換羽|旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺 #27
高橋広平
- 2024年04月08日
ライチョウの生活は我々同様、毎日毎年途切れることなく続いてい
編集◉PEAKS編集部
文・写真◉高橋広平
換羽
さて、4月になった。通年で山に棲まうライチョウさんたちもそろそろ衣替えを意識する時期である。もっともライチョウの換羽は生息地域の日照やホルモン分泌の関係で半ば自動的に進むので、本人たちの意思とは無関係に勝手に生え変わる。個体差があるのはそのホルモン分泌によるところと思われる。
ニホンライチョウは年に三度衣替えをする。北半球にその仲間が生息している彼らであるが換羽するものとそうでないものがいるうえ、換羽するものでもその多くは冬羽と夏羽の2パターンがほとんどである。つまり冬羽・秋羽・夏羽 (春羽ともいう) という3パターンでの衣替えというのはライチョウのなかでも珍しいということである。
さらにはそれぞれのパターンに移行する際は一気に生え変わるわけではなく徐々に変わるため、見る側としては中間柄も堪能することができるのである。
春のオスは縄張り争いにまつわる見張りの時間が多いため、岩場の色に近い黒をベースにした色合いになり、対してメスは卵を産みハイマツの茂みの中で過ごすほか、子育て時期は砂礫地にいることも多いためか地面に近い色の羽毛でその身を包んでいる。
私の認識だと、このメスの地面に近い色の羽毛と同様のものを下地としてオスも身に纏っていて、その上に岩に似た黒い羽毛を被っているという具合である。風に吹かれたり身震いしたときに見える羽毛のチラリズムでその様子を垣間見ることができ、幾重にもかさなる羽毛たちは微細かつ緻密な紋様を表す。
次に秋羽と定義されている状態は、夏羽を褪せた感じにした色合いの羽毛となる。
オスに関しては、初夏にメスによる子育てが始まったのちに隠遁生活に入るのだが、隠遁すなわち目立たず騒がずハイマツの茂みの中などで静かに過ごすスタイル。メスはしばらくのあいだ、夏羽のまま子育てを続けているのだが、オスは早々に色が抜けていく。更に9月に入りいくらか経つとオスメス共々同じような目立ちづらい秋羽の完成をみる。
秋羽の次は冬羽である。目とクチバシ、爪と尾羽とオスの過眼線部分を除けば純白のモフモフ悩殺羽毛塊である。よく白くて丸い鳥類の代表みたいな形でシマエナガが出張ってくるのだが、彼らは横から見たら全然白くないので「白くて丸い詐欺」だと私は思っている。もっともシマエナガ本人たちに罪はなく、それを広めた人間側に問題があるのだが、よくあるメディア戦略の結果であるためなんとも言い難い。あえてこの場で指摘したのは常日頃より私が思っている不満をちょっと発露させていただいたと思ってくれて構わない。つまりは愚痴である。……だって、悔しいんですもの。
少々脱線してしまったが、おおよそライチョウの換羽はこんな感じである。
それぞれの形態で羽毛の暖房性能も異なり、たとえば秋羽から冬羽に移行する際は足元の羽毛から増毛され、一目瞭然に大足になる。ちなみにこの毛量が爆発している秋羽後半の御御足がライチョウの足フェチとしては最も推しの状態である。
さて、今回の一枚であるが、ちょうどいまごろのオスの横顔の写真である。冬羽から夏羽への換羽は首・頭まわりから始まる。純白の羽毛の中からコントラストの効いた夏羽が現れてきていて、羽毛のきめ細やかさを堪能することができる。どの季節のライチョウが好きかは甲乙つけ難く悩ましいのだが、換羽途中のマーブル調の柄も大変美しく好きである。
今週のアザーカット
写真展のおしらせでございます。来たるGWの4月27日からおよ
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PROFILE
PEAKS / 雷鳥写真家・ライチョウ総合作家
高橋広平
1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。 Instagram : sundays_photo
1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。 Instagram : sundays_photo