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新生・光岳小屋の取り組み|2022年、女性主人のきり盛りにより再スタートした 南アルプス最南部の有人小屋。

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好評発売中「PEAKS 2023年9月号(No.161)」より、誌面記事の一部をご紹介します!
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2年間のコロナ期間を経て、ようやく昨シーズンよりスタートした光岳小屋。片道8時間もかかる南アルプス最南端の山小屋で若手の新米主人が挑戦する取り組みに期待と目が離せない。

編集◉PEAKS編集部
文◉阿部 静
写真◉宇佐美博之、武部努龍、小宮山 花

独自の取り組みが光る〝新時代〟の山小屋経営

南アルプス最南端に位置する有人小屋「光岳小屋」。先代の管理人が引退したため、運営する静岡県の川根本町が公募し、手を挙げたのが現・管理人の小宮山花さんだ。当初営業を開始する予定だった2020年は新型コロナウイルスの影響でかなわず、ようやくコロナも落ち着いた昨年7月より晴れて営業開始。感染対策のため、いままでの経営とは一変し、定員は40名から14名に絞り、山小屋にはめずらしく、すべての部屋にはひとりにつき1台のベッドを備え付けている。コロナ禍を経て山小屋のスタンダードになりつつある宿泊予約制も実施。それぞれの山小屋がコロナ禍に則して経営方針を変えるなか、〝コロナスタート〞であった光岳小屋は当初より時代に則した「新時代の山小屋」といえるかもしれない。

カーテンで仕切れば個室になる。ベッドは川根本町の大工が作成した組み立て式で、小屋閉めとともに解体する。

ほかにも光岳小屋ならではの取り組みに目を見はる。そのひとつが自然を活かしたエネルギー自給だ。小屋の入口前に置かれた大型ソーラーパネルは「太陽熱温水器」といって、集めた雨水を太陽熱により温め、スタッフの温水シャワーや食器洗い用のお湯として活用できる。「いずれは自然エネルギーだけで小屋を運営していきたい」という小宮山さんの想いに賛同した太陽熱温水器メーカー「チリウヒーター」からの提供である。

ソーラーパネルも2枚設置し、太陽光発電システムを導入している。こちらは「太陽光発電所ネットワーク」からの提供で、夜間に発電機を切ってもいいように、厨房の照明や製氷機、スマートフォンの充電などは、この電力でまかなっているという。

小屋の入口に設置された「太陽熱温水器」。最大230ℓの雨水を貯湯タンクに溜められる。
太陽熱で調理できるソーラークッカー「かるぴか」も導入。

また、光岳小屋の経営の特徴は、建物に関する維持費は運営する川根本町がもつが、新たに導入したベッドなども含め営業にかかわるものはすべて管理人によりまかわなければならない。そのため営業前の運営資金が必要だったため、宿泊費の事前振込や、小宮山さんが管理人を務めるあいだならいつでも宿泊可能な「1泊宿泊券」など独自のユニークな制度も実施した。

「お米一合プロジェクト」も斬新だ。これは宿泊者が各自お米一合持参するというもので、昔の山小屋が行なっていたスタイルをなぞったもの。ヘリの荷揚げも年に1度のため荷揚げ量が限られ、スタッフ3人で運営していたため歩荷の荷揚げにも苦労する。ということで宿泊者を巻き込んだ、これもまたユニークな取り組みで話題を呼んでいた。

朝食は南三陸町のサンマのショウガ煮、餅麩の入った卵とじ、石巻産わかめの入った味噌汁、紀州南高梅のはちみつ漬けなど。主人が学生時代に仙台ですごしていたころに食べておいしかったものを提供しているそう。
夕食は手作りのマッサマンカレー。肉が食べられない宿泊者もいるため、エビで出汁を取り、肉はあとから加えている。

コロナで臨時休業の昨年に続き台風で素泊まり営業の今年

じつは昨年小屋開けして1カ月後、スタッフ全員が新型コロナウイルスに感染してしまい、山小屋にとってもっともかき入れどきのお盆休みを含めた2週間の休業を余儀なくされた。初めての山小屋経営に加えて〝コロナ〞というやっかいなウイルスに悩まされながらも後半戦は営業再開し、次年度に向けて挑戦したいことや課題が見えたと語っていた小宮山さん。

しかし、今年の小屋開けの準備を目前に控えたタイミングで、またもや災難が降りかかってきた。台風だ。6月2日に発生した台風2号の影響により、光岳小屋へと続く林道は崩落し、芝沢ゲート〜易老渡間はいまだ通行不可。7月の連休までには林道を管理する飯田市が巻き道を付けるという話が出ているが、定かではない。

これを受け、光岳小屋の今年の営業は急遽素泊まりのみに変更。理由は林道崩壊により急な宿泊予定のキャンセルなど、食糧のロスが発生してしまうことと、迂回路が付いたとしてもコースタイムが長くなり、リスクが上がってしまうことなどだ。今年に限っては手放しにたくさん来てくださいとは言いづらい状況のため、リスクヘッジできない登山者に向けて〝食事提供はしない〞という判断に至ったそうだ。

いっぽう、今期に実行する予定でいた「はじめてのおつかいプラン」はそのまま継続するという。キャベツと複数の野菜の選択肢のなかから2種類選び、宿泊時に持参するというもの。宿泊時の夕食の材料の一部とスタッフの健康維持に使われ、代わりに宿泊料金から2500円割引きする。夕食提供はなくなったが、やはり営業期間中下山がかなわないスタッフの健康維持の助けとなるようだ。

また、8月5日(土)には川根本町に拠点を置く「ブルーパーバックパックス」とのイベントも企画している。光岳小屋とコラボした「テカリダケ」モデルの展示受注会を山小屋で開催し、夜はトークイベントも行なう。小屋泊の空きはまだあるそうで、テント泊でも受注会には参加可能だ。

食堂のテラスからは天気が良ければイザルヶ岳や富士山が望める。夏のあいだは夕食後にバー営業も行ない、宿泊者の交流の場となっていた。

山小屋の立地環境も含めて毎年〝なにか〞が起きてしまうテカリ。一筋縄ではいかない小屋経営に奮闘しながらも明るい笑顔で新しいことに挑戦し続ける小宮山花さんと光岳小屋にエールを贈りたい。

管理人の小宮山花さん(左)と、昨年いっしょに小屋を支えてきた高橋一仁さん(右)。ほか井上知香さんの3人体制。今シーズンもこのメンバーで運営する。
静岡市のおでん屋さんが開発した、山で食べやすいように考えられた静岡おでんも販売している。

光岳小屋
営業期間:7月13日~ 11月5日
山小屋収容人数:18名
テント幕営数:10張
小屋泊料金:平日8,000円~ (※今年度は素泊まりのみ、要予約)
テント泊料金:2,000円/ 1人 (金・土・日曜のみ予約制)
TEL.0547-58-7077
https://www.chillnn.com/1863f95fe2d74

※この記事はPEAKS[2023年9月号 No.161]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。

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PROFILE

阿部静

PEAKS / 編集・ライター

阿部静

たっぷり歩くテント泊の縦走登山や雪山登山、クライミング、アイスクライミング、沢登り、テンカラ、バックカントリースキーなど、なんでもやりたい人。ライフワークは魚突きと山の湯探訪、狩猟採集にまつわる取材。

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