山小屋の電気や水、トイレってどうしてるの?気になる裏事情を聞いてみました
ランドネ 編集部
- 2021年08月18日
教えて、山小屋の裏事情
心地よい山小屋の滞在時間を作り出すスタッフのみなさんは、山の環境にどう向き合っているのでしょうか。八ヶ岳・赤岳鉱泉のご主人、柳沢太貴さんに伺いました。
Q1
荷揚げはどう工夫している?
ヘリ輸送を、夏や冬の繁忙期は月1回ほどのペースで行ないます。一度に600kgほど積めるので、ドラム缶の燃料タンクや、ジュースやビールといった飲み物などの重量がかさむものと、冷凍食品などのスピードが重要なものを運びます。いっぽうで、背負って運ぶ「歩荷」も欠かせません。野菜などの新鮮な生鮮食品が中心ですが、ヘリが天候不良で遅れることもあるので、万が一の備蓄のためでもあります。
Q2
電気はどう確保している?
水力発電とディーゼル発電でまかなっています。4〜11月までは、おもに水力発電。12〜3月は北沢の水量が減り、半分ほどしか発電できないのですが、暖房などで消費量は3倍程度にふくらみます。夏場でも、台風や集中豪雨の影響で土砂や葉っぱが詰まり、思うように発電できないことも。そんなときは小屋と堰堤に用意しているエンジンを回して発電します。食材を保管している冷凍庫が止まると大変なので、すぐに復旧できるシステムを整えています。
Q3
水はどこから流れてくる?
比較的、水は豊富な環境です。飲料や調理に使う水やお風呂には、湧ぎ水を使っています。冬は湧き水が凍ってしまうこともあるので、ペットボトルの水を数百リットル準備してあります。どういうわけか、湧き水は凍りやすく、沢水は凍りにくいという特徴があります。そのため、冬場に小屋横に設営するアイスキャンディ(クライミング練習用の人工氷壁)には沢水を使っています。ほかの小屋では、雨水や雪渓を使っているところもあります。
Q4
標高が高いと調理はむずかしい?
標高が高い場所では沸点が低くなり、調理がむずかしいものもあります。測ったことはありませんが、標高2,200mの赤岳鉱泉では、90度ぐらいだと思います。そのため普通に白米を炊くと、芯が残ってしまうので、圧力釜を使っています。炒めものや煮物には影響はあまりありませんが、麺を茹でるのはひと苦労。ですが、研究を重ねた結果、軽食メニューのラーメン用に、芯が残らずコシもある麺を探し当てました(笑)。
Q5
洗濯するのは大変?
水は豊富なので洗濯しやすい環境ですが、問題は洗濯機選びです。最新の全自動タイプは、電気をたくさん使ううえ、電圧の変動がある自家発電なので、すぐに壊れてしまいます。水に石や砂が混じっていることもあるため、2層式の簡易なモデルを重宝しています。じつは掃除機なども最新鋭、高性能な電化製品ほど壊れてしまいます。電化製品メーカーさんには、ぜひ今後もシンプルでタフなものを開発してもらいたいですね。
Q6
トイレはどうなっている?
18年前に小屋のトイレを、汲み取り式からバイオトイレに換えました。それとおなじタイミングで、水力発電を整えています。というのも、浄化槽を24時間稼働させて温度を保たないとバクテリアが死んでしまうため、電力が多く必要になるからです。以前はへリでし尿を下ろしていましたが、いまはその頻度も減りました。そのおかげで、スタッフの労力も、自然への負荷もずいぶん減ったんじゃないかなと思います。
Q7
スタッフが暮らす空間は?
宿泊者用の寝室とは別に、スタッフ用の男子部屋と女子部屋があります。スタッフは24時間、仕事とプライベートの垣根もなく、衣食住をともにしています。そのため、相部屋でも休息時間にはなるべくプライベート空間を作れるように、カーテンで仕切るなどの工夫をしています。
Q8
お風呂には入れる?
小屋の裏に、スタッフ専用のユニットバスがあります。宿泊者にお風呂を開放しているのは夏〜秋のみですが、長期間ここで暮らすスタッフは、冬だからといって入らないわけにはいきません。そこで水が凍ってしまう冬は、ボイラーを回して、お湯を確保しています。接客業なので清潔を保てるように、二日に一度は入浴することを基本としています。ですが、歩荷をして汗をかいた日などは臨機応変にお湯を沸かし、清潔を保っています。
Q9
お休みはどれぐらい取れる?
アルバイトさんは、月に5日。社員は月に5日と、閑散期の4月か11月に1ヶ月お休みをとれます。一般的な会社のように、土日休みというわけにはいかないので、まとめて休みをとることが多いです。すぐに街に下りる人もいれば、そのまま山を縦走しにいく人もいます。(ちなみにご主人の太貴さんの休みはほぼゼロ。ほぼ毎日、登山道を“通勤”しています。その姿を見かけたら、ぜひ心のなかでエールを!)
(出典/「ランドネ 2021年9月号 No.119」)
- BRAND :
- ランドネ
- CREDIT :
- 写真◎加戸昭太郎
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PROFILE
ランドネ 編集部
自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。
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