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高橋流中二病級特殊能力の行使とその成果|旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺 #31

ライチョウと関わるうちに周りの動植物にも関心をもった結果、山にいるとき以外でも生きものに接したいという意向から自宅の庭をバタフライガーデンにしているのだが、暖かくなった今日もミカン科の植物にアゲハ蝶が飛来し卵を産んでいる。ライチョウを追うということは彼らに関わる生態系すべてを追うということと同義である。すべてはいかにライチョウを魅力的に表現するか、その一点である

編集◉PEAKS編集部
文・写真◉高橋広平

高橋流中二病級特殊能力の行使とその成果

今回はニッチなライチョウという生きものの話題のなかでも非常にデリケートで極めてニッチな事柄に触れていこうと思う。

遡ること9年前、ある不可侵の現場の撮影をしたいと思い、とある鳥類学者の方に電話をしてみた。さらにさかのぼること3カ月、冬の生息域でその学者さんにライチョウ捜索の手伝いをしたこともあり、わりとすんなり話に応じてくれた。

ライチョウにおける一般的には不可侵の現場、あくまで私の倫理感が基準ではあるが、それはつまり抱卵営巣の場面である。当時の私は、まだその抱卵巣の探しかたというものを知らなかったこともあり、ならばそれを知っている鳥類学者に聞くのが一番手っ取り早いと思い立ち、連絡をしてみたのである。もちろん高山に生息している極めて特殊な生きものである都合上、その生態を知っている人間というのは限られる。やみくもに生息域を探索して植生を荒らすわけにはいかないし、そもそも長野県自然保護レンジャーにも加盟している自身が蛮行をすることも許されないし、そういう曲がったことは私がもっとも嫌う行為である。

ならば、植生を傷付けず、ライチョウにインパクトを与えず、かつ合法的に禁断の領域へ足を踏み入れるためにはどうすればよいか。導き出した答えは、環境省のお墨付きのもとライチョウの保護調査に協力し、その活動のなかで特別に撮影をさせていただくという手段であった。同行を許可してくださったのは鳥類学者の方ならご存知であろうあの方である。スケジュールや実際の行動などのすり合わせをしてあれよあれよというまに決行当日、私とその学者さんとのふたりきりのライチョウ探索がはじまった。

残雪深い道中を進み、探索域の手前約1時間半の場所に立つ山小屋に到着。アタック装備に仕様変更し、ライチョウが居るであろう山頂付近へ突き進む。途中にはライチョウの名を冠した地名もあるのだが、近年ではこのポイントで彼らを見ることはほとんどないらしい。イネ科植物の氾濫を始め、温暖化の影響を受け始めた生息域はジワジワとライチョウが住むには厳しい環境になってきてしまっている。

探査ポイントである山頂付近はまだ北側に残雪がベッタリ乗っていた。例年であればこの付近にひとつふたつの縄張りがあり、場合によってはオス同士の攻防も見られる。この日はドピーカンということもありライチョウ的に表に出てくるには不向きな天候である。それでも探さないことには見つからないので、ふたりで手分けをして手がかりを探し始める。

雪解けから露出した植生、フンや食痕などふたりともおおよそ同様の探索を繰り広げる。言うなればふたりの手練れの刑事が現場証拠を本気で探しているのといっしょである。それでもなかなか見つからないなか、雰囲気でこのあたりが怪しいのではとなったポイントを重点的に捜索し始めた。近くではイワヒバリが残雪の上にいる子虫をついばみにやってきていた。視界の端では招かれざる存在のひとつであるカラスが飛んでいる。もうこのころから高山帯でのカラスの進出は始まっていた。そんなこんなだがライチョウ探索は続く。

カラスの鳴き声とイワヒバリたちのさえずりだけが聞こえる無風快晴の強い日差しの残雪の上で、ふと私のなかのセンサーが微かな何かを感じ取った。

思い立ち、私は目を閉じた。自身の聴覚を最大まで研ぎ澄ますための所作である。

シャーベットのような残雪の上を動く気配が遠くにひとつ。この場にいるのは人間がふたりとカラスとイワヒバリ。耳が捉えたその「足音」は両の足を揃えて飛び跳ねるカラスやイワヒバリのものではなかった。音はその重さや歩き方を教えてくれる。その微かな足音は我々の2足歩行同様、左右の足を交互に出しているものであり、人間のそれとは雲泥の差のかすかな質量のものであった。音源から方向と距離を割り出し、慎重に様子を探る……。そして、植生際の残雪の上を歩く1羽のオスのライチョウを捕捉した。

その後、合流した学者さんとしばらく彼を観察、調査する。不意に学者さんから聞かれる。「どうやって、このライチョウを見つけたんですか?」ニヤリと私は答えた。「残雪の上を歩く彼の足音を聞き分けたんですよ」その回答に学者さんは驚いたように嘆息を漏らした。

そのようなやりとりを挟みつつ、その後現れたつがいのメスライチョウを捕捉。方法は伏せるが、無事に抱卵巣を発見するに至る。同様に撮影方法であるが、こちらも保護の観点上伏せるが、母鳥が脅威を感じないようにふたりの専門家による適切な方法で撮影した。

今回の一枚はこの際に撮影した、私が初めてその目にしたライチョウの抱卵巣の写真。通常5〜7卵での抱卵が多いライチョウであるが、8卵というのは珍しいケースである。学者さんも「これは珍しいですよ!」と高揚していらっしゃった。

このときの経験を礎に、私も単独で彼らの抱卵巣を探す術を身につけることができた。もちろんむやみやたらに探してよいものではないので、事実上専門家のみが許される行為である。ちなみに公でのライチョウ調査でも同様の探索方法が用いられるのだが、大勢での人海戦術が基本であり、単独での発見をやってのけるのは普通はない。

 

今週のアザーカット

「残雪の上を歩くライチョウの足音を聞き分ける」というやや中二病感漂う所業をやってのける私なんですが、この残雪期の雪質というのはシャーベットみたいなものなので意外と音はするものです。ご覧のような感じでライチョウが歩く姿を想像してみてください。どうですか、聞こえてきませんか?

▶過去の「旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺」一覧はこちら

 


 

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PROFILE

高橋広平

PEAKS / 雷鳥写真家・ライチョウ総合作家

高橋広平

1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。
Instagram : sundays_photo

高橋広平の記事一覧

1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。
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