが、先代が圧倒的なコストパフォーマンスを誇っていただけに、Pro 5にももうひと声と感じてしまうのです。

まあ、この手のデジタルガジェットは、発売から数カ月たつと価格が下がったり、Amazon等のタイムセールで安く出てくることも多いので、そのタイミングを待って買うのはひとつの手かとも思います。

 

3)スマホアプリが使いにくい

スマホと接続して使うことが前提のスマートウォッチは、スマホアプリの使いやすさも重要なポイントです。

しかしTicWatchのスマホアプリは相変わらず使いにくい。Pro 3 Ultraのアプリよりはマシになったとはいえ、表示項目が散らかっていて使いづらさを感じます。また、さまざまな設定をスマホアプリ側でできるとすごく便利なのですが、Pro 5のアプリ「Mobvoi Health」は設定変更できる項目が少なく、ウォッチ側の小さな画面で設定変更をしなくてはならないのもストレスです。

このアプリの使いにくさは、Pro 3 Ultraの時代からなんとかしてほしいポイントであります。

 

TicWatch Pro 5のスマホアプリ「Mobvoi Health」のトップ画面

 

総評

いろいろ書いてきましたが、Pro 3 Ultraで感じていたストレスがほぼ解消される進化となっており、「登山用地図ウォッチ」として理想に近づきました。少なくとも、「地図を見るためのスマートウォッチ」としては、現在市場にあるもののなかでKINGといっていいと思います。

Apple WatchやPixel Watchにはバッテリー持続時間で圧勝。GarminやCOROSなどのアウトドアウォッチには地図の見やすさで圧勝。Galaxy Watchの次世代モデルがバッテリー性能で並んでくる、もしくは凌駕してくる可能性もありますが、そうなると価格もかなりアップしてくるはずなので、Pro 5の優位性はしばらく保たれることと予想します。

聞くところでは、このTicWatch、沢登りをする人にも愛用者がけっこういるようです。確かに、いちいち地図を取り出しにくい/濡れることが多い/細かい地形判断が重要、という条件が揃っている沢登りではありがたいはず。同様に、雪山登山や薮山登山など、地形判断が重要になる登山ではかなり強力なツールになることでしょう。

 

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2023年07月21日

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PROFILE

森山憲一

PEAKS / 山岳ライター

森山憲一

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

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