高山植物(山の花好き)ライター・成清 陽の「ヤマノハナ手帖」#5 モウセンゴケ
ランドネ 編集部
- 2021年12月16日
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登山&撮影をライフワークとする花ライターがお送りする、高山植物の偏愛記。静かに、しかしアツ~く、お花をご紹介します!
食虫植物って、聞いたことありますか?「まったく知らない」という人のほうが、少ないかもしれません。いやおうなく興味を惹かれてしまうワケは、“植物が虫を食べる”という、どう考えても奇抜極まりない性質のためでしょう。さて、連載5回目の主役は、夏の湿原を彩る食虫植物、モウセンゴケ。その小さなカラダから想像がつかないほど、そのキャラクターは強烈です。
街を包むジングルベルはいったん置いておいて(笑)、盛夏に想いを馳せながらご笑覧ください。
穏やかな夏の湿原で、事件発生!?
モウセンゴケ(モウセンゴケ科)
一般的な花期:7月~8月
主な生育場所:平地~高山の湿原
ちらほらと花咲く、盛夏の湿原ハイキング。青空のもと、広々としたパノラマを楽しんでいると、なんだか湿原が赤い。まさか、事件では――。もしそんなシーンに出くわしたら、じっ~と目を凝らしてみてください。なんと、そ、そ、そこには……奇妙きてれつなモウセンゴケがぁぁぁ!……おっと失礼。つい、悪ノリが過ぎました(笑)。じつは、モウセンゴケの群生がある場所は、ほんのりと湿原が赤く染まるんです。モウセンゴケの「毛氈(もうせん)」は、そのロゼワインのような彩りを、紅いフェルトにたとえたネーミングなのです。
昆虫食とは思えない美人さん
ところで、モウセン“ゴケ”はコケにあらず。朝顔と同じくタネから双葉が出る「双子葉植物」というメジャーグループに所属するいっぽう、多くの人が意識すらしない花は、驚くほどの清らかさ! 清楚がウリの高山植物界がいかに広しといえども、直径数ミリかつ純白、それなのに食虫……という相反するエッセンスを持つキャラは希少です。ただ、熱烈なファンはいるものの、目立ちにくい+食虫だけあって、どうしてもメジャーキャラにはなりえません。いわば、地下系アイドルといったところでしょう(この例えが的を得ているかはワカリマセン)。
まぁるいツボミがハートにズッキュン!
清楚なのは、花だけではありません。こちらは、葉っぱの中心部からすーっと伸びてきた丸っこいツボミたち。その頭を垂れた様子が、なんと謙虚で、奥ゆかしいことか! 「花茎を伸ばしながら、下のツボミからだんだんと咲かせていく」とかいう堅ッ苦しい説明は、もはや必要ありません。どの図鑑も、「It’s so cute!(=萌え死ぬw)」ってひと言書いてあれば良いんじゃないかと。
清楚なのに、清楚なのにぃぃぃ!
えー、コホン。そろそろ「清楚」やら「美しい」、「カワイイ」だけじゃない情報を……。つまり、モウセンゴケに隠されたおぞましき真実にも触れていきたいと思います。上の写真は、尾瀬に生息する「ナガバノモウセンゴケ」のワンカットですが、真ん中やや左の葉っぱには、何やら影が……Oops! そうなんです。これぞモウセンゴケのお家芸。葉っぱから出す粘液で虫を絡め取り、ゆっくりと溶かし、吸収するのです。こんなに美しいのに、なぜ!? なぜなんだぁぁぁ~(慟哭)。
じつは、深~いワケがありまして
普通の植物なら、虫を食べる必要はないはずです。なぜなんでしょう?? その答えが、コチラ。これは、ある湿地に生えるモウセンゴケを専門家の方が引き抜いて見せてくださったシーンですが、普通の植物にあるべき根っこが……ほとんどない! つまり、栄養をほとんど吸収できない、虚弱体質なのです。ゆえにモウセンゴケの仲間は環境の変化にとっても弱く、ご多分にもれず絶滅危惧種。先ほどのナガバノモウセンゴケは、保護する必要性の高さから、尾瀬ヶ原のダム計画がストップしたとか。“清楚+貧弱=守ってあげたくなる”。モウセンゴケが電源開発にかかわるオトコたちの心をくすぐった、歴史的エピソード……かもしれません。
食虫植物と虫のコラボシーン
初秋の空気が漂う頃に湿原を訪れると、国内最小のトンボ「ハッチョウトンボ」がモウセンゴケに留まっているワンシーンにめぐりあいました。食虫植物で羽休めとは意外な気もしますが、葉っぱ以外は安全地帯なんですよね。真紅に染まったハッチョウトンボのオスは、1円玉サイズの小さなカラダで、直径1mにもなる縄張りを守る拠点として、モウセンゴケをも活用しているのでした。
さて、キャラ崩壊しながらも(これがデフォルトというウワサも)、必死にモウセンゴケの表の顔、裏の顔をリポートしてきた今回。萌え萌え系アイドル・モウセンゴケ、いかがでしたか? 「花が咲くなんて!」と意外に思った人もいるかもしれませんね。なお、モウセンゴケの仲間は平地の湿原にも少数ながら暮らしており、花色もピンクなどさまざま。ジュエリーのような粘液の輝きも含め、一見の価値アリです。ぜひぜひ、夏山の湿原を訪れてみてくださいね。新年も、アツ~く語らせていただきます!
では、Merry Christmas & A Happy New Year!
皆様のココロに、来年も素敵な花が咲き誇りますように。
花ライター/会社員
成清 陽
大学時代から山を渡り歩いていた個性派キャラ。卒業後も、好奇心の赴くままに職を転々とし、自然ガイド、環境コンサル、ホテルマン、雑誌編集者、市営公園管理人を経て、現在は森づくり事業を担う会社員。好きな山は尾瀬、白山、御嶽、北岳。花が美しい山しか好きになれない、アルティメットな病なんです~!(笑)
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PROFILE
ランドネ 編集部
自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。
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