高山植物（山の花好き）ライター・成清陽の「ヤマノハナ手帖」#2 ナナカマド

登山＆撮影をライフワークとする花ライターがお送りする、高山植物の偏愛記。静かに、しかしアツ～く、お花をご紹介します！

第２回目となる今回は、「ナナカマド」。秋を迎えるまではマイナーな存在ですが、“山の神様のお祭り”とも呼ばれる紅葉シーズンともなれば、メインキャストに早変わり！「錦繍」（きんしゅう）、「真紅」、「山が燃えるよう」……。さまざまに表現される紅葉の影には、いつもナナカマドがいるのです。今回は、その素顔を紐といていきましょう。

夏限定の名店「Barナナカマド」

バラ科
一般的な花期：6月～8月
おもな生育場所：高山の林縁部や林内など

「ナナカマドって、花咲くんだ！」と意外に思う人もいるかもしれませんね。そう、ナナカマドもちゃんと夏山を彩っているんです。ただ、白い花がイマイチぱっとしないのか、あまり意識はされません。しかし、隠れファンはいるもので……写真を良く見てみると、ハエやハナアブたちがいるのがわかりますか？　花の匂いがちょっとエグく、さらに蜜や花粉が多いのでしょう、花の上はいつも大にぎわい。夏のナナカマドは、昆虫たちの大衆食堂であり、お洒落なカフェであり、婚活パーティー会場のBarでもある――いわば、食べ●グ上位の名店なのです。

見分けポイントは、いたってシンプル

さて、ちょっと親しみが湧いたところで（湧きましたよね？笑）、ナナカマドの見分け方法をお伝えします。ポイントは、たったふたつ。ひとつめは、「葉っぱが鳥の羽のようにたくさんつく」。ふたつめは、「若い樹の樹皮はツヤのあるダークブラウン。そこに白いまだら模様がある」。登山シーンでヒントになりやすいのは、やはり葉っぱ。写真から、やや赤みを帯びた軸に、ミニサイズの葉っぱが10枚以上もついていているのがわかります。葉っぱのふちが細かくギザギザしているのも、ポイントです。

アイヌ人との関わりもあった！

山で出会うナナカマドは、とても表情豊かです。なかには、中心部がすっかり腐り、らせん状になった外皮のみで仁王立ちするツワモノも。そんな生命力にあふれるナナカマドは、中部～北日本まで分布しており、アイヌ文化とのご縁も深い樹木です。しなやかな若木の外皮を削ったものは「キムンクワ」（山杖）と呼ばれ、トラバース＆斜面の滑走に利用されてきました。アイヌの人々にとっては、生活必需品だったというわけです。

見た目はかわいい、でも食べないで！

山が秋めく９月初旬、「ウラジロナナカマド」の果実に出会いました。霧のなかのナナカマドは、幻想的。これが秋本番ともなると、真っ赤に色づきます。ところで、これを見て「美味しそう」と思うのは、ワタクシだけではないハズ。ある日、とある温泉地でナナカマドの果実をつまみ食いし、びっくり仰天しました！苦く、酸っぱく、渋い、三拍子が揃い踏み。この“究極の見かけ倒し”な果実は、野鳥にも人気がないのか、真冬でも樹上に残ります。ウワサでは、果実酒は美味しいと聞きますが……。

秋のスーパースター

でも、なんといってもナナカマドがもっとも輝くシーズンといえば、秋ですよね～！上の写真の赤い部分は、ほぼすべてがウラジロナナカマド、そしてタカネナナカマドの２種類。この圧倒的な景色見たさに、老若男女がこぞって山へ足を運び、新聞社はヘリを飛ばします。紅葉の絶対的エースを、だれもが待ち焦がれているのです。

今月末、いよいよオンステージ！

９月末～10月上旬は、いよいよ秋本番。今年のナナカマドは、どんな表情を見せてくれるでしょうか？　山行もはばかられる今日このごろですが、願わくば紅葉真っ盛りの山々にすっぽりと包まれたいものですね。

それでは、また。
みなさまのココロに、素敵な花が芽吹きますように。

花ライター／会社員
成清 陽
大学時代から山を渡り歩いていた個性派キャラ。卒業後も、好奇心の赴くままに職を転々とし、自然ガイド、環境コンサル、ホテルマン、雑誌編集者、市営公園管理人を経て、現在は森づくり事業を担う会社員。好きな山は尾瀬、白山、御嶽、北岳。花が美しい山しか好きになれない、アルティメットな病なんです～！（笑）