福井県の高浜町で、心も体も整う旅

ランドネ /

ランドネ編集部

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モデルの菖蒲理乃さんが、福井県の南西部にある高浜町でひとり旅。
じつは高浜町に訪れるのは2回目。
季節がうつろい、初回とは、違った印象を受けたようで……。

旅をしたのは、菖蒲理乃さん
雑誌やテレビ、ラジオなどで活躍するモデル。屋久島の旅をきっかけに山に興味をもつように。お酒、喫茶店、カメラが好き。

ときどき、心と体がバラバラになってしまうことがある。体調は悪くないのになんとなく気分が上がらなくて、心ここにあらずという感じ。仕事や恋愛……、忙しい毎日に、心が追いつかなくなってしまったのだろうか。

そんなとき、高浜町が私の心と体を整えてくれた。初めて訪れたのは、昨年の春。どこまでも透きとおる若狭湾に沈んでいく夕日を眺めていた。あのときの光景は、いまでも一枚の写真のようにはっきりと浮かんでくる。美しい自然が、ただそこにいてくれるだけで、自分の心と体を見つめ直すことできた。すーっと肩の力が抜けて身軽になった私は、高浜町をあとにするとき「きっとまた来るだろう」と思っていた。それから一年もせずに再び訪れることになるとは。なんだか呼ばれているような感じがした。私は心のアルバムとともに高浜町へ向かった。

季節はうつろい、また違った表情を魅せていた。しんしんと降り積もった雪に音という音が吸い込まれ、静けさに満ちた景色が広がる。平静な日々を過ごす旅の始まりだ。若狭湾を見下ろすようにそびえる青葉山は、富士山のように美しい形をしていることから、若狭富士とも呼ばれている。町を見守るシンボルのような存在だ。この日も変わらずに美しい曲線を描く青葉山が、私を待ってくれていた。

青葉山のふもとにある青葉神社へと向かった。雪の積もった登山道を、足もとを確かめながら進む。静寂のなかに木の枝や屋根から雪が落ちる音が聞こえる。澄んだ空気に、ひんやりと頬が赤く染まるのを感じる。まっすぐ伸びる木々を見上げて大きく息を吸うと、体のなかがきゅっと縮むような冷たい空気が入ってきた。自然に身を置くと、当たり前が当たり前ではないことを教えてくれる。いまこの瞬間を感じるために、一歩一歩、丁寧に歩いた。

この日の若狭湾は、青いインクを水で薄めたように伸びやかだった。砂浜には、犬の足跡がどこまでも続いている。その隣に人の足跡はなく、たった一匹でどこへ行ったんだろう？と疑問に思ったが、気ままに歩く犬の姿を想像したら微笑ましかった。きっとその犬も、静かな海に誘われて、どこでもないどこかへ向かったんだろう。私も誰の足跡もついていない砂のうえを歩いてみる。どこへ行くでもいい。自分の心と体が思うままに歩こう。高浜町の海が、私に私を教えてくれた。（菖蒲理乃）