モデル仲川希良の「山でお泊まり」長野県・飯山編Vol.4
ランドネ 編集部
- 2019年03月01日
『ランドネ』9月号からスタートした、モデル/フィールドナビゲーター仲川希良さんの新連載「山でお泊まりレポート」。
スペースの関係で誌面に収めきれなかった情報は、こちらのサイトで偶数月に美しい写真とともにお伝えしてきます!
第4回目は、フィンランドからのお客様、アーティストのテーム・ヤルヴィさんといっしょに長野県飯山へ。日本ならではの山と里の文化や歴史、信仰を味わってきました。
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長野県飯山への旅、二日目。
山のそばの里の暮らしを味わおうということで、蕎麦打ちと紙すきを体験しました。
信州といえば蕎麦!
その背景には山間の冷涼な気候、火山灰土の痩せた土地が蕎麦の栽培に適していたことが挙げられますが、信州蕎麦の歴史には山伏が深く関わっているのだとか。
主食の米、麦などを断つ荒行があった山伏たちは、山での修行中に蕎麦を携行していたそう。そのため山伏の移動とともに、信州に蕎麦が持ち込まれ、また広まっていったと考えられています。
この日は小菅の里で山伏の志田さんが育てた蕎麦を使って、テームさんはもちろん、わたしにとっても初めての蕎麦打ちをしました。
▲ツヤツヤの蕎麦の実
▲志田さんの指導のもと、いざ!
蕎麦粉に指を差し入れてみると、そのひやっと冷たくきめ細やかな感触に、思わず息を飲みました。
粉に水を加えて少しずつまとめ、こねていきます。
▲予想以上に力がいる……
▲志田先生の途中チェック!
一つひとつの動きに集中してグッグッと力を込めるうち、自然と無言に。
力持ちのテームさんは私よりずっと早くこね上げていました。
▲段々とツヤが
まとまった生地を綿棒で伸ばして、たたんで。最後は細く切る作業です。
▲太さを揃えて少しずつ……
▲テームさんの真剣な眼差し
▲テームさん作。上手!
蕎麦は打つ人の力や体温で、同じ粉でも全然違う味になるといいます。
志田さんとテームさんと私、3種の蕎麦を別々に茹でて味比べをすることにしました。
小菅に住む方が差し入れてくださったおかずといっしょに、いただきまーす!
▲打ちたて、茹でたて
▲ワサビも採れたて
蕎麦の繊細な味の差が、私に分かるかしら?なんて心配していたのですが、三者三様、まったく違ってびっくり。コシや香りの立ち方……。私は華やかな力強さを感じるテームさんの蕎麦に一票!
太さにばらつきがあるところも含め自分の打ったものも愛おしく、いつも以上にじっくりと蕎麦の味を楽しみました。
▲小菅のおいしいものだらけ
今回の蕎麦は、志田さんが小菅の放棄地を畑にして、里のみなさんといっしょに作ったものだそう。
添えられた野菜の天ぷらと柿のサラダ、そしてワサビも里で採れたもの。山が育んだ恵みに感謝するひとときでした。
志田さんとお別れをして、今度は飯山市のお隣の木島平村へ。この辺りでは江戸時代から「内山紙」と呼ばれる和紙が作られています。
紙すきを体験させてもらうために、「内山手すき和紙体験の家」を訪ねました。
▲内山手すき和紙体験の家
雪晒しという技法が内山紙の特徴。原料となるこうぞの皮を雪の上に並べ、太陽の紫外線と雪の水分で漂白するんだそう。
その美しい白さと、薬品を使わず仕上げるためとても丈夫であることから、障子紙などに重宝されてきた歴史があります。
▲こうぞ
▲こうぞの皮
雪晒しでこうぞを漂白したあとは、繊維を煮たり攪拌したり、そしてもちろんすくときも、あらゆる工程でたくさんの水が必要となります。山のふもとで湧き出る豊富で清らかな水があるおかげで、それらが可能になります。
▲龍興寺清水
内山手すき和紙体験の家のそばにある龍興寺清水は、飲料水を汲みに来る人があとを絶えないほど美しくおいしい水。
かつてはこの水が紙すきにも利用されていたそうで、今も湧き続けることなんと1日1200t。
内山紙もまた、この土地の自然の恵みで生まれたものなのです。
▲すき方を教えていただいて、いざ!
▲繊維が溶け込んだ原料液はトロリと重い
すだれのような網がはめられた木枠で原料液をすくい上げ、木枠を揺すって繊維同士を絡ませます。この作業を3回繰り返し。
網の隙間から水が溢れ落ちるほんの少しの間に、繊維を均一な厚みに広げるのはなかなか難しく、かすかな緊張感が漂います。
枠から外した紙は脱水機にかけ、熱を持った版に貼って乾燥。
▲刷毛でしっかり伸ばしながら
「蕎麦打ちのときも感じましたが、瞑想のようですね」と、紙すきの感覚を表現するテームさん。
自然の素材と向き合い、自分の体を使って同じ動きを繰り返す。その静かな時間は、確かに私の心を落ち着けてくれるものでした。
▲できあがった紙を手に、うれしそう
絵を描くときに墨を使うテームさん。いつか和紙が作品に使われるなんてときもくるでしょうか。
テームさんの作品の多くはフィンランドの森の中の動植物をモチーフに描かれ、インテリアとして家で楽しむことができます。
森のなかで過ごすことを愛することで知られるフィンランド人ですが、フィンランドのインテリアには、自然の良さを明るく大胆にデザインして取り込んでいるものがたくさんあります。日がほとんど昇らない長く暗い冬の間、少しでも家のなかで心地よく過ごすためです。
▲クマを描いたタペストリー
▲テームさんが捉える動物の姿は生命力を感じる
国土の7割が、山である日本と、森に覆われるフィンランド。似ているところも、違うところも、それぞれの国の歴史や文化には、その自然環境が深く関わっています。
テームさんと一緒に楽しんだことで、山が育んだ日本について、改めて一歩深く考えることができた山旅となりました。
***おまけ***
テームさんの日本での個展で、心魅かれたブランケット。
針葉樹の葉っぱの模様で、これに包まれたら森の木々のそばにいるように心地よいだろうなと思って買うことにしたのですが……なんとブランケットのタイトルは、「SHINRIN-YOKU」。そう、まさに森に包まれる、「森林浴」。
あとから気づいたこの事実に、ブランケットへの愛着がますます湧いたのでした☆
写真◎後藤武久
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PROFILE
ランドネ 編集部
自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。
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