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山伏・ふーちゃん妙義へ|低山トラベラー、偏愛ハイカーに会いに行く

低山トラベラーの大内征さんが山好きさんと山を歩く、連載「偏愛ハイカーに会いに行く」。山の愛し方は人それぞれ、とはいうけれど。十人十色の偏愛ワールドをのぞいてみれば、これからの山の愛し方とその先の未来が見えてくる、かもね。

今回の偏愛さん

「山伏」片山文恵さん

妙義山の山伏。2023年に奈良県の吉野山から妙義山へ妙義修験の再興を夢見て移り住む。お山はコケ、シダ、地衣類、岩石などを愛でながら歩くのが好き。熱中しすぎると体を壊しがちなので「何事もほどほどに」が座右の銘。好きな食べ物はチャーハン。胃腸が弱いのが悩み。

日本古来の山岳信仰、その魅力を伝えたい!吉野のゲストハウスのおかみが、妙義山の山伏になったいきさつ

▲5人ほどを連れて、妙義山に登ったときの写真。鎖だらけ、急登だらけの岩山に大変そうではあったが、参加者全員が無事に下山することができて安心。

群馬県の富岡市にある妙義山は、西上州を代表する霊山の一座だ。東京から上信越自動車道で軽井沢や浅間連峰方面に向かう道すがら目に入る、あのギザギザとした異様な岩峰のインパクトはものすごい。一度でもその独特な威容を見れば、きっと忘れることはできないだろう。紅葉の艶やかさたるや関東随一で、黒い岩肌に白銀の雪をまとった荘厳な美しさは国内有数。唯一無二の存在感を放っている名峰だと思う。

僕は数えきれないほどの山岳霊峰を日本各地に訪ねているけれど、じつのところ妙義山については主峰の相馬岳に登ったことがあるくらいで、他人に深く語れるほどこの山を歩き込んではいない。僕にとって山は人と同様にご縁がすべてだから、名高い山だからといって無暗に足をふみ入れることはないし、ピークをコレクションするような価値観ももち合わせてはいない。これまで深掘りするタイミングがなかった山のひとつが、まさしくこの妙義山なのだ。

▲行者がいなくなって半世紀ほど経った護摩堂で、護摩を焚いたときの一幕。地域の方が大切に守っていたお堂を、お堂として復活させることができた日

ところが数年前、山麓にある自然体験施設を友人が県から買い取ったことで、折に触れて足を運ぶようになった。現在は「妙義自然の家プラス」という名称で自然体験やアートのワークショップを企画したり、地域イベントの会場として運営したりと、家族と地元の仲間たちとで日々奮闘している。で、ここに身を寄せて妙義の山岳信仰の再発見に勤しんでいる、奈良は吉野の山伏がいるのでぜひ知ってほしい。それが今回の偏愛ハイカー、ふーちゃんこと片山文恵さんだ。

疲れ果てたテコンドーの学生チャンピオンを再生した東北ひとり旅と宿、なんでもないけど幸せな体験

ふーちゃんと実際に会ってみると、あれれ、山伏ってこんな感じなの?と、ヤマブシという語感のもつ剛と表情や言動からにじむ柔のギャップに魅了される。小柄だけど動作が大きくて、だけど山に入れば所作は軽やかでもの静か。僕自身、初めてふーちゃんに会ったときに、計り知れない人としてのキャパシティに興味がわいた。だからといって、あらたまって生い立ちから話を聞くのもなんだか気恥ずかしい。そんなときこそ、この連載の取材。ふふふ、役得やくとく。

▲山に行くと石を見てしまう。かつての山伏たちは、山のなかで水脈も鉱脈も読んでいたはず。だから私も、もっと山を知りたいと思うのだろう。これは恐山の石。

感じ入ったのは、山伏ふーちゃんに至る以前の話だった。母方の祖父が神職だったことが影響しているのか、目に見えない存在や事象を尊ぶ子どもだったそうだ。ワクワクしたり、信じたり、ときに警戒したり。ところが物心がつくと、窮屈な環境や習慣、ジェットコースターや巨大迷路のような人生のアトラクションに翻弄されていく。習い事にお勉強、人間関係、住まいや暮らしぶり。いつしか〝目に見えるなにか〞に囚われたり、こだわったりして、人生を彷徨うことになる。青春時代とはそういうものかもしれないけれど、それにしたってもっと上手くやれたかもしれない。

▲全日本学生テコンドー選手権大会、団体型決勝。毎晩深夜まで公園の街灯の明かりで影を見ながら練習をした。

感性豊かな文系気質をもちながら、大学では有機化学について研究したというバリバリの理系。人知れず蓄積されていったストレスやコンプレックスに立ち向かうべく始めたのがテコンドーだった。都会でのひとり暮らしゆえ、護身にもなる。周囲を見返したくて圧倒的に鍛錬を積み、果たして学生チャンピオンになったのだから、それは素直にすごいこと。ところが、頑張りすぎてちょっと疲れてしまった。

▲雨上がりにはコケや地衣類も愛でながら歩く。これは吉野の山中で発見した植物。

そのときの救いが、休むために出たひとり旅であり、予約も伝手もなく行きついた東北の小さな民宿。季節は真冬、暖かい部屋と布団。急きょこしらえてくれた、ありものだけどおいしい食事。なんでもないようなことが、ふーちゃんの身心に沁みた。涙がこぼれ落ちた。自分が疲れていることを自覚するのに十分なできごとだった。旅って大事だね。

▲なにもしないをするために出たひとり旅。ずっと電車に乗り続けるだけの旅。雪の東北をひたすら北へ向かう。

この貴重な体験から、世の中の役に立つ大きなことよりも目の前の人へ向ける優しい気持ちに満ちた場をつくりたいと志すことになる。そうしてたどり着いたのが吉野のゲストハウスのおかみの修業であり、そこで接したのが山伏の修行だった。国軸山金峯山寺での得度に向けた第一歩である。

▲なんのしがらみもなく、圧力もなく、知らない人しかいない旅。ひたすら電車に揺られてずっと遠くへ。夢のような時間だった。

修行の中で向き合う、囚われとこだわり。いつしか、世のため人のために祈る自分がいる。

▲時折、山が見せてくれる神々しさ、美しさと出合ったとき、理屈抜きで手を合わせたくなる。そのような場面に出合えたとき、お客さまに共有できたときこそが至福のとき。

ふーちゃんと話をしてから、僕にとっての人生や仕事とはなにかを考え続けている。自分を縛る囚われやこだわりを超えて、他者に感謝とリスペクトを向けられるようになったら、世界は美しく爽やかな風景に満ちるだろう?そう金峯山寺の蔵王権現がささやいている気がする。ふーちゃんのことを書こうとすると、なぜか自分自身と向き合う流れになってしまった。もしかしたら、ふーちゃんは、彼女自身に相手を投影させるような鑑の力があるのかもしれない。それって神か仏か、はたまた権現のなせる業じゃないか。

▲初めて山に入る方といっしょに歩いた日には、息をのむような絶景が。

さて、あまりの情報量の多さに、これ以上まとめることが難しい。奥深し、山伏。ふーちゃんは妙義自然の家プラスの館内に勤行部屋をもっているし、普段は富岡市妙義ビジターセンターに勤務している。ピンときた読者のみなさんは、実際にふーちゃんと会って、自分なりに〝その先〞を感じてほしい。どちらにも不在のときは、きっと吉野で修行中。

 

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PROFILE

大内征

ランドネ / 低山トラベラー、山旅文筆家

大内征

歴史や文化をたどって日本各地の低山を歩き、ローカルハイクの魅力を探究。NHKラジオ深夜便、LuckyFM茨城放送に出演中。著書に『低山トラベル』など。ライフワークは熊野古道。

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