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これからも登り続けるために、最後の決断 ー最終回ー【日本山岳会ヒマラヤキャンプ登山隊2023撮影記】♯10

最終日まで使う日程で組まれたサミットプッシュ。時間とそれぞれの想いとの葛藤のなか、シャルプーⅥの登頂は叶うのか。

編集◉PEAKS
文・写真◉石川貴大

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遠征の終わりが迫る最後のサミットプッシュ 【日本山岳会ヒマラヤキャンプ登山隊2023撮影記】♯09

遠征の終わりが迫る最後のサミットプッシュ 【日本山岳会ヒマラヤキャンプ登山隊2023撮影記】♯09

2024年12月19日

氷河の丘に登った先で

「ああ、時間が足りない……」

きっと3人ともそう感じていたのではないだろうか。丘の登りはモナカ雪のラッセルだった。ときおり、巨大なスノーブリッジを越えながらラッセルを続ける。バックリと開いたクレバスに掛かるその橋に、頼むから落ちないでくれと祈りながら進んでいった。

丘をほぼほぼ登りきるところまでくると埋没しかけているクレバスの端に出た。金子君が対岸から見たときに気にかけていた部分だ。繋がっていないかもしれないという予想は当たってしまったのだ。回り込もうとすると、スカスカの雪の心もとない斜面を横切らなければならず、傾斜もそれなりにあって雪崩のリスクも高い。ここには行けない。そうなると、埋没したクレバスを渡り、その先の反り上がった垂直の雪壁を2mほど登る必要があった。「ここでクライミングか……」私は内心そう思っていた。すでにチーム全体の体力が削られていること、そして大幅に時間が押していること、そんななかで時間のかかるクライミングはいい知らせではなかった。

▲最後の雪壁。

その先へ進むべきか

この時点で、「帰ろう」と口にできたかもしれないが、このときはだれもその言葉を言うことはなかった。ただ、いつもメンバーの意見を尊重して一歩引いてくれるリーダーの金子君が「できることなら先に進みたい」という言葉を発した。リーダーとなりメンバーを募るところからスタートし、この山にかける想いが人一倍強いのは金子君なんだよな、と改めて感じさせられた。そして、メンバーとしてここに至るがんばりを見てきたからこそ、その意見を押しのけることはできなかった。

「登ってみるか……」

石川がアックスを持って登っていく。クレバスの先にたどり着き、雪壁のじゃまな雪を落とし始める。何度も何度もアックスを振りながら雪を削っていく。そんななかで山頂の方向をちらっと見た。

「ああ、やはりまだ遠い」

最終日まで使う予定で組まれた最後のサミットプッシュ。途中でビバークをする日数は用意されていない。すでに12時間近く経過しているが、ここからさらに15時間ぐらい歩き続ければ、山頂を踏んでファイナルキャンプまで戻れるかもしれない。ただ、それは帰るということをどれだけ意識できていることなのだろうか。

ひと振り、ひと振り、頭のなかで考えをめぐらせる。この雪壁を越えたらきっと先に進みたくなってしまうだろう。そこから先は、文字どおり命懸けになってしまうかもしれない。戻るなら、いましかない。私は手を止めて下にいるふたりに伝えた。「登れない」と。技術的には登れた。でも、行けなかった。「登れない=敗退決定」それを理解したうえでその言葉を使った。

最後の道として残されていたクレバスを越えていくルートを断念し、事実上の「敗退」が決まった。

▲タナプーから見たシャルプーⅥ峰。

ちゃんと帰る、これからも登り続けるために

ヒマラヤは、この場所に至るまでに費やす時間が本当に長い。ある日思いついて翌日挑めるような場所でもない。次また来られるかだってわからない。山は逃げないとはいうけれど、何回も簡単に行ける場所ではない。それがヒマラヤだ。だから「さあ、帰ろう!」なんて簡単に来た道を引き返せるものでもない。敗退が決まり、みんなそれぞれに足りなかった部分を実感していた。「悔しい」。それは心の内にも外にも溢れ出た。もう帰るしか選択肢がないということが現実として押し寄せてくる。「ちゃんと帰ろう」、そう言い聞かせて自分たちがつけてきたトレースをたどっていった。

無事にファイナルキャンプにたどり着くと崩れ落ちるように眠りに落ちた。翌日、全てを撤収してベースキャンプに戻り、私たちの登山は終わった。結果として、私たちは敗退を選んだ。帰国後もその判断が良かったのかしばらく迷う時期もあった。でも、それがちゃんと3人そろって帰れる唯一の選択肢だったんじゃないかなといまは思う。終わってからはどうとでも言えてしまうことではある。でも、やっぱり3人無事に帰って来れたのだから、それはきっと正解だ。うまくいったこと、うまくいかなったこと、全部ひっくるめて私たちが思い描いた登山なのだと思う。そして、私たちはいま、ふたたびその未踏峰の頂きを目指している。あの日届かなかった頂きに3人で立つために。

▲最高到達地点6,000mにて。
▲ファイナルキャンプにて。

 

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PROFILE

石川貴大

PEAKS / フォトグラファー・登山ガイド

石川貴大

日本山岳ガイド協会認定ステージⅡの登山ガイド。山岳撮影や山岳歩荷、リバーガイドなど多方面で活動。プライベートではクライミングを中心に一年を通して山を楽しんでいる。

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