ベトナム・カットバ島へクライミング旅|筆とまなざし#358
成瀬洋平
- 2024年01月17日
一度も聞いたことのない未知なる島へ。エキゾチックな旅の始まり。
ベトナム第4の都市ハイフォンの沖、ハロン湾には大小さまざまな367もの島が浮かんでいる。それらの群島はカットバ諸島と呼ばれ、カットバ島はその中で最も大きな島である。凪いだ海に石灰岩の岩島がポコポコとそそり立つ、一種独特の景観が広がっている。ベトナムでは有名な観光地であり、昨年ユネスコ世界自然遺産に登録された。
カットバ島はベトナムでもっとも有名な岩場らしい。内陸の岩場はもちろん、小島の岩壁にボートから取り付くディープウォーターソロのルートもあるという。一度も聞いたことのないこの島にクライミングに出かけることになったのは友人の誘いがきっかけだった。物価も安くそれほど費用がかからないという。昨年秋のイタリアへの旅で受けた経済的打撃から全く立ち直れていなかったが、チャンスはなかなかあるものではない。カットバ島がどんなところなのかわからないけれど、友人の話に乗っかってしまえと旅を決めたのだった。
ぼくにとっては初めての東南アジア。クライミングはもちろんだが、食や工芸などベトナムの文化に触れることも楽しみである。期間は移動も含めて9日間。出発前日に慌ててパッキングし、シートが薄っぺらくモニターもないLCCベトジェットエアの小さな飛行機に飛び乗った。
旅の諸々は友人がリサーチしてくれていた。まずはハノイ郊外のノイバイ空港からタクシーで小一時間のところにあるバスターミナルへ。タクシー代をふっかけられることも多いようだが、Grabというアプリを使えばその心配がないという。そこからバスに乗り継いでハイフォンに向かう。2時間ほどバスに揺られ、あたりが暗くなってきたころに突然バスを降ろされた。隣に停まっているハイエースほどの大きさの車に乗れという。なんだか訳がわからないけれど地図を見るとたしかにハイフォンの中心地に近づいている。歌声の聞こえるパーティー会場の前で降ろされ、タクシーを拾うと宿までは10分ほどで到着した。なんとも綱渡りのような移動だったが、初日の行程は無事終了。荷物を部屋に押し込んでから近くの屋台に出かけた。
湿度を帯びた空気が肌にまとわりつく。寒くはないがそれほど暖かくもない。屋台では大きな網の上で豚肉が焼かれていた。バラ肉にソーセージ、そして頭の肉がそのまま置かれている。適当に注文してビールで乾杯。香草の効いた豚肉にエキゾチックさを感じながら旅の始まりを祝った。
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