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おもひでのいちまい|旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺 #15

秋はいい。あくまで個人的な感想であるが、色彩に富み、ほどよく人の少ない静かで涼しいこの季節が好きである。写真を撮る以上、光を意識することは基本中の基本である。また高山帯での光線の変遷は不思議と下界でのものよりも鮮烈に脳裏に焼き付くように思える。今回はそれに付け加え、ある思い出に関わる話をしようと思う

編集◉PEAKS編集部
文・写真◉高橋広平

「おもひでのいちまい」

このときのことはおそらくいつまでも忘れないと思う。
まだライチョウの写真を撮り始めた最初期のころ、世の中には彼らのことをまとめた資料などはほとんど見当たらないような状況であった。現在のようにインターネットで検索すれば何かしらの情報が見つかるようなこともなく、ひとつひとつの情報は自らの足で集めるのが基本である。つまりは昔の刑事である。

夏からずっと見守っていた1羽のライチョウがいた。目元が艶やかで極めて美しいメスのライチョウである。彼女のことを撮した写真は数知れず、初期の代表作には何枚も含まれている。
この夏、彼女には数羽のヒナがいて生後1カ月まではすくすくと成長していたが……と、ここまで話せば察しのよい読者の方なら気づいたかもしれない。そう、彼女とは「こがねさん」のことである。こがねさんとその家族のエピソードは本連載の第4回「こがねさんと銀さん」にて追っていただけるとありがたい。

こがねさんと銀さん |旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺 #4

こがねさんと銀さん |旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺 #4

2023年04月24日

稜線にその年はじめての根雪が降ってすこし経ったこの日、夜も明けぬうちから寝床を這い出て彼女たちを探すために歩を進めていた
凍てついた地面に少し乗った新雪がスリッピーな状況を作り出しているため、おのずと足取りは慎重になる。ウエアの衣擦れと登山靴の皮の軋む音、まだ誰も目覚めぬ朝を待つ稜線にその音だけがわずかに響く。
彼女たちが居そうな場所を重点に調べてまわる。先日はこのあたりで餌草を食んでいた……と思いながら歩いていると、いた。
ハイマツの茂みのなかにうっすら浮かぶ周りと異なる流線形のフォルム。暗がりのなかでも隠しきれないその魅力的なBODYは、それを求める私のセンサーに見事に反応した。
そして気付けば、彼女を背にするように微かに陽の光が差し込み始めていた。
次第に輝きを増す陽射しは、文字通り彼女を「こがね色」に照らしていた。

今回は、彼女の名付けにもなった瞬間を撮した1枚「こがね」。
ハイマツにうっすらと乗る新雪に、昇る朝陽が乱反射し、あたりを黄金色に彩るなかにたたずむ彼女を撮したものである。日々、高山帯という過酷な環境に生きる彼女のバックボーンを考えるとただ美しいわけではないのだが、だからこそ際立つ美しさがあると私は思うのである。

今週のアザーカット

昨年、一度穴を開けてしまったのだが、このたび無事に発行にこぎつけた「雷鳥カレンダー」。全国展開している出版社からの発行となり、全国の書店・文具店などで購入が可能になりました。Amazonなどでも入手が可能ですので、ぜひお手に取っていただければ嬉しいです。写真は近所の書店さんに設けられた販売コーナーのようす。自分のカレンダーのコーナーがあるのは非常に幸せなことです。ありがたい。

▶過去の「旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺」一覧はこちら

 


 

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PROFILE

高橋広平

PEAKS / 雷鳥写真家・ライチョウ総合作家

高橋広平

1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。
Instagram : sundays_photo

高橋広平の記事一覧

1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。
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