
トレランは、人生にとって大切なものを教えてくれた――井上咲楽さん|だから、私は山へ行く#32

ランドネ 編集部
- 2025年07月04日
山を愛し、山とともに生きる人に迫る連載「だから、私は山へ行く」。今回は、タレントとして活躍する井上咲楽さん。 まだ見ぬ景色を目指して、自然のなかを走る喜びとは。
トレランは、ぜいたくで幸せな旅の時間
「基本的に、上りでは歩いている時間も多いんですよ。だから、目の前に走れそうな下り道が現れると、うれしくなります。『こんなにきれいな景色のなかを走れるなんて、本当にぜいたく!』って」
井上咲楽さんは、弾けるような笑顔で話す。タレントとして活躍するいっぽう、ランナーとしての顔をもつ咲楽さんはいま、トレイルランニングに夢中になっている。
舗装路から山の道へ
栃木県益子町の自然豊かな環境で育ち、2015年に「憧れていた」芸能界に入った井上咲楽さん。幼いころから走ることが好きで、学生時代は駅伝部に所属していた彼女が走る姿を、テレビで目にしたことのある方も多いはず。
これまで数々の大会に出場し、フルマラソンでは、3時間20分50秒の自己ベスト記録をもつ咲楽さん。2023年に出演したテレビ番組が、トレイルランニングを始めるきっかけになったそう。
「ある番組の企画で、箱根外輪山を50㎞走ることになったんです。完走はしたものの、ボロボロで(笑)。ロードとはまったく別競技だと感じました。ただ、その番組でサポートしてくれたプロウルトラトレイルランナーの宮﨑喜美乃さんが『咲楽ちゃん、山に向いてるよ』と言ってくれて、その後、宮﨑さんに山に連れて行ってもらうようになったんです」

2024年の夏ごろから本格的にトレランを始め、現在は月1回ほどのペースで山へ通う咲楽さん。トレイルランニングの大会にも初挑戦し、昨年11月の「日光国立公園マウンテンランニング大会」で年代別女子の1位に輝いている。
いまやすっかりトレランに魅了された咲楽さんにとって、山を走ることのおもしろさとは?
「ロードを走ることも大好きだけれど、私の場合、どうしても記録を追い求めてしまうところがあるんです。でもトレランだと、宮﨑さんのようなトップの選手でさえ、トレイルにスマホやカメラを持っていっていて『きれい!』と写真を撮ったり、立ち止まったりする。記録だけじゃない楽しみ方があることが、すてきだと感じました。それにトレランでは、寒くなったらシェルを着なきゃいけないし、お腹が空く前に補給食を食べなきゃいけない。がんばって心拍数を上げすぎると、結果的に走り切れなくなったりもする。自分の体をより繊細に理解しなきゃいけないところも、おもしろいです」

一歩一歩に集中する。自然と一体になるような 不思議な感覚が訪れる
マラソンとトレランでは、走るときに考えていることも違うそう。
「ロードでは、仕事のことや日々のことなどを考えながら、淡々と走っていることが多いけれど、トレイルの下りで考えごとをしていたら足を挫いてしまいます(笑)。次の一歩をどこに置くかにひたすら集中している感じが、気持ちいいですね。とくにすごく疲れていると、次にふむべき場所が、ぱっと光っているように見えることがあって、自分でもびっくりするようなスピードで走れたりして。そんなときは、自然と一体になれている気がして、うれしくなります」
日光や秩父、富士山や霧ヶ峰など、これまで走った山で好きな場所はたくさんある。トレイルから眺めた風景や走り終えたあとの達成感はもちろん、〝旅〞としての楽しさもトレランの魅力だという。
「山に向かう途中のサービスエリアで補給食用にご当地名物を買って、美しい景色のなかを走る。山から下りたらおいしいものを食べて温泉に入って、夜は疲れ果ててぐっすり寝る。そんな1日を友人とすごせることは、とても幸せなこと。体力的にはもちろん疲れるけれど、すごくリフレッシュできるんです」

トレランが教えてくれること
「トレイルを走っていると、『これは大切なことかも!』と気づいて、はっとすることがあります。たとえば、トレイルの下りでは、よく『怖くても前に重心をもっていったほうがいい』と言われます。そのほうが転びにくいし、万が一転んだときもダメージが少ないから。それって、人生でもいっしょかもしれないな、って」
地道にコツコツと積み重ねていくこと、自分としっかり向き合うこと。トレランが教えてくれた大切なことが、たくさんあるという。

このインタビューが行なわれた前日にも、6月に挑戦する「奥信濃100」(100㎞部門)に向けたトレーニングで山に行っていたという咲楽さん。初挑戦となる100㎞の道のりを走り終えたら、次はどこへ向かうのだろう。
「トップ選手の宮﨑さんに教えてもらっているからには、いつか海外の100マイル(約160㎞)レースに出てみたいです。宮﨑さんは練習中にも、海外で見た美しい景色のことを細やかに話してくれます。だから、いつかその情景を自分の目で見てみたい。もちろん、100㎞だってまだ走れるかわからないし、160㎞なんて無理かもしれない。でも、目標に向かって、少しずつ変化していく。そんな生き方がしたいんです」
明るく、前向きで、しなやかな強さ。咲楽さんはこの先、どんな道を走ってゆくのだろう。
井上咲楽さん
1999年生まれ。2015年のデビュー以来、バラエティやドラマなどで活躍。マラソンや料理、選挙演説めぐりなど多彩な趣味を生かした活動も行なう。NHK『ランスマ倶楽部』のMCを務め、マラソン大会やトレイルランニング大会にも出場する。
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ランドネ 編集部
自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。
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