嵐の中で輝いて|旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺 #23
高橋広平
- 2024年02月12日
どうしよう。暖かい。暖かすぎる。今年になってから高山帯に入った感想がこれである。
もちろん体感温度はマイナス30℃以下にも達するので一般的には十分寒いのではあるが、私が踏み入れ始めたひと昔以上前と比べると確実に暖かく、そして降雪量が少なくなってきている。今回はまだ雪も多くちゃんと寒かったころの一枚を紹介していきたいと思うのだが、暖冬による問題点も上げていきたいと思う。3月下旬まで待たないと結論はでないのだが、諸々の事情に対して祈るばかりである。
編集◉PEAKS編集部
文・写真◉高橋広平
「嵐の中で輝いて」
冒頭で「諸々」と端折ったことだが、具体的には昨今の地球温暖化に伴うであろう「気温の上昇」「積雪の減少」などである。細かいことを言うと私の場合は温暖化というのは「バランスが崩れること」と認識している。暖かくなる地域もあれば寒くなる地域もあり、本文を執筆しているいまも関東一円に大雪警報が発令され、私の住んでいる地域でも国道などの主要幹線道路が計画閉鎖されるなどのイレギュラーが発生。おそらく気候変動の専門家でも昨今の全貌を把握している人は少ないのではと思っている。
さて、暖かいことと雪が少ないということの問題点を挙げていこう。
標高の高いところから順に話していくと、山での積雪が少なくなると暖かくなってからの湧水量が減るないし貯水量が減る。これは山小屋などの水場の渇水に直結することなので山岳で活動する関係者にとっては死活問題である。また下界に住む山を嗜まないタイプの人々にも夏場の水不足という形で襲いかかってくる。
次に積雪量が少ないことによって雪山シーズンの地形が昔と違ってくるという点。冬場でも山に入る人間にとっては雪が十分に降り積もっていればフラットに移動できるのだが、少ない場合は尾根筋が残ってしまい、登ったり降りたりと大変な労力が発生してしまう。また斜面ができるということは少なからず雪崩が生まれる可能性があるがゆえに危険である。さらに、暖かくなることによって日中に溶ける雪面が増える。このことによって夜間に氷の層が形成され、表層雪崩の条件が整い、雪山災害の頻度を上げてしまう。
また、下界界隈に話が移ってしまうのだが、本来雪の時期に雨が降ってしまうことによって昆虫の越冬にも問題が発生してしまっている。いくら日中が雨が降るほど暖かくても朝晩は冷え込む。昼間、雨で濡れてしまった蝶のサナギが夜間の冷えで凍ってしまい壊死するという事案が起きるのだ。とくに去年、蝶の数が明らかに少なかったのはおそらくこのことが原因である。これがどういう事かというと、食物連鎖の一端が崩れることを意味し、非常に多岐に渡っての問題が起きるだろう。何年か前に放送されたNHKの「昆虫ヤバイぜ!」という特番のなかで触れていたのだが、昆虫がいなくなる=人類を含めた生態系が滅ぶということなので事の深刻さがわかるだろう。
ここに挙げたものは私が実際に目の当たりにしてきたことしか書いていないので紛れもない真実である。私は環境活動家とかそういうのではないのでコレで何かを仕掛けようとかはないのだが、ただ、私の感じている危機感をエッセイを見てくれている人にも知ってもらいたくて発露させていただく。
さて数年前、まだ十分に寒く雪深かったころ。
新雪が降り積もった北斜面に私と彼はいた。腰まで……ところにより胸まである雪に埋れながら「そのとき」を伺っていた。彼を見つけたとき、最初は「太陽→私→彼」の順で並んでいたのだが、終始吹き荒れる地吹雪を見てピンときた。いまの状況が変わらなければ彼のうしろに太陽に照らされた地吹雪を落とし込めるのではと察し、彼を刺激しないようにゆっくりと深い雪をラッセルして回り込んだ。半分埋まりながら予定のポジションに到着、彼のほうを向くと想像どおりの構図が目に飛び込んできた。
今回の一枚は「嵐の中で輝いて」。風で舞い上がる雪質は、日中でもしっかり冷えているからこそ成り立つ条件である。また豊富な積雪もなければこの構図を目にすることは叶わないはずである。寒いのも雪が深いのも山を歩くには非常に大変なファクターではあるのだが、ライチョウを魅力的に撮るためには大事なことである。凍えながらヒリヒリする撮影をいつまでもしたいと願いつつ、昨今の環境の変化に心を痛めている今日このごろである。
今週のアザーカット
ある日のようす。朝っぱらから北アルプスの深部をライチョウの気配を追ってトラバースしていました。なかなかの急斜面で表面はクラスト。高さもそれなりにあり、眼下には岩稜帯が広がっていました。自分的にライチョウ探索においては既に定番の場所はあるのですが、この日のようにコツコツと探索範囲を広げていたりします。
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PROFILE
PEAKS / 雷鳥写真家・ライチョウ総合作家
高橋広平
1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。 Instagram : sundays_photo
1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。 Instagram : sundays_photo