今回のエッセイを書かんとしていたこの日の朝、唐突にFMラジオの投稿コーナーにて私の写真集を見て感涙したというリスナーさんのコメントが上がった。不意のことだったので驚いたが素直に嬉しく思う。私の写真集は2017年後半に発行したものであるが、当時まだ最新の情報であった腸内細菌にも触れるなど、この一冊でライチョウの丸一年の生活史を網羅できる内容となっているほか、解説文そのものがエッセイとなっている。視聴者さんがどのあたりに感動していただいたかは分からないが、これからもだれかの心を動かす作品を生み出せるように精進していきたいと思う。
編集◉PEAKS編集部
文・写真◉高橋広平
研鑚の日々
長いこと同一の被写体を撮影し続けていると、どうしてもぶつかる壁がある。詰まるところ過去の自分の作品の存在である。代表作である「DAIFUKU」をはじめ、現在進められている信濃毎日新聞社主催のクラウドファンディングのメインビジュアルで使用している「山と」など、「高橋広平が撮影した写真」だとひと目でわかる作品たちを有している。
幸い、幾度も各種媒体で使用、採用されるなど代表作の名に恥じない活躍をしてくれているのだが、あまりに使用頻度が高いため、作者的に「ほかの作品も……」という思いが付き纏う。撮影したすべての作品たちはすなわち自分の子どもみたいなものなので、評価がかたよるのは複雑なのである。いわゆるジレンマというものか。
私が撮影するライチョウの写真は彼らの生態写真の側面も強い。先般のヒナの食糞による腸内細菌継承しかり、厳冬期の写真などは長年の独自調査が礎となって撮影したもので、学術的に希少な場面を写したものも少なくない。また生態写真という性質上、どうしても絵的にパッとしない瞬間のほうが多くなる。
「DAIFUKU」や「山と」など、インパクトの強さやアングルなどで評価をいただいているものも含め、私が表に出している作品はなにかしらのメッセージや情報を内包させていることがほとんどで、見た目の良さだけを狙った作品はじつのところ少ないのだ。
ただ、ライチョウの普及啓発を考えた場合、見栄えする、人気のアングルの作品が必要なのも事実である。写真という媒体は、わかりやすく魅力的なものほど普及の導入には向いているからだ。このような理由から、同様のシーンでもより良い1枚を求めて彼らに会いに行ってはシャッターを切り、地道に更新しているのである。
ちなみに、こうしたアップデートの成果は各地で開催している私の写真展「四季を纏う神の鳥」としてたまに日の目を見ることになる。
今回の一枚は代表作の一角である「山と」と同様のコンセプトを目指して撮影したものである。裏話をすると、写真に写るライチョウはメスの子連れなのだが、子どもたちはこの画面の向こう側に行ってしまい、結果として孤高の鋭峰をバックに、1羽のライチョウが立つという構図になっている。本来ならばいっしょに子どもたちも写したかった場面なのだが、画角やタイミングなど自由気ままな野生動物を相手にしている都合上、どうしても思い通りにならないことは多い。
厳密にはこの写真は私のなかでは「惜しい一枚」なのだが、この少し自分にとって悔しい一瞬を取り返すために挑戦を繰り返すのだ。そうしたものの先に、ひとも、私自身も感動できる作品が生まれるのではと思っている。
今週のアザーカット
信濃毎日新聞社さんのクラウドファンディング企画「ミライチョウプロジェクト」。期間中には新聞本紙にて度々関連の記事が掲載される予定なのですが、私も8月23日朝刊にて大々的に載せていただきました。長野県に住んでいる人間にとって信濃毎日新聞の影響力は絶大なので、同紙で取り上げていただくのは個人で普及啓発活動をしている身としては大変助かります。引き続き、ライチョウ保護のためにも同プロジェクトへ応援いただければ幸いです。
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