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四角友里のにっぽん“食”名山#09 茶屋雨巻の石窯ピッツァ

「ピザ」がおいしい山小屋といえば、宿泊者しか食べられない「薪ストーブピザ」が絶品の北御嶽・五の池小屋、「ピザ祭り」の行われる爺ヶ岳・種池山荘、3種の地獄ソース(タバスコ)をかけていただく「エンマ様のホットピザ」の立山・みくりが池温泉などが思い浮かびますが、今回は秋〜春におすすめの里山歩きで食べられる本格的な「石窯ナポリピッツァ」をご紹介します。

 

その石窯ナポリピッツァの食名山は、栃木県芳賀郡益子町にあります。益子といえば、”益子焼”で有名な陶芸の町。江戸時代から始まった益子焼は、陶芸家の濱田庄司らによる大正・昭和期の『民藝運動』によって脚光をあび、どっしりと厚手で素朴な風合いが特徴です。近ごろは、現代的で自由な作風の陶芸家さんも増えたことで進化を続け、春と秋に開催される「益子陶器市」は日本最大級の盛り上がりをみせます。

▲上)益子共販センター。益子陶器市では約500のテントが立ち並び、人気の作家さんのブーズは大行列になる。下)文久元年から続く老舗窯元『大誠窯』の登り窯

益子に出かけるときは、私も器を見たり、カフェや古道具屋さんを巡ったり。個性的で素敵なお店が多く、益子に何度か通っているうち、のどかな山里の風景に魅せられ、山歩きと合わせて旅したいと思うようになりました。そして前回、焼森山へ行った帰りに立ち寄った仁平古家具店さんから「雨巻山もいいですよ~!」と教えていただいたことをキッカケに、昨冬、山&町歩きに出かけました!(※『ランドネ』No.84/2017年2月号)

▲春には花々も多く咲くそうなので、新緑シーズンもおすすめ

標高533m。雨巻山(あままきさん)は益子町の最高峰。山頂ちかくの展望台からは筑波山や男体山、冬晴れの日には東京スカイツリーや富士山までもみえる地元で人気の山。トレイルランニングも盛んで、大会も開催されています。

雨巻山をリサーチしていくなかで気になっていたのは「茶屋雨巻」というお店。大川戸登山口駐車場のすぐそばにあり、古風な名前なのにピザ屋というギャップも素敵です。

▲現在は 新しい看板に変わっているので、お楽しみに!

▲煙突から煙がのぼる姿は、山小屋のような佇まい。町の中心部からすこし離れているため、登山をしないかたにとっては、「こんな山奥に?」と思うような場所かもしれませんが、お客様はいっぱい! 隠れ家的名店

もともと東京で暮らしていたというオーナーは、「ヒノキの豊かなこの森でなにかできたらいいな」という想いで雨巻山の麓に移り住み、店舗と住居を自分たちの手で少しずつ作り上げてきたのだそうです。それを手伝ってくれたのは地元の大工さんや窯師(かまし)さん、親交のある木工作家さんなどの頼もしい仲間たちだったと話してくださいました。

益子滞在中、何度か耳にした、この「窯師さん」という言葉。益子には、益子焼を焼く「登り窯」を作る築窯師(ちくようし)さんという存在がいらっしゃるのだと知りました。茶屋雨巻の石窯は、窯師さんが作ってくれた土台を、オーナーがピザを焼くのに適した温度になるよう改良を重ねて、今に至るのだそう。益子ならではのエピソード!!

ずらりと並んだ約20種のメニューのなかから、私たちは王道の『マルゲリータ』と『季節のおすすめピッツァ』の計2枚を注文。

▲お隣の真岡市の「とうふ工房 豆三」の油揚げを使った『豆三さんの手揚げ油揚げと九条ネギのピッツァ』も人気とのこと

▲益子や近隣の町などで採れた新鮮な野菜をつかって作られる茶屋雨巻のピッツァやデザート。旬の食材が変わるたびに、訪れてみたくなる

『益子産トレビスとパンチェッタとガーリック 有精卵のピッツァ』の登場!!!
(※2016年12月のメニュー)

▲石窯の高温で短時間で焼かれ、表面はこんがり、生地はもちもち!

シンプルだけにごまかしのきかないナポリピッツァですが、焼き加減と素材を活かした味付けが絶妙! もっちりとした生地と香ばしさがたまりません。自然豊かな野外席で食べると、ひときわおいしい。

▲茶屋雨巻は登山口の”すぐそば”というよりも”雨巻山そのもののなか”にあるような立地。山に溶け込むように建てられたお店は、「下山後に建物に入った」という感覚がなく、登山道にある東屋で過ごしているような、山歩きの余韻を残したまま食事のできる空間

▲野外席には、蜘蛛の巣のように美しいタープとパラソルヒーターがあるので、冬でもあったか!

さて、こちらは私の注文した『自家製はちみつレモンジンジャー』。

▲輪切りのレモンがいっぱい! そして器もかわいい!

あれれ? 横をみると、コーヒーを注文したランドネ編集部・安仁屋さんの器が違います。

マグカップはそれぞれ陶芸家さんのもので、青い瑠璃色のカップは、益子の陶芸家・阿久津忠男さん作。そして黄色いカップは、山を隔てて隣接し、益子と歴史的にも深いつながりを持つ、もうひとつの陶芸の町・茨城県の笠間在住の額賀章夫さんの作品なのだそう。

手のひらでマグカップを包むと土の温もりが、唇がふれると土の粒の感触が伝わってきて、私は「土に触れた」気がしました。そして観賞用ではない“用の美”、使ってみることでこそ輝き出す器の魅力を知ることができたのです。よく野菜に生産者さんの名前が記されていることがありますが、手仕事で作られた作家さんの器が、そんなふうにぐっと親しみのある心のこもったものに感じられてきました。

益子焼特有の風合いは、益子周辺の里山でとれる砂気の多い原土を成形し、登り窯を使って薪の火力でじっくり焼き上げられることで生まれます。陶芸家の方々が土と対話をしながら捏ね、炎と向き合い器を焼き上げる姿と、このピザが作られていく厨房での光景がリンクするようにも思いました。

じつは益子には地産地消や天然酵母にこだわった美味しいパン屋さんがいっぱい!! パンの食名山の町ともいえるのですが、「パン」と「器」は、どちらも手で捏ねて焼くものなので、その共通点も奥深いです。

▲日曜日だけオープンするパン屋さん「Gallery WORK SHOP 770」には、天然酵母パンやアイスクリーム、陶器や木工雑貨なども並ぶ。

▲茶屋雨巻のように、益子のカフェやレストランでは益子焼の器でお料理や飲みものが提供されたり、食材も地産地消というお店も多い。写真は「ヒジノワ」にて

山を歩くことで触れた自然。器という形に変化した土。そしてその器にのった料理。

「生きる」に直結する“食べる”という行為に必要な食材も器も”地のもの”という、土地に根付いた一食は、益子ならではの贅沢な組み合わせ。この土地の風土でこそ生まれたものをいっぺんに味わえる! 益子とはそんな特別な「食名山」の場所なのです。

「雲がかかると雨が降る」、「雨や霧が巻く山」などのいわれがある雨巻山。空気中の水分量が多く、ヒノキの生育がよいそうです。春にはカタクリやミツバツツジなどの花々が咲き、山頂付近にはブナ林もあります。登山口のポストに入っている『雨巻山登山イラストマップ』は、益子町公式ホームページからもダウンロードもでき、足尾山・御嶽山・三登谷山と縦走するコースも人気。今回は下山後の町巡りもしたかったので、大川戸登山口からメインコースを使って雨巻山山頂へ行き、下山は尾根コース経由という約2時間半のハイキングコースを選びました。

Data:茶屋雨巻
栃木県芳賀郡益子町上大羽1234
TEL.0285-77-5354
営業時間:平日11:30~ 15:00(L.O14:30)/土日祝~16:00(L.O15:30)
定休日:月・火、第1、3、5水曜
マルゲリータ 1,300円
http://www.amamaki.com/top.html

写真:小澤義人、四角友里、安仁屋円香

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ランドネ 編集部

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自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。

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