
攻撃性はないのに、見た目が重装兵「ハリブキ」|植物ライター・成清 陽のヤマノハナ手帖 #44

成清 陽
- 2025年03月13日
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登山&撮影をライフワークとする花ライターがお送りする、高山植物の偏愛記。静かに、しかしアツ~く、お花をご紹介します!
今年も来ました、花粉シーズン。どの山に行くにも目がカユイ、帰宅後ももれなく鼻ズルズル。スギヒノキを植えまくった人災は、この時期の登山者を減らしています(※筆者予測)。いっぽうで楽しみになる、山菜シーズン。山菜の王様・タラの芽、その前はフキノトウ、それにツクシだ!と、里山がにぎやかに。しかし、亜高山の森にも、ヘンテコなやつが……。今回はタラの芽のご親戚となる、この方に登場いただきましょう!
ウコギ一族のはぐれキャラ?
■Data
ハリブキ(ウコギ科)
一般的な花期:6~7月
おもな生育場所:亜高山帯の林床
高山に残雪きらめく、この季節。いっぽう、里は山菜が芽吹くとあって、おおわらわ。野草好きなおっちゃん・おばちゃんは目の色変わり、あるいは競合しそうな同類に敵意を向け、スーパーに並ぶ重曹が、アク抜き需要で品薄に(※筆者独自の世界観です)。ただ、亜高山の森となると、事情が少々違いまして。タラの芽に代表されるウコギ一家でありながら、あまり山菜扱いされないコがいるんです。それが……。
凶悪、キモチワルイ、もどき……
こちら、「ハリブキ」さんです!いわずもがな、漢字で書くと針蕗。そして、この植物の評判は、「凶暴な植物」、「なんか気持ち悪いヤツ」、「タラの芽もどき」と、悪名高いことこのうえなし。さらに、海外に分布するアメリカハリブキとなると、「Devil’s Club」(=悪魔の杖)と、踏んだり蹴ったり。とにかくトゲの密度が高く、全身細いくて長いトゲだらけ。花茎までもトゲに覆われるヘビーアーマーが、ハイカーたちの危機感を煽り、ドン引きされてしまうようです。
嫌われたいワケじゃないんです!
一応代弁しておきますと、ハリブキさんは嫌なヤツではござんせん。山菜やキノコ採りで競合相手にキビシイ視線を向ける、おっちゃんおばちゃんほどの敵意もございません!葉裏まで彼らが武装するのは、シカといった動物に向けた、「食うな!!」というサインを示すため。そして、独自説ですが葉に残る食痕が少ないので、昆虫の食害も防いでいるようです。なお、トゲだらけということは、アザミのように、意外とおいしいのでは……とワタシは思ってしまうんですけどね!!
鳥さんは大歓迎ですぅ~
重装兵の気が少しだけ緩むのは、夏。開花が終わると、雌株には赤い実がたくさんつきます。これ、鳥さんたちに運んでもらおうとしているのでしょうが……。「そんなアブネーところ、だれが留まるんだ!」って思いません?しかし、そこは巧妙なハリブキさん。花茎につくトゲは意外と短く、柔らかめ。鳥さん限定、出血大サービス(?)しているようです。ただ、意外とハリブキが増えないところをみると、人気はない……のかな!?
秋だけ一族らしいお姿に☆
かなりハリブキさんを弁護してきた今回ですが、最初に申し上げた「ウコギ一族のはぐれキャラ」というフレーズ。じつは秋には、“らしさ”も垣間見せます。それは、タラノキやタカノツメといった一族同様、黃葉するコト!やや異質な見た目ながら、歩調を合わせるべきところは合わせられる、デキル子なんです。……ところで今回、批判も皮肉も書かなかったのは、なぜ?それはですね、筆者ご贔屓だから。醜いアヒルの子がかわいくて、この連載を始めた当初から、紹介したくてしたくて、仕方なかったからなのでした~!!
さてさて、今回ご紹介してきた、ハリブキ。いかがでしたでしょうか?尾瀬沼周辺のほか、平湯温泉、八ヶ岳の林道などさまざまなところに生育していますが、意外と知名度がないんですよね。でも、一度でも見つけたら、忘れられないでしょ!?そんな彼らを見つけたら、ハイカー仲間に「これ、悪魔の杖っていうんだよ!」と教えてあげて。きっと山でのひとときが、盛り上がることでしょう~!
それでは、また。
みなさまのココロに、すてきな花が咲き誇りますように。
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