
天空の楽園のような別天地、美ヶ原|山本晃市の温泉をめぐる日帰り山行記 Vol.10

山本 晃市
- 2025年01月16日
INDEX
温泉大国ニッポン、名岳峰の周辺に名湯あり!
下山後に直行したい“山直温泉”を紹介している小誌の連載、「下山後は湯ったりと」。『PEAKS No.170』では、あまりの心地よさゆえに、湯上がりは神様でさえ忘れ物をしてしまうという「扉天然温泉『桧の湯』」を楽しみました。
今回登ったのは、八ヶ岳中信高原国定公園に広がる、美ヶ原。どこまでも歩きたくなるような、のんびりと穏やかなこのフィールドで、「歩行禅」に取り組みます。
山直温泉の記事・情報は
『PEAKS 3月号(No.170)』の
「下山後は湯ったりと」のコーナーをご覧ください。
編集◉PEAKS編集部
文・写真◉山本晃市(DO Mt.BOOK)
なだらかな癒しの高原で「歩行禅」の世界へ
「歩行禅」という行をご存じだろうか。「歩行禅」とは、大峰千日回峰行者である大阿闍梨(だいあじゃり)、塩沼亮潤上人が考案し提唱する「歩きながらする瞑想」のこと。正確にはウォーキングと瞑想を組み合わせたもので、塩沼亮淳上人曰く、気軽に容易に行なうことのできる「心のエクササイズ」だ。
「歩行禅」の効果や実践するうえでのコツや要点は、塩沼亮淳上人の著書『歩くだけで不調が消える 歩行禅のすすめ』を読んでいただきたいので、やり方の基本のみ紹介したい。
ステップ1【懺悔の行】歩きながら「ごめんなさい」を唱える
ステップ2【感謝の行】歩きながら「ありがとう」を唱える
ステップ3【座禅の行】瞑想して、いまの自分と向き合う
(『歩くだけで不調が消える 歩行禅のすすめ』より)
「歩行禅」とは、上記3つのステップを行なうのみ。連続してできない場合は、各ステップの間隔をあけてもよく、時間(長さ)も場所も問わない。

山で行なうなら、例えば、スタート地点から山頂(折り返し地点)までを「ステップ1」、山頂からゴール(スタート地点)までを「ステップ2」、下山後の山直温泉で「ステップ3」といった具合。山頂までの距離が長い場合は、「ステップ1、2」の行程を短くするなどアレンジは自由だ。
そもそも海辺でのネイチャーウォークから始まったという「歩行禅」、山も格好の実践フィールド。とはいえ、テクニカルなルートは難があるので、できるだけ歩きやすいコースを選びたい。ということで今回は、日本百名山のなかでも「歩行禅」に最適と思われるフィールド、美ヶ原へと向かった。
美ヶ原は、八ヶ岳中信(ちゅうしん)高原国定公園の北西部に位置し、標高2,000m前後の台地に広がる天空の楽園のような別天地。なだらかな大草原に歩きやすいトレイルが敷かれ、登山口が複数あるのでルート・バリエーションも豊富だ。そんな美ヶ原高原で、今回は最高標高地点を踏み、かつできるだけ平坦な水平志向のコースを選んだ。
スタート地点は、美ヶ原高原長和町営無料駐車場。ここから山本小屋、美しの塔、塩くれ場を経て、百曲がり園地へ。ここまではほぼ平坦な道のりが続く。百曲がり園地から先は多少のアップダウンがあるが、大きな勾配はない。景観の変化を楽しみながら、美ヶ原最高峰、王ヶ頭(おうがとう/標高2,034m)を目指す。以上が往路。
復路は、王ヶ頭から塩くれ場へ直接向かうルートを使って美ヶ原高原長和町営無料駐車場への道へと戻る。この区間も穏やかな道が続き、快適な散策を楽しめる。
上記のルートを頭に入れ、美ヶ原での「歩行禅」山行に出発した。

ただひたすら懺悔の思いを繰り返す
ランチ用のおにぎりと飲料水、必要な装備を確認し、さっそく美ヶ原高原長和町営無料駐車場を出発する。「歩行禅」を意識するだけで、すでにいつもの山行と気分が違う。背筋を伸ばし、一歩目を踏み出す。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・・・」
心のなかで唱えながら、これまでの過ちや反省すべきことを思い起こす。幼少期に遡り、そこから現在までの記憶をたどる。
「○○くん、ごめんなさい。○○さん、ごめんなさい・・・・・・」
おぼろげながら思ってはいたものの、具体的に考えることがほとんどなかった数々の「ごめんなさい」が、心のなかでどんどん具現化されていく。
「あ~あのことも、ごめんなさい。そのこともごめんなさい・・・・・・」
懺悔すべきことのなんと多いこと・・・・・・。そう思いつつ歩を進め、「ごめんなさい」を繰り返す。
同時に途上の景観に心惹かれる自分がいるが、再度集中。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・・・」
とりこぼしが多々あるだろうが、思いつく限りの「ごめんなさい」を唱え続けた。と、不思議と「ごめんなさい」の相手に感謝の思いが湧いてきた。
「あんなこと、こんなことをしてしまったけれど、それもみなさんに貴重な経験をさせていただいた……」
お許しいただいたわけではないのだが、心が少し軽くなったような思い。心のデトックスを感じずにはいられなかった。
スタート地点から山頂までの「ステップ1」は、懺悔の行。ところがいつしか、「ごめんなさい」のあとに「ありがとうございます」と唱えていた。
さて、今回は「歩行禅」をテーマに歩いているので、往路復路ともランドマーク的なスポットを写真とともに紹介したい。










果てしなく拡がる、感謝の思い
「ごめんなさい」を唱え続け、美ヶ原高原の最高標高地点となる王ヶ頭に到着する。多少なりとも軽くなった(ような気がする)心と体に、おにぎりでエネルギー充電。山頂からの景観も楽しみにしていたが、この日はあいにくの曇り空。北アルプスや中央アルプスはもちろん、南アルプスや富士山までをも見渡せる大パノラマの景観はおあずけだったが、「歩行禅」に集中するにはむしろグッドコンディション。そう思い、「ステップ2」となる復路を歩き始めた。

「ありがとう、ありがとう、ありがとう・・・・・・」
懺悔の行と同様、幼少期から現在までの「ありがとう」の経験を感謝の思いとともにひとつずつ思い起こしていく。
友人、知人、関係各位、親類縁者、名前すら知らない方・・・・・・、多くの人の顔やしていただいたことが心のなかに浮かび上がり、改めてお礼の思いをお伝えする。
「あ~なんてありがたい。多くの人々に支えられて生かされている・・・・・・」
そんな思いが積もっていく。
周囲を見渡すと、のんびりと牛が草を食んでいる。大地にゴロンと寝そべっている牛もいる。空を見上げれば、鳥が羽を広げ流れるように宙を舞っている。草原のそこかしこには、可憐な花がけなげに咲いている。花鳥風月、山川草木、一切衆生、森羅万象・・・・・・、いつしかあらゆるすべてのものに感謝の思いが湧いてきた。
自分以外の他があることで自分が存在している。己のしてきたことに懺悔感謝し、すべての他に感謝する。感謝すること、そのこと自体ありがたい。自他一如、梵我一如、忘己利他、照一隅・・・・・・。利他行の尊さまでをも改めて感じ、果てしなく拡がる感謝の念とともに、スタート地点に戻った。「歩行禅」、ありがとうございました。


「ステップ3」とおまけの余談
無事、「歩行禅」山行を終え、いつものように温泉へ直行する。
座禅の行「ステップ3」は、今回の山直温泉、扉天然温泉「桧の湯」で試みた。その模様は、畏れながら『PEAKS No.170』にてご笑覧ください。
最後に余談ではあるが、「歩行禅」の開始時と終了時、より集中するためにいつも唱えている文言を付記しておきたい。スイッチのオンオフのようなもので、「お願いします」「ありがとうございました」など、なんでもいいと思う。あくまでも個人的なものなので、ご参考まで。
ステップ1:【懺悔の行】を行なう前に唱える「懺悔文(さんげもん)」
我昔所造諸悪業(がしゃくしょぞうしょあくごう)
皆由無始貪瞋痴(かいゆうむしとんじんち)
従身語意之所生(じゅうしんごいししょしょう)
一切我今皆懺悔(いっさいがこんかいさんげ)
ステップ2:【感謝の行】を終えたときに唱える「法華成仏偈(ほっけじょうぶつげ)」
願似此功徳(がんにしくどく)
普及於一切(ふぎゅうおいっさい)
我等与衆生(がとうよしゅじょう)
皆共成仏道(かいぐじょうぶつどう)
最後まで拙文をお読みいただき、ありがとうございます。
みなさまのご多幸をお祈り申し上げます。
2025年、年の初めに。
多謝
拝
山行&温泉data
コースデータ 美ヶ原(王ヶ頭)
コース:美ヶ原高原長和町営無料駐車場~山本小屋~美しの塔~美ヶ原牧場~塩くれ場~百曲り園地~烏帽子岩~王ヶ頭~塩くれ場周辺~美しの塔~山本小屋~美ヶ原高原長和町営無料駐車場
コースタイム:約2~3時間
標高:2,034m
距離:約7.5km
下山後のおすすめの温泉 長野県/扉天然温泉「桧の湯」

- 扉天然温泉「桧の湯」
長野県松本市入山辺8967-4-28
TEL.0263-31-2025
入浴時間:10:00~19:00(最終受付18:30)、12~2月は10:00~18:30(最終受付18:30)
定休日:12月31日~1月2日
入浴料(日帰り入浴1回券):大人\400 子ども\200
泉質:アルカリ性単純温泉
アクセス:美ヶ原高原長和町営無料駐車場より車で約30分
山直温泉の記事・情報は
『PEAKS 1月号(No.170)』の
「下山後は湯ったりと」のコーナーをご覧ください。
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PROFILE

PEAKS / 編集者・ライター
山本 晃市
山や自然、旅の専門出版社勤務、リバーガイド業などを経て、現在、フリーライター・エディター。アドベンチャースポーツやトレイルランニングに関わる雑誌・書籍に長らく関わってきたが、現在は一転。山頂をめざす“垂直志向”よりも、バスやロープウェイを使って標高を稼ぎ、山周辺の旅情も味わう“水平志向”の山行を楽しんでいる。頂上よりも超常現象(!?)、温泉&地元食酒に癒されるのんびり旅を好む。軽自動車にキャンプ道具を積み込み、高速道路を一切使わない日本全国“下道旅”を継続中。
山や自然、旅の専門出版社勤務、リバーガイド業などを経て、現在、フリーライター・エディター。アドベンチャースポーツやトレイルランニングに関わる雑誌・書籍に長らく関わってきたが、現在は一転。山頂をめざす“垂直志向”よりも、バスやロープウェイを使って標高を稼ぎ、山周辺の旅情も味わう“水平志向”の山行を楽しんでいる。頂上よりも超常現象(!?)、温泉&地元食酒に癒されるのんびり旅を好む。軽自動車にキャンプ道具を積み込み、高速道路を一切使わない日本全国“下道旅”を継続中。