
電車がギャラリーに変身。「時の間」を旅する『宇宙HIKE 写真展』レポート

ランドネ 編集部
- 2025年07月05日
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2025年6月、富士急行の一車両が「走る写真展」に変わった。車内には、山と写真を愛する宇宙HIKEメンバーと特別ゲストの作品が並んだ。テーマは「時の間」。日常の移動空間がアートの場となり、流れる車窓の景色と切り取られた一瞬の静けさが調和する、特別な体験だった。今回は、写真展初日とフォトハイクのようすをレポート。
宇宙HIKEとは?
フォトグラファー・松本茜さんが主宰する、山と写真のコミュニティ。オンラインのほか、2カ月に1度、特別ゲスト2名と歩くぜいたくなフォトハイクを開催し、フィールドでの学びや体験を重ねている。
Instagram
松本茜さん:@matsumotoakane_photo
宇宙HIKE:@uchu.hike
「自分の写真が旅をする」特別な時間のスタート
2025年6月21日(土)朝、大月駅に集まった約30名のメンバー。茜さんが撮影に携わるブランド「アクシーズクイン エレメンツ」全面協力のもと、色違いのシャツやパンツ、オーバーオールに身を包んでいた。
展示車両に乗る直前、主宰の茜さんがメンバーに語りかけた。
「電車に写真が飾られるのは、本当に貴重な経験です。美しい景色のなかを自分の写真が旅し、だれかの山人生や写真人生を開くきっかけになるかもしれない。そんな可能性を噛みしめながら楽しみましょう!」
涙と感動に包まれた電車内ギャラリー
今回の写真展は富士急行の協力により、通常運行の一車両を貸し切って開催。中吊りやドア横、窓上の展示スペースに、約70点もの作品が並んだ。白色の美しさが際立つ特殊な紙にプリントされた写真が、木製の吊り革やフローリング、青いドア、車窓からの自然光や緑と調和し、唯一無二の空間を作り出していた。
展示テーマは「時の間」。時間とともに流れる車窓の景色のなかに、メンバーが切り取った一瞬の静けさが並び、写真の魅力や本質がそのまま表れた空間だった。
「自分の写真が電車に飾られるなんて、人生で想像したこともなかった!」「胸がいっぱい」「感無量です」
展示車両に乗った瞬間から感激の声が上がり、涙を流す人もたくさん。初めて自分の写真を展示するメンバーも多く、作品選びに悩んだぶん、感動もひとしおだったという。
「人に見せるために写真を選ぶのは簡単じゃなくて、選びきれず苦しくなることもある。でも『これだ』と自分で決めて展示した時点で、それが正解。評価を気にせず、どれだけ楽しめるかが大切」
メンバーの姿を見て茜さんはそう語ってくれた。
「最近はスマホやパソコンなど、画面の中で完結することも多い。けれど、画面で見る写真と紙にプリントされた写真はまったく違う。それをこの写真展を通して体験してほしかった」(茜さん)
茜さんの作品のそばには、メンバーが「時の間」について言語化した言葉が添えられ、写真展に込めた想いや背景が伝わってきた。
貸し切りの車内は終始、ワイワイとにぎやか。記念撮影をしたり、作品について質問や感想を伝えたり。前日に誕生日を迎えたメンバーに、茜さんから花束をプレゼントするサプライズも!
特別ゲストの写真も同時展示
今回は、宇宙HIKEメンバーの作品に加え、アウトドア界で活躍する豪華ゲストの作品も並んだ。
参加したのは、柏倉陽介さん(ネイチャーフォトグラファー)、大内征さん(低山トラベラー)、野崎マスケさん(ドラマー)、柳原一信さん(ウェブマガジン『山旅旅』編集長)、鈴木千花さん(アウトドアフォトグラファー)の5名。いずれも過去のフォトハイクでメンバーとともに山を歩いた仲間でもある。
「ゲストのみなさんは、多くの人に“すごいな、カリスマだな”と思われています。SNSやメディアではそう映るかもしれないし、実際にすごい。でもふれ合うと、人間味があって、がむしゃらに取り組んでいることがわかる。だから私はそれを引き出して、メンバーに『自分たちとおなじなんだ』と感じてもらいたいな」と茜さん。
プロの作品もメンバーの作品も、おなじ列車の中で旅していた。そこに上下も優劣もない。第一線で活躍するプロも、好きで夢中になって撮るメンバーも、本質はおなじで境界線はない。そんな茜さんの思いが、展示からも伝わった。
鑑賞後はフォトハイクへ
一行は東桂駅で下車し、フォトハイクがスタート。メンバーは、田んぼや滝、草花、水流など、あらゆる被写体を夢中で撮影し、なかなか前に進まない。でも、みんなマイペースに楽しんでいて、その表情は生き生き。
「フォトハイクでは撮影に夢中になりすぎて、いつもなかなか目的地にたどり着けないんです。高尾山に登頂できなかったこともあるくらい(笑)」とメンバーのひとりが笑って教えてくれた。
最初の目的地は、大正7年創業の老舗「菊池わさび園」。富士山に降った雨や雪が40年かけて湧き出した水を使ってわさびを栽培している。この日は30℃を超えるピーカン。メンバーは、12℃と冷たいわさび田の水に手を浸し「気持ちいい!」と歓声を上げていた。
続いて「太郎・次郎滝」へ。ここも富士の湧き水が滴り、ひんやりとした空気が心地よい場所だった。
みんなでおにぎり弁当を広げて昼食タイム。このおにぎり弁当は、富士急行の運転士で今回の写真展とフォトハイクの仕掛け人・油井智さんが手配してくれたもの。梅や鮭など、クエン酸やタンパク質がとれる具を選んでくれた心遣いが温かい。
茜さんによる「熱血写真教室」も急きょ開催!
「いまから熱血写真教室やるよ〜!参加する人は集まってくださ〜い!」
のんびり休憩、かと思いきや、茜さんの提案で突然ワークショップが始まった。「ポートレート」「植物」などテーマに沿って写真を撮り、茜さんのOKが出るまで終われないという、恒例の催しだそう。
「いい笑顔!」「おなかを引っ込ませて〜!笑」「レンズを向けられると照れちゃうな」と、撮る人も撮られる人も楽しそう。茜さんもメンバーにアドバイスを送りながらいっしょに撮影。自由に撮り合い、写真を見せ合ってはお互いを褒め合う、和やかな時間だった。
太郎・次郎滝をあとにし、「長慶薬師霊命水源」へ。「バイカモ」と呼ばれる水草が広がり、一面に小さな白い花が咲いていた。
ここでもメンバーは夢中で撮影。画角を変え、露出やシャッタースピードを調整し、試行錯誤しつつ自分なりの一枚を追い求めた。気づけば1時間があっという間に経過!
心を写す、宇宙HIKEの旅はつづく
「みんな、フォトハイクを最大限に楽しもうとする姿勢がひしひしと感じられました。流れに任せず、自分で楽しもうとするからこそ、本当に楽しめる。その姿勢には毎回感心させられます」と、茜さんはフォトハイクを終えた感想を教えてくれた。
宇宙HIKEの活動は、写真という表現を通じて自分を豊かにし、人と人とをつなぐ可能性を広げている。
今回の写真展は終了したが、展示作品は特設サイト(このサイトはWeb制作に強いメンバーのお手製!)に掲載されている。ぜひその世界をのぞいてみては。
「宇宙HIKE 写真展」特設サイト
https://uchuhike.portfoliomyself.com/
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ランドネ 編集部
自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。
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