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「だから、私は山へ行く」#15 清水ゆかりさん

北アルプスの最北部、標高2,418mの朝日岳と前朝日の鞍部に建つ「朝日小屋」を、21年間にわたって切り盛りしてきた名物女将の清水ゆかりさん。「山が好きというより、山小屋が好きなのよね」。朗らかに笑う、ゆかりさんの物語。

「だから、私は山へ行く」
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お客さんの「ありがとう」
それが、私が山に行く理由

山好きの父に導かれ
朝日小屋の“看板娘”に

「私にとって朝日岳の一番の魅力は、山全体が静かで落ち着いているところです。ここは、北アルプスの北の端で、どのルートを選んでもたどり着くのがとても大変な場所。そのぶん、人が少なくて穏やかな気配があります。がんばって『朝日小屋』まで来てくださる方には、そんな山のよさやこの山小屋の家庭的な雰囲気を、ゆっくり楽しんでほしいですね」

にっこりと微笑み、張りのある声でそう教えてくれるのは「朝日小屋」名物女将の清水ゆかりさん。富山県の朝日町で生まれ、幼いころから朝日岳を眺めながら育ったゆかりさんが、初めて朝日小屋で登山客を迎えたのはいまから50年近く前のことだ。

▲初めて朝日岳を訪れたのは、小学校3年生のとき。山を愛する父に連れられて、6月末残期の山開き登山会に参加。「よく登ってきたね」と周囲の大人に褒められたそう

「朝日小屋は、地元の山岳自然保護団体の『大蓮華山保勝会』が所有する山小屋なのですが、1973年に山好きの父が、小屋の管理人になったんです。当時、高校1年生だった私は、夏休みのあいだ、山小屋の仕事を手伝うことに。自分としては“看板娘”のつもりだったのね(笑)」

夏になると朝日小屋に上がり、“看板娘”として登山者を迎える。それは、ゆかりさんにとってかけがえのない経験になった。

「山の上の景色だったり、人と人の距離感の近さだったり、ごちゃごちゃとした空間だったり。いまも昔も、山小屋には下界とは違う独特の雰囲気がありますよね。それが、私にはおもしろかったんです。当時は、日本海の親不知と標高2418mの朝日岳をつなぐ縦走路『栂海新道』ができたばかりの時期。30kgはありそうな荷物を背負って颯爽と山を歩いてゆく猛者の姿がとてもかっこよかったし、そんな人たちを送り出す仕事が、なんだか誇らしくて楽しかったんです」

高校・大学時代の7年間にわたって小屋の“看板娘”を務めたゆかりさんだが、大学卒業後は、結婚と出産を期に、山からしばらく離れることに。ときどき子どもを連れて朝日岳に登ることはあったけれど、山小屋を手伝う時間は少なくなっていた。

山小屋に込められた父の思いを継ぐ

▲朝日平の草原に建つ赤い三角屋根の山小屋

そんなゆかりさんに転機が訪れたのは、2000年のこと。この年、朝日小屋の管理人を28年務めた父の下澤三郎さんが他界した。

「朝日小屋の管理人は、4年ごとの入札で決定する仕組み。この年は父の7期目の最終年でした。父の死に際し『これから朝日小屋をどうする?』ということに向き合わざるを得なくなりました。もちろん、私が管理人にならなくても、誰かが新しい朝日小屋を作っていってくれる。でも、私にとってはいろんな思い出の詰まった人生の一部ですし、父が残した山小屋への想いをこの先も引き継いでいきたい。だから、『私に管理人をやらせてください』と手を挙げたんです」

▲受け付けも売店も電話番もこなすゆかりさん。毎年のように小屋を訪れる常連客も

こうしてゆかりさんは2001年に朝日小屋の管理人になる。当時、42歳。4人の子どもの母でもあるゆかりさんにとって、山小屋の女将として生きることは、苦労や困難の連続だったに違いない。

「そうですね。この20年間、本当にいろいろなことがありました。でも、とにかく突き進むしかなかった。きっと好きだからできるのよね」

明るく笑うゆかりさんの言葉には、自らの意思で人生を選び取ってきた人がもつ、確かな力強さがある。

▲「山小屋の受付に座っているだけでは、登山者の気持ちはわからない」と、山歩きにも積極的に出かけるゆかりさん。近年は「平日女子スキー部」を結成し、雪山遊びにもでかける

家庭的な山小屋でありたい

▲ホタルイカの沖漬けや陶板焼き、昆布〆など、富山らしさ満点の夕食

朝日小屋に足を踏み入れると、ゆかりさんの細やかな心配りを至るところで感じることができる。たとえば受付横には「お疲れ様でした。ひと粒、どうぞ」と書かれた札とともに、甘いこんぺいとうが置かれている。また、富山の食材をふんだんに使用した夕食には、富山おでんやあつあつの陶板焼きなど、優しい味わいの手作り料理が並ぶ。

▲レトルトは極力使わず手作りにこだわるため、食材を保存する冷凍ストッカーは10個以上あるそう

「登山って体だけじゃなくって、頭も心もへとへとになるもの。遠い道のりを歩いてきたお客さんには、ほっと和めるような手作りの料理で、元気になってほしいんです」

予約の電話を受けるときから出発時の見送りまで、宿泊客と積極的にコミュニケーションを取るのも、ゆかりさん流。朝日小屋は、先代のころから『家庭的』と評判だったが、ゆかりさんもそうであり続けることを、とても大切にする。

▲スタッフとゆかりさん。小屋開けの日などには朝日小屋スタッフのOBや地元の方々も けつけてくれるそう

「『家庭的』ってありきたりな言葉だけど、すごく深い意味があると思います。私は家族と接するよう、お客さんとも接したい。だから、出かけるときは『いってらっしゃい』と送り出したいし、余裕を持って山を楽しんでほしいので『もっと朝早く出なさい』と口うるさく言うこともある。北アルプスって、一年に何回も行ける場所じゃないですし、もしかしたら一生に一度の朝日岳かもしれない。だから『朝日岳は山も小屋も良かった』と言ってもらえたら、こんなにうれしいことはないですよね。私は山に来る人に、元気をもらっているんです。それがきっと、私が山に行く理由ですね」

 

清水ゆかりさん
富山県朝日町出 。2001年から北アルプス最北の営業小屋「朝日小屋」を女将として切り盛りする。標高約2,150mの朝日平に位置する「朝日小屋」は、北又、白馬岳、蓮華温泉など、どのルートからも8時間ほどかかる奥深い場所にある

 

「だから、私は山へ行く」
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ランドネ 編集部

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自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。

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